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side.エーベルハルト
1.努力して成果をあげても一時の愛には到底敵わない。
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「エーベルハルト、どうしてこんなこともできないの」
「母上、申し訳ありません」
「謝罪など聞きたくありません。いいですか、エーベルハルト。あなたはこのガートラント伯爵家の後継者です。間違ってもあんな女狐が生んだ子供に劣ることはありません」
「っ。は、い」
「では、今のところをもう一度です。できますね、エーベルハルト」
「はい」
肩を掴む母の力は強く、爪が食い込む。
血が滲んでいると思う。でも、我慢をする。
私はガートラント伯爵家の跡継ぎだから。
私の名前はエーベルハルト。
母の名前はオルテンシア。
母譲りの灰色の髪と薄水色の目をしている。
社交界でも美しいと評判の母に似ていると言われるのは嬉しかった。
自分は本当に母の子なのだと実感できる唯一の時間だから。
ガートラント伯爵家には私以外に子供が二人いる。
銀色の髪と緑の目を持つローラント。私の二歳年下になる。もう一人は赤い髪に緑の瞳を持つアナベル。ローラントの一つ下になる。
彼らは私の母の子供ではない。
イライザという赤い髪に緑の瞳をした侍女と私の父ガートラント伯爵の間に生まれた子供だ。
つまりは妾子になる。
イライザはほっそりとした私の母と違って肉厚で、唇もぷっくりしていて、唇の下にあるほくろも妖艶な彼女をよく引き立てていて、邸の男の人たちに人気が高い。
男の人の扱いをよく心得ているみたいで、貴族の女性らしく慎ましやかな母から伯爵の寵愛を受けるのは容易なことだった。
母は伯爵の寵愛を失ったけど、次期後継までは失うまいと必死に私を教育した。
少しでも母の期待に応えられなければ鞭を振るわれるとこもあった。
母の細い腕では満足に鞭を振るうことはできないので、鞭を入れる時は必ず男の使用人が代わりをしていた。
「そうよ、エーベルハルト。やればできるじゃない」
母は満足そうに私の笑う。
この時の母の顔は花が綻んだような顔で美して、心の底から喜んでいるのが分かるから嬉しくなる。安心するんだ。
まだ、大丈夫。
まだ、母は私を必要としてくれている。
私はまだ、母にとっては必要な存在なんだ。
そう思えるから。
だから私は必死に努力した。
勉強というのは頑張れば頑張るほど結果に反映されていく。だから私は努力はすれば必ず報われるのだと信じていた。まるでそれが自信の幸せに直結しているかのように必死に努力し続けた。
母が喜んでくれるから。それが何よりも嬉しかったから。そんなもの、なんの意味もないのだとこの時の私は知りもしなかった。
なんて、愚かだったのだろう。
十二歳、それは寒い冬の季節だった。
母が男の使用人と一緒に伯爵家から姿をくらました。その使用人は母に命令されて私によく鞭を振るっていた人だった。
随分前から二人は恋仲だったらしい。
母は私を置いて籠から飛び出してしまったのだ。
「母上、申し訳ありません」
「謝罪など聞きたくありません。いいですか、エーベルハルト。あなたはこのガートラント伯爵家の後継者です。間違ってもあんな女狐が生んだ子供に劣ることはありません」
「っ。は、い」
「では、今のところをもう一度です。できますね、エーベルハルト」
「はい」
肩を掴む母の力は強く、爪が食い込む。
血が滲んでいると思う。でも、我慢をする。
私はガートラント伯爵家の跡継ぎだから。
私の名前はエーベルハルト。
母の名前はオルテンシア。
母譲りの灰色の髪と薄水色の目をしている。
社交界でも美しいと評判の母に似ていると言われるのは嬉しかった。
自分は本当に母の子なのだと実感できる唯一の時間だから。
ガートラント伯爵家には私以外に子供が二人いる。
銀色の髪と緑の目を持つローラント。私の二歳年下になる。もう一人は赤い髪に緑の瞳を持つアナベル。ローラントの一つ下になる。
彼らは私の母の子供ではない。
イライザという赤い髪に緑の瞳をした侍女と私の父ガートラント伯爵の間に生まれた子供だ。
つまりは妾子になる。
イライザはほっそりとした私の母と違って肉厚で、唇もぷっくりしていて、唇の下にあるほくろも妖艶な彼女をよく引き立てていて、邸の男の人たちに人気が高い。
男の人の扱いをよく心得ているみたいで、貴族の女性らしく慎ましやかな母から伯爵の寵愛を受けるのは容易なことだった。
母は伯爵の寵愛を失ったけど、次期後継までは失うまいと必死に私を教育した。
少しでも母の期待に応えられなければ鞭を振るわれるとこもあった。
母の細い腕では満足に鞭を振るうことはできないので、鞭を入れる時は必ず男の使用人が代わりをしていた。
「そうよ、エーベルハルト。やればできるじゃない」
母は満足そうに私の笑う。
この時の母の顔は花が綻んだような顔で美して、心の底から喜んでいるのが分かるから嬉しくなる。安心するんだ。
まだ、大丈夫。
まだ、母は私を必要としてくれている。
私はまだ、母にとっては必要な存在なんだ。
そう思えるから。
だから私は必死に努力した。
勉強というのは頑張れば頑張るほど結果に反映されていく。だから私は努力はすれば必ず報われるのだと信じていた。まるでそれが自信の幸せに直結しているかのように必死に努力し続けた。
母が喜んでくれるから。それが何よりも嬉しかったから。そんなもの、なんの意味もないのだとこの時の私は知りもしなかった。
なんて、愚かだったのだろう。
十二歳、それは寒い冬の季節だった。
母が男の使用人と一緒に伯爵家から姿をくらました。その使用人は母に命令されて私によく鞭を振るっていた人だった。
随分前から二人は恋仲だったらしい。
母は私を置いて籠から飛び出してしまったのだ。
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