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私の言葉が癇に障ったのかメロディは眉間に皴を寄せて私を睨みつけた後、足音を立てながら荒々しく去って行った。
その様子を見ながら私はこれからのことを考える。
ハロルドとの婚約は恐らく破棄になるだろう。
メロディの言葉を肯定するのは嫌だけど私とハロルドの間には確かに愛はない。彼の脳筋なところは呆れるし正直どうにかして欲しいと思ったりもする。
でも険悪な雰囲気になったこともなかった。このまま結婚しても貴族らしい幸せな生活は送れただろう。
「義姉さん、陛下との話し合いはもう終わったんですか?」
そろそろ終わるだろうという時間を見計らってレオンが迎えに来てくれた。
彼の姿を見ると先ほどまであった嫌な感情が霧散した。
「陛下との話し合いはなんだったんですか?」
「帰って話すわ。お父様にも報告しなくてはならないから」
「分かりました」
レオンと一緒に馬車に乗り込む。
帰りの馬車の中で無言の私をレオンがずっと心配そうに見ていたけど何だか疲れちゃって口を開く気になれなかった。
それにハロルドのことを父に報告しなくてはならないと考えると気が更に重くなる。

◇◇◇

「ふざけるなっ!」
時間は遅かったけどどうせ仕事で起きているだろうから執事に言って取り次いでもらった。
そして陛下から受けた話とハロルドのことを話すと鬼のような形相をした父の怒号が執務室に響き渡った。
あまりの怒号に部屋が揺れた錯覚まで起きた。
「あの脳筋バカと婚約破棄になるのは大歓迎だけどまさか義姉さんを振るなんて何様なんだろうね。義姉さんが振るのなら分かるけどまさか振って来るなんて」
レオンからは背筋が凍り付くほどの殺気が出ている。
うわー、この部屋から出たい。
こうなることが分かっていたから気が重かったんだよね。
私のことを思ってくれるのは有難いんだけど二人の愛がかなり重い。
「婚約は破棄だ!リスティルの良さが分からない馬鹿にやれるか!」
「婚約破棄には賛成です、義父さん。王妃様にも根回しをしておきましょう。あんな馬鹿共のせいで義姉さんが傷物扱いされるのは許せないので」
「そうだな」
“馬鹿共”って陛下のことも入っているよね。
父と義弟が今後の計画を立てて笑いあう。血は繋がっていないはずんだんけど私よりも似た者親子って感じね。
まぁ、ともあれ二人の迅速な行動により私とハロルドの婚約は破棄となった。
「これから婚約者探しにパーティーに出まくらないといけないのか」
それはそれで憂鬱ね。パーティーってあまり好きじゃないし。
「出る必要ありませんよ。義姉さんには俺がいるんですから」
「一生義弟におんぶにだっこってわけにもいかないでしょう。レオンだっていつかは結婚するんだし」
「俺はしませんよ。義姉さんなら大歓迎ですけど」
「はいはい」
このままじゃあ、マジで行き遅れになる。
「お嬢様、大変です」
侍女のメアリーが慌てた様子で入って来た。その手には一枚の封書が。
「‥…不幸の手紙を見た気分だわ」」
「何ですか、それ?」
「何でもない」
私はメアリーから受け取った封書を見る。私の勘も結構当たるもんだなとちょっと感心しながらも口からは深いため息が漏れた。
「誰からですか?」
「メロディ様よ」
私の言葉を聞いてレオンは一気に不機嫌になる。
「捨てたらどうですか?」
そうしたいのはやまやまだけど相手はヒロイン。それに王宮の廊下で話した時の様子を考えるとあまり放置はしない方が良いと思う。
放置した結果、知らない間にシナリオ通りの悪役令嬢が出来上がってバッドエンドなんてのは前世にいた世界に存在した小説でもよく使われていた。
小説だからこそ無実であった悪役令嬢はハッピーエンドを迎えられたけどそれが自分に当てはまると無条件に信頼できないのは一つの行動でバッドエンドとなる悪役令嬢だからだろうか。
「お茶会の誘いみたいね」
私は読み終わった手紙をレオンに渡す。
「どの面下げてお嬢様をご招待なさっているんでしょう。しかももう王女様気分ですか?」
メアリーは憤慨する。
婚約者を奪った人間と奪われた人間。仲良くできるなんてあり得ない。それに王の妾子として認められていても王女という地位は与えられていない。
つまり今現在で彼女が公爵令嬢である私よりも立場が上ということはない。ただバックに王がいるから扱いには十分配慮しなくてはならない。
「彼女、いろんな貴族を招いてお茶会をしているようですよ。彼女の立ち位置が決まっていないから招待に応じる貴族は多いですが」
さすがはレオン。いったいどこからその情報を仕入れてくれるんだか。
それにしてもお茶会ねぇ。
確か乙女ゲームでこんな場面があったわね。

王家に引き取られたメロディは慣れないながらもお茶会を開催。当然、ゾルターン王国の公爵令嬢であるリスティルも招待された。
リスティルは出されたお茶を飲まなかった。
『下民が用意したお茶など飲めませんわ。下げてくださる』
『これは王宮の使用人達が用意してくれたお茶です。私が用意したわけではありませんので』
飲んでも大丈夫ですよとメロディは笑いながら言った。
そんなメロディにリスティルは茶葉の産地やお茶の種類などを矢継ぎ早に聞いた。そしてその質問にメロディは一切答えられなかった。
『まぁ、あなた。招待客に何か分からない物をお出しするの?なんて無礼なの。幾ら城の者が用意したからってお茶会を開催したのはあなた。お客様を招待したのもあなたよ。ならば最低限の知識は身に着けておくべきではないかしら?周りが全て用意してくれるからってそれに甘え過ぎではないの?あなたが今立っている場所はたった一つの気まぐれで簡単に揺らいでしまうものなのだから』
リスティルの言葉にメロディは耐えられなくなり泣きながら去って行った。

あれ?
言い方はきついし嫌味も含まれているけどそこまでおかしなことは言っていないわよね。
だってお茶会を開催するならマナーとか教養を身に着けてからってのは苦言でしょ。元平民だからって言い訳は通じない。じゃあ、何でお茶会を開催したんだって話だし。
それに常に暗殺の危険がある王国貴族は口に入れる物にはかなり気を遣っている。そんな人相手に何か分からない物を出すってあり得ないでしょう。貴族でなくてもそんな物を口にしたいとは思わないし。
成程、ゲームではスルーされていたことが現実に当てはめると矛盾が生まれるのね。それにリスティルの言い方や態度にも問題があった。
彼女はもしかしてただ誤解されやすいだけとか?
「お嬢様、どうかされましたか?」
「ご不快に感じているのですね。やはりあの女は消しておきましょう」
急に黙ってしまった私をメアリーは心配し、レオンはなぜか服の袖からナイフを出していた。
私の義弟は武器を忍ばせているのか。怖いな。
「何でもないわ。お茶会には参加すると返答しましょう」
「お嬢様」
「義姉さん」
二人の心配は分かるけどやはり放っておくのは怖いタイプなのよね。私の運命にも関わってくだろうし。
「彼女の扱いについては王妃様が沈黙を守っている以上様子見をする必要があるわ。今後我が家に影響してくる可能性もあるし」
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