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第Ⅲ章 現実と理想

23.sideマリアナ

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久しぶりに会ったカール様は学園で見た時のキラキラさは見る影もない。
目には濃い隈ができており、頬はこけ、顔色も悪い。
「カール様、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。問題ない」
いつもは会う度に「可愛い」とか「素敵だ」とか言ってくれるのに今は何も言ってはくれない。それどこか、私の姿すら見えていないようだ。
折角、お父様が今回の夜会用に用意してくれたドレスなのに。折角の私たちのお披露目会なのに。
「カール様、顔色が悪いです。王様に言って、お休みしましょう」
私はカール様の腕を引っ張り、踵を返そうとする。ところが、カール様は動いてくれない。そのせいで私の体は前のめりになる。
「今日の主役は私たちだ。欠席は許されない」
「でも、体調が悪いんですよね。なら、無理はすべきではないです。どうしてもと言うのならカール様は休んでいてください。代わりは私が務めます。王妃教育を受けて三か月になります。これでも、結構様になってはきています。なので大丈夫です!」
力いっぱい言う私にカール様はくすりと笑ってくれた。そしてごつごつと硬い、大きな手で私の頭を撫でてくれる。
「本当に大丈夫だから。ちょっと、最近忙しくて、疲れているだけなんだ。それに、大事なお披露目会だ。みんなに私と君を認めてもらうための。そこに愛おしい君を一人にするなんてことはできないよ」
そう言ってカール様は私に額にキスをする。恥ずかしいその行為には慣れず、俯いてしまう私をカール様は促す。
「さぁ、行こう。みんなが待ってる」
「はい、カール様」

◇◇◇

カール様の婚約者としていろんな貴族の人に挨拶をして回った。かなり疲れた。みんな知らない人ばかりだし。
お姉様も来ているのかしら。結局、手紙の返事をくれなかった。会いにも来てくれなかった。
きっと、学園生活がお忙しかったのね。
「マリアナ、疲れたか?」
「ええ、少し」
考え込んでしまった私が疲れていると心配したカール様の方が今にも倒れてしまいそうだけど。そこまで無理せずに、夜会の日程をずらしてもらえば良かったのに。と、私は今さら思い至ってしまった。
ダメね。お姉様ならきっと直ぐに思いついて、そうできるように対処したんでしょうね。ダメね。考えが及ばなくって。
「飲み物を取って来るから隅の方で休んでいてくれ」
「飲み物なら私が。カール様の方が休んでください」
「私なら大丈夫だか」
「あっ」
止める前にカール様は飲み物を取りに行ってしまった。私は仕方がないのでカール様の言った通り、会場の隅に移動した。
「ちょっと、いいかしら?」
「はい?」
赤いドレスにたくさんのふりるがついたご令嬢がたくさんのお友達を連れて私の元へやって来た。
「私はモリア公爵の娘、アリスティアよ」
「この度、カール様の婚約者になりました。マリアナです」
私はドレスの裾をつまみ、一礼をする。すると、頭上からくすりと笑う声がした。何かしら?と顔を上げるとアリスティア様と彼女のお友達が私を見てくすくすと笑っている。
「あなた、良かったわね。公爵に拾われたおかげでカール殿下とお近づきになれて。どうやって彼と親しくなったのか、その手腕を是非、私たちにも伝授させていただきたいわ」
くすくすと笑いながらアリスティア様が言う。彼女の言葉に彼女のお友達は笑みを深める。特徴的な笑い方をする人たちだ。
「ありがとうございます。私もカール様と縁が結べて、とても光栄です」
私が笑って言うと、なぜかアリスティア様は顔を引き攣らせ、額に青筋まで立てている。彼女のお友達も笑うのを止めて私を睨みつける。
私、何かまずいことを言ってしまったかしら。
カール殿下と婚約を結べたお祝いを言われたのでお礼を言っただけなのに。
「あなた、私たちを馬鹿にしているのかしら?」
「?ごめんなさい、よく分からないわ。ああ、カール様と親しくなった方法をまだ言っていなかったので怒っていらっしゃるんですね。私は特別なことは何もしていませんわ。ただ、自分の気持ちに正直に行動した結果です」
私がそう言うと、みしりと彼女たちが持っている扇子から軋んだ音がした。あの扇子、壊れかけているのかしら。変な音がするけど。教えて差し上げた方が良いわね。
「よく分かったわ。あなたは私たちを馬鹿にしているのではなく、馬鹿なのね」
「人を馬鹿にするのは良くありませんわ」
何がこの人の勘に触れたのか分からないけど、それでもそれは人に向けるべき言葉ではない。
「私は事実を述べたまでです。あなたのような者は王太子妃に相応しくないわ」
それは王妃様にここ三か月間言われ続けた言葉だ。そのせいで私も敏感になってしまった。
「あなた方が決めることではありませんわ。そうやって他人を貶めるなんて随分と貧しい心の持ち主なんですね
「何ですって」
「何の騒ぎだ」
アリスティア様が怒鳴った声と被るようにカール様の声がした。そこに視線を向けるとその流れで私は最愛のお姉様を見つけた。
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