悪役だから仕方がないなんて言わせない!

音無砂月

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 その日の夜、食事は運ばれてこなかった。
 生まれは王女。現在は王妃。ただの一度もひもじい思いをしたことはなかった。
 その私が今は冷たい石壁に囲まれ、襤褸布を身に纏って腹の虫が鳴くのを我慢しながら眠りにつくことになろうとは。
 世の中、何が起こるか分からないものだ。

◇◇◇
 私の名前はレイチェル。ついこの間までオレスト国から嫁いで来たマリア王妃の専属侍女でした。
 けれど、あのシャルロッテとかいいう卑しい娘と愚かな陛下とその側近によって王妃様は宮を追い出され、私達も専属侍女を外され、代わりに卑しい娘の侍女になった。

 「ちょっと、あなたの頭大丈夫なの?こんな趣味の悪いコーデ、初めて見たわ」
 「申し訳ありません」
 「また、あの子。怒られているわ」
 「シールでしょ。あの子はだって、ほら。王妃様の専属侍女だから」
 「ああ。王妃様を意識して」
 「無理に決まっているのにね」
 「あの王妃様の美しさは生まれからにじみ出る気品もあるし、それに比べてあの子は」
 「生まれの卑しさがありありと出ているわね」
 シャルロッテは王妃の専属であった侍であった私達三人を特にいびり、何をしても文句をつけ、他の侍女よりも倍の仕事をさせていた。
 でも、誰も庇えなかった。
 シャルロッテは平民だが、彼女は陛下のお気に入り。下手に逆らえば、王宮を追われるだけではすまなくなる。
 王宮に仕えている侍女は殆どが伯爵以上の者だ。一家断絶、普段なら有り得ないかもしれないが今なら有り得る。彼女の気分一つで処刑されるかもしれない。
 「きゃっ」
 「まぁ、大丈夫?」
 シャルロッテにお茶を運んできたシオンに淹れたてのお茶をかけた。
 「シオンっ」
 淹れたてのお茶だ。軽くても火傷はする。私は慌ててシオンの元へ行き、彼女を抱き起した。
 「最悪。新しく買ってもらったドレスにお茶がついちゃったじゃない。これ、どうしてくれるの?」
 自分でお茶を溢したくせに彼女はそうやって文句を言ってくる。
 「何、その目?侍女のくせに生意気じゃないの?」
 「っ。申し訳ありません」
 「違うでしょう」
 シャルロッテは私の前髪を掴み、上を向かせた後に床に叩きつけるように私の頭を下げ、その上から足で踏んづけて来た。
 「レイチェルッ」
 隣に居たシオンの悲壮な声と部屋に居た侍女達の悲鳴が聞こえた。
 だがシャルロッテは楽しそうに笑うだけで、その行為を止めようとはしなかった。
 こんな女のせいで私達が仕えていた王妃様はあんな場所に追いやられ、今尚苦しめられているのかと思うと怒りで頭が沸騰しそうだった。
 「これ、あなた達のお給料で買えるものじゃないのよ。どうしてくれるの?」
 「・・・・・申し訳ありません」
 「でも、私は優しいから許してあげるわ。その代わり、あなた達は一生ここで王妃である私に尽くしてね」
 何が『優しい』よ。本当に優しい人間はそのドレス分以上に働けなんて言わない。
 それに王妃?平民が王妃になれるわけがない。
 この国の王妃はマリア様だ。こんな頭も股も緩い女じゃない。
 そう、言えたらどんなに良かったか。
 一介の侍女には到底できない芸当だ。
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