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一週間。順調とは言い難かった。魔物の襲来やヒナコの体調が悪かったりした。それでも何とかヒナコは聖女としての役割を全うすることができた。
魔王の封印を強化することに成功した。魔王からにじみ出ていた瘴気も時間とともに薄れて行くだろうということだった。

◇◇◇

「べディー・ミルドレット。お前との婚約を破棄する」
役目を終えて王宮へ戻った。
私はエイルに、ヒナコはバートランドにエスコートされながら夜会に出ていた。魔王の封印を成功させたことに対する祝宴会のようなものだと私は認識している。
私は水色のドレスを、ヒナコは聖女らしく白いドレスを着ていた。覚えたてのマナーで何とか夜会に参加していた私たちの耳に自信に満ちた殿下の声が響いた。
殿下の前には豊満な胸元を強調する赤いドレスを着た、勝気な女性がいた。彼女は確か殿下の婚約者で、私とヒナコを間違えて突っかかってきたベディー・ミルドレット公爵令嬢だ。
夜会が始まってすぐの出来事なのでまだ会場には陛下はいない。それを狙ってのことなのかもしれないが。
話に夢中になっていた貴族たちは会話を中断して殿下とべディーに注目していた。二人を取り囲むように輪っかが出来ている。
「理由を伺っても?」
べディーは額に青筋を立てながら殿下を睨みつけている。
「お前は俺の愛するヒナコを虐めた」
「えっ」
殿下の言葉を聞いて、私の一歩後ろにいたヒナコは小さな声で呟いた。視線をヒナコに向けると彼女は身に覚えのないことみたいできょとんとしていた。
それもそうだろう。地味な嫌がらせを受けていたのはヒナコじゃない。私だ。私とヒナコを勘違いしたべディーが私の部屋の前を泥で汚したり、使用人を買収したのかは知らないが、食事に虫を紛れ込ませたりしていたのだ。
「国の為にと危険を顧みずに動いてくれた聖女に対してそのような不敬を働くお前は俺の婚約者として相応しくはない」
「っ」
聖女に対する不敬を聞いた貴族たちは眉間にしわを寄せ、何やらひそひそと話し始めた。べディーが私の方を睨んでくる。
私は聖女ではないが、当のヒナコはべディーの敵意が込められた瞳にすっかり怯えてしまい私の後ろに隠れていた。代わりにエイルがその視線から守るように私の前に立つ。
「私と婚約を破棄してどうなさるの?まさか、そこの庶民と婚約するとでも仰るの?」
嘲笑を交えながらべディーは言う。
「ヒナコは聖女だ。彼女はこの世界の人間でないから身分は確かにないが。だが聖女である彼女にはお前などよりも価値がある。ただ王族というだけで媚びへつらうお前などよりよっぽどな」
べディーは握り締めた拳をプルプルと震わせた。
「こんなこと、お父様が許すはずありませんわ。私は認めませんわ!」
べディーは私に向かって扇子を投げつけた。もちろん、扇子は私に当たる前にエイルが受け止めてくれたので当たることはなかったが。
べディーは投げつけた扇子が私に当たるのも確認することなく会場から出て行った。周囲は静まり返り、殿下の次の行動に注目していた。
王族として見られることになっている殿下は数多の視線など物ともせずにヒナコの元へ来て、跪いた。
「えっ、あ、あの、エーデル様」
戸惑うヒナコの手を取り、殿下はその甲に口づける。
「ヒナコ、俺と結婚してくれ」
「け、結婚だなんて、そんな、私、まだ高校生で、そんなこと考えたこともないですし、それに未成年だし」
「未成年?ヒナコの世界だといつ成人なのだ?」
「二十歳からが成人です。でも結婚する年齢はみんなバラバラです。特に決まりもないので」
「そうなのか。随分と遅いんだな」
この世界では十六歳から成人だったなと私は殿下の反応を見ながら思った。
「そうか。なら、直ぐに回答しろというのは酷だな。分かった。では、回答はまた後日もらおう。少し頭を整理する時間が必要のようだからな」
そう言いながらも殿下は自分が断られるとは微塵も思っていない、自信に満ちた顔をしていた。
「・・・・・はい」
ヒナコは戸惑いながらも頬を赤く染めて答えた。彼女もまんざらではないようだ。
私はそんな二人から視線を逸らし、べディーが去って行った方向を見た。
べディーのあの様子だと何だかまだひと悶着ありそうだ。巻き込まれる前にさっさと王宮を出て行こうかな。荷物はある程度まとめたし。今回の夜会には陛下がどうしても言うし、ヒナコにも頼まれたし。まぁ、最後の思い出にそういう経験をしてみてもいいだろうとも思ったので参加しただけだ。
明日、報酬をもらってさっさと出て行こうと決意した私をエイルが見ていた。だが、私は自分の考えに夢中になっていたので彼の視線には気づかなかった。
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