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Ⅷ.できること
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「やぁ、デューク。久しぶりだね」
「・・・・・ああ。久しぶり」
いつも通り訓練を終え、巡回しようとしていた所ににこやかなのになぜか恐怖を感じさせるギルと彼の従兄であるアーノルドが前方から来た。
本能で危険を察知したデュークは咄嗟に踵を返したが、がっしりとギルに肩を掴まれ、逃走手段を失った。
「どこに行くんだい?」
「いや、別に」
「そう。じゃあ、この後時間あるかい?」
『ない』と言ったら絶対命はないなと思わせる疑問系にデュークは一も二もなく首を縦に振った。
「そう。それは良かった」と天使のような微笑みを浮かべているギルの隣でアーノルドに哀れみの目を向けられた。
巡回は別の奴に代わってもらい、三人で騎士が使う休憩室に入った。
勿論、人払いをして。
重苦しい空気のせいかデュークの長い黒い毛で覆われた尻尾が左右を行ったり来たりしている。
「デュークは花の乙女の時にレイラの護衛を任されたんだよね」
「あ、ああ」
話の意図が読めなかったが取り敢えず答えておいた。
今は余計なことは言わずに聞かれた質問のみに答えるのがこの場では利口だろう。
「メアリー・ブロウってどんな子だった?」
彼女のレイラに対する態度とギルのレイラに対する愛情の深さを考えてデュークの顏は真っ青になった。
「・・・・・噂通り、妄想の激しい令嬢だった。
後、身分にとても厳しくて、男好きの娼婦みたいな女だった。
俺に色目を使って来たんだが俺が相手にしなかったから平民だと馬鹿にしていたな。
おかしな妄想はするがそれを除かせれば数多いる令嬢と何ら変わりはないと思うが」
「ふぅ~ん。そう」
自分から聞いて来た割にはギルはどうでも良さそうな顔をしている。
一体何なんだ?
苛立ちが募るデュークに気づいていながらギルはそれを無視し、見かねたアーノルドが説明をしてくれた。
「ブロウ男爵令嬢と殿下が学校でかなりやらかしているんだ」
その程度ではギルは動かない。
彼が動くのはいつだって可愛い妹レイアの為だけだ。
そこでデュークは花の祭りの練習期間中のレイラに対するメアリーの態度を思い出し、自然に眉間に皺が寄った。
「その様子だと護衛期間中に既に一悶着あったみたいだね」
「あ、いや」
「私は君から何も聞いていなけど」
確かに何も言っていない。
報告の義務はない。
でも、睨まれると自分が悪いことを下みたいに縮こまってしまい「すまない」と理不尽ながら謝ることにした。
「それで、レイラがどうしたんだ?
確かに護衛中のメアリーの態度はあまり褒められたものではなかったが男爵家の人間が公爵家の人間であるレイラに何かできるわけでもないだろう」
「単体ならね。でも、そこに殿下の威光が加わった」
「どういうことだ?」
不貞腐れるギルに代わって苦笑ながらアーノルドが教えてくれる。
ギルは説明をする気がないのではないかと思うぐらい説明の殆どをアーノルドに丸投げだ。
「殿下がブロウ男爵令嬢を次期王妃にすると言っているらしい」
「は?」
「おまけに既に婚約者だと周りに言っている」
男爵家の人間が婚約者で次期王妃?
有り得ない。
平民である俺ですら有り得ないと思える事態だ。
それを現王族がやっているのか?
馬鹿王子として有名ではあるが、そこまで馬鹿だったとは。
「それだけではない」
「まだ何かあるのか?」
「レイラだ」
再びギルは不貞腐れた様にそれだけを言った。
アーノルドを見ると彼は苦笑を引っ込め、真剣なというより目に怒りの炎を滾らせながら言った。
「ギルが集めた情報によると」
学校の中の情報をどうやって集めたかは不明だ。
ギルのことだから誰か買収しているなり、スパイでも送り込んでいるのだろう。
レイラの為に。
「殿下がレイラに暴力を振るったり、ブロウ男爵令嬢をイジメたなどと妄言を吐いたり、男爵令嬢の方は食堂で堂々とスープをレイラの頭からかけたそうだ」
デュークの中で怒りの炎が燃え始めた。
「彼女は殿下の威光を使ってやりたい放題のようだ」
「殿下はそのことを?」
「知らないだろう。殿下はメアリー・ブロウの言うことしか信じないし聞かない。
殿下の中でレイラは愛しい自称婚約者をイジメる悪役らしい」
「何だそれはっ!」
思わずデュークは怒鳴っていた。
「擦り寄って来る数多の令嬢を袖にしている君がそんなに声を荒げるなんて珍しいね」
「当たり前だろ。俺に群がってくる女とレイラは違う」
「そうだよ、アーノルド。私の可愛い妹をあんなハイエナ共と一緒にするな」
「悪かったって。二人とも私に怒るなよ。
ちょっとデュークの反応が意外だったんでね。
それより、どうするの?
さすがにギルでも学校の中では手が出せないよ。
君はもう卒業しているんだからね。
ある程度自由がきいた学生とは違って今の君には仕事だってある。
私にもデュークにも」
だから余計にギルは不貞腐れているのだ。
大人になるということはできることも増えるけど、できないことも同じくらい増えていくのだ。
子供の頃は大人になれば何でもできると思っていたのに。
今はあの頃の無邪気さが懐かしい。
「今度の夜会、殿下も出席されるだろうからきっとメアリー・ブロウも出てくるよ」
「伯爵以上が出席の夜会で婚約者でもない男爵家がか?」
「デューク、そんな分別がある馬鹿なら私の可愛い妹を虐げたりはしない」
「成程」
「アーノルドはアデラを通して殿下の見張り」
「もうアデラも私と結婚して王族ではなくなったからな、ちょっと難しいんじゃないか?」
「問題ないよ。多分、陛下が許可してくださる」
「なら例の話が現実味を帯びてくるのか」
「そうなるね。頑張って」
心無いギルのエールにアーノルドは嫌な顔をした。
「デューク、騎士もたまに学校へ赴くことがあるって本当?」
「ああ。俺は行かないが先輩や騎士団長クラスになると騎士学校の生徒に剣の訓練をつけるために」
「そう。なら伯父上に話をお通しておくから今度からデュークもそれに参加して、それとなくレイラの学校での様子を見て来てよ」
「構わないが、権力使いまくりだな」
「何言ってんの。使ってこそ、権力でしょう」
貴族の中で一番偉い位置に属する貴族の嫡男が言いきったよ"(-""-)"
「・・・・・ああ。久しぶり」
いつも通り訓練を終え、巡回しようとしていた所ににこやかなのになぜか恐怖を感じさせるギルと彼の従兄であるアーノルドが前方から来た。
本能で危険を察知したデュークは咄嗟に踵を返したが、がっしりとギルに肩を掴まれ、逃走手段を失った。
「どこに行くんだい?」
「いや、別に」
「そう。じゃあ、この後時間あるかい?」
『ない』と言ったら絶対命はないなと思わせる疑問系にデュークは一も二もなく首を縦に振った。
「そう。それは良かった」と天使のような微笑みを浮かべているギルの隣でアーノルドに哀れみの目を向けられた。
巡回は別の奴に代わってもらい、三人で騎士が使う休憩室に入った。
勿論、人払いをして。
重苦しい空気のせいかデュークの長い黒い毛で覆われた尻尾が左右を行ったり来たりしている。
「デュークは花の乙女の時にレイラの護衛を任されたんだよね」
「あ、ああ」
話の意図が読めなかったが取り敢えず答えておいた。
今は余計なことは言わずに聞かれた質問のみに答えるのがこの場では利口だろう。
「メアリー・ブロウってどんな子だった?」
彼女のレイラに対する態度とギルのレイラに対する愛情の深さを考えてデュークの顏は真っ青になった。
「・・・・・噂通り、妄想の激しい令嬢だった。
後、身分にとても厳しくて、男好きの娼婦みたいな女だった。
俺に色目を使って来たんだが俺が相手にしなかったから平民だと馬鹿にしていたな。
おかしな妄想はするがそれを除かせれば数多いる令嬢と何ら変わりはないと思うが」
「ふぅ~ん。そう」
自分から聞いて来た割にはギルはどうでも良さそうな顔をしている。
一体何なんだ?
苛立ちが募るデュークに気づいていながらギルはそれを無視し、見かねたアーノルドが説明をしてくれた。
「ブロウ男爵令嬢と殿下が学校でかなりやらかしているんだ」
その程度ではギルは動かない。
彼が動くのはいつだって可愛い妹レイアの為だけだ。
そこでデュークは花の祭りの練習期間中のレイラに対するメアリーの態度を思い出し、自然に眉間に皺が寄った。
「その様子だと護衛期間中に既に一悶着あったみたいだね」
「あ、いや」
「私は君から何も聞いていなけど」
確かに何も言っていない。
報告の義務はない。
でも、睨まれると自分が悪いことを下みたいに縮こまってしまい「すまない」と理不尽ながら謝ることにした。
「それで、レイラがどうしたんだ?
確かに護衛中のメアリーの態度はあまり褒められたものではなかったが男爵家の人間が公爵家の人間であるレイラに何かできるわけでもないだろう」
「単体ならね。でも、そこに殿下の威光が加わった」
「どういうことだ?」
不貞腐れるギルに代わって苦笑ながらアーノルドが教えてくれる。
ギルは説明をする気がないのではないかと思うぐらい説明の殆どをアーノルドに丸投げだ。
「殿下がブロウ男爵令嬢を次期王妃にすると言っているらしい」
「は?」
「おまけに既に婚約者だと周りに言っている」
男爵家の人間が婚約者で次期王妃?
有り得ない。
平民である俺ですら有り得ないと思える事態だ。
それを現王族がやっているのか?
馬鹿王子として有名ではあるが、そこまで馬鹿だったとは。
「それだけではない」
「まだ何かあるのか?」
「レイラだ」
再びギルは不貞腐れた様にそれだけを言った。
アーノルドを見ると彼は苦笑を引っ込め、真剣なというより目に怒りの炎を滾らせながら言った。
「ギルが集めた情報によると」
学校の中の情報をどうやって集めたかは不明だ。
ギルのことだから誰か買収しているなり、スパイでも送り込んでいるのだろう。
レイラの為に。
「殿下がレイラに暴力を振るったり、ブロウ男爵令嬢をイジメたなどと妄言を吐いたり、男爵令嬢の方は食堂で堂々とスープをレイラの頭からかけたそうだ」
デュークの中で怒りの炎が燃え始めた。
「彼女は殿下の威光を使ってやりたい放題のようだ」
「殿下はそのことを?」
「知らないだろう。殿下はメアリー・ブロウの言うことしか信じないし聞かない。
殿下の中でレイラは愛しい自称婚約者をイジメる悪役らしい」
「何だそれはっ!」
思わずデュークは怒鳴っていた。
「擦り寄って来る数多の令嬢を袖にしている君がそんなに声を荒げるなんて珍しいね」
「当たり前だろ。俺に群がってくる女とレイラは違う」
「そうだよ、アーノルド。私の可愛い妹をあんなハイエナ共と一緒にするな」
「悪かったって。二人とも私に怒るなよ。
ちょっとデュークの反応が意外だったんでね。
それより、どうするの?
さすがにギルでも学校の中では手が出せないよ。
君はもう卒業しているんだからね。
ある程度自由がきいた学生とは違って今の君には仕事だってある。
私にもデュークにも」
だから余計にギルは不貞腐れているのだ。
大人になるということはできることも増えるけど、できないことも同じくらい増えていくのだ。
子供の頃は大人になれば何でもできると思っていたのに。
今はあの頃の無邪気さが懐かしい。
「今度の夜会、殿下も出席されるだろうからきっとメアリー・ブロウも出てくるよ」
「伯爵以上が出席の夜会で婚約者でもない男爵家がか?」
「デューク、そんな分別がある馬鹿なら私の可愛い妹を虐げたりはしない」
「成程」
「アーノルドはアデラを通して殿下の見張り」
「もうアデラも私と結婚して王族ではなくなったからな、ちょっと難しいんじゃないか?」
「問題ないよ。多分、陛下が許可してくださる」
「なら例の話が現実味を帯びてくるのか」
「そうなるね。頑張って」
心無いギルのエールにアーノルドは嫌な顔をした。
「デューク、騎士もたまに学校へ赴くことがあるって本当?」
「ああ。俺は行かないが先輩や騎士団長クラスになると騎士学校の生徒に剣の訓練をつけるために」
「そう。なら伯父上に話をお通しておくから今度からデュークもそれに参加して、それとなくレイラの学校での様子を見て来てよ」
「構わないが、権力使いまくりだな」
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