23 / 33
22
しおりを挟む
遅れた旅程を取り戻す様に私たちは魔王が封印されている地へ近づいて行った。近づくにつれて瘴気とやらが濃くなっているのが一般人の私でも分かるぐらい空気はよどみ、その周辺にある村は廃村のようだった。
そして、瘴気に侵された獣が魔物と化して私たちを襲ってくる。
「ひっ」
「ヒナコ様。必ずお守りしますから私たちのそばを離れないでください」
恐怖のあまり本能に任せて逃げようとするヒナコをバートランドが捉える。
「バートランド、後ろっ!」
「ぐぅあっ」
ヒナコに気を取られたすきに魔物がバートランドの腕に噛みつく。それをエイルが剣で切り捨てた。
「大丈夫か?」
「あ、ああ。すまない」
「あ、あ、あ、あ」
ヒナコはバートランドの腕から流す血を見た。恐怖のあまり地面におしりをついて、がたがたと震えだす。
「ヒナコ様、立ってください」
「・・・・・む、むり」
蚊の鳴くような声で彼女はそうはっきりと言った。無理もない。本来、恐怖とは無縁の場所で生きていた。私たちはただの高校生なのだから。
「ヒナコ、立って。エイル、私たちはあの木陰に避難しているわ」
私が指をさした付近をエイルとバートランドの二人はすぐに危険がないかを探る。
「分かりました」
付近に魔物はいない。戦っている騎士たちからも距離があるので戦いに巻き込まれることもない。
「傍までは護衛させていただきます」
「ええ、お願い」
私はエイルを見て、恐怖で固まりそうになる顔に何とか笑顔を張り付けた。でないと、私も恐怖のあまり動けなくなってしまいそうだったから。
「ヒナコ、立って」
「む、むり。腰が抜けて」
「では私が運びます。エイル、全面的に戦いを任せる形になるが」
「大丈夫だ」
死線をいくつも潜り抜けた絆だろうか。二人にはこいつに任せれば大丈夫という信頼関係があるように見えた。
バートランドはヒナコをおぶる。そのせいで戦うことはできなくなったが、エイルがそれを補う。
戦いから少し離れた位置までの距離なのでそこまでの負担を彼らにかけるわけではない。現に、すぐに私たちを暗線地帯に運び、二人は離れて行った。
私はその背を見送った後、地面に座り込んだままのヒナコを見下ろした。
「ねぇ。『聖なる力』って封印を強化するだけなのかな?ああいう瘴気を払うことはできないの?前の聖女にはそれができたみたいだけど」
「わ、私に聞かないでいよぉ。わ、私は、ま、前の、聖女みたいに、できがいいわけじゃ、ないんだからぁ」
それもそうだ。下手に使って封印の場所に着いたら全部使い果たしてましたってなっても困るか。
「もう、帰りたい」
冷たい地面に座り込んだままヒナコはずっと泣いている。私はそんなヒナコの隣でエイルたちの戦いを見ていた。血を流し、倒れる騎士もいる。これが戦いなんだと私は初めて実感した。
いつもそれは画面の向こうにあった。でも今は目の前にある。一歩間違えば死ぬ世界が私の前にあった。ここが日本ではないと今更ながら実感した。
もう、戻れないんだ。あの平和な世界に。
そして、瘴気に侵された獣が魔物と化して私たちを襲ってくる。
「ひっ」
「ヒナコ様。必ずお守りしますから私たちのそばを離れないでください」
恐怖のあまり本能に任せて逃げようとするヒナコをバートランドが捉える。
「バートランド、後ろっ!」
「ぐぅあっ」
ヒナコに気を取られたすきに魔物がバートランドの腕に噛みつく。それをエイルが剣で切り捨てた。
「大丈夫か?」
「あ、ああ。すまない」
「あ、あ、あ、あ」
ヒナコはバートランドの腕から流す血を見た。恐怖のあまり地面におしりをついて、がたがたと震えだす。
「ヒナコ様、立ってください」
「・・・・・む、むり」
蚊の鳴くような声で彼女はそうはっきりと言った。無理もない。本来、恐怖とは無縁の場所で生きていた。私たちはただの高校生なのだから。
「ヒナコ、立って。エイル、私たちはあの木陰に避難しているわ」
私が指をさした付近をエイルとバートランドの二人はすぐに危険がないかを探る。
「分かりました」
付近に魔物はいない。戦っている騎士たちからも距離があるので戦いに巻き込まれることもない。
「傍までは護衛させていただきます」
「ええ、お願い」
私はエイルを見て、恐怖で固まりそうになる顔に何とか笑顔を張り付けた。でないと、私も恐怖のあまり動けなくなってしまいそうだったから。
「ヒナコ、立って」
「む、むり。腰が抜けて」
「では私が運びます。エイル、全面的に戦いを任せる形になるが」
「大丈夫だ」
死線をいくつも潜り抜けた絆だろうか。二人にはこいつに任せれば大丈夫という信頼関係があるように見えた。
バートランドはヒナコをおぶる。そのせいで戦うことはできなくなったが、エイルがそれを補う。
戦いから少し離れた位置までの距離なのでそこまでの負担を彼らにかけるわけではない。現に、すぐに私たちを暗線地帯に運び、二人は離れて行った。
私はその背を見送った後、地面に座り込んだままのヒナコを見下ろした。
「ねぇ。『聖なる力』って封印を強化するだけなのかな?ああいう瘴気を払うことはできないの?前の聖女にはそれができたみたいだけど」
「わ、私に聞かないでいよぉ。わ、私は、ま、前の、聖女みたいに、できがいいわけじゃ、ないんだからぁ」
それもそうだ。下手に使って封印の場所に着いたら全部使い果たしてましたってなっても困るか。
「もう、帰りたい」
冷たい地面に座り込んだままヒナコはずっと泣いている。私はそんなヒナコの隣でエイルたちの戦いを見ていた。血を流し、倒れる騎士もいる。これが戦いなんだと私は初めて実感した。
いつもそれは画面の向こうにあった。でも今は目の前にある。一歩間違えば死ぬ世界が私の前にあった。ここが日本ではないと今更ながら実感した。
もう、戻れないんだ。あの平和な世界に。
4
お気に入りに追加
1,404
あなたにおすすめの小説
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

現実的な異世界召喚聖女
章槻雅希
ファンタジー
高天原の神々は怒っていた。理不尽な異世界召喚に日ノ本の民が巻き込まれることに。そこで神々は怒りの鉄槌を異世界に下すことにした。
神々に選ばれた広瀬美琴54歳は17歳に若返り、異世界に召喚される。そして彼女は現代日本の職業倫理と雇用契約に基づき、王家と神殿への要求を突きつけるのだった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

【完結】召喚されて聖力がないと追い出された私のスキルは家具職人でした。
井上 佳
ファンタジー
結城依子は、この度異世界のとある国に召喚されました。
呼ばれた先で鑑定を受けると、聖女として呼ばれたのに聖力がありませんでした。
そうと知ったその国の王子は、依子を城から追い出します。
異世界で街に放り出された依子は、優しい人たちと出会い、そこで生活することになります。
パン屋で働き、家具職人スキルを使って恩返し計画!
異世界でも頑張って前向きに過ごす依子だったが、ひょんなことから実は聖力があるのではないかということになり……。
※他サイトにも掲載中。
※基本は異世界ファンタジーです。
※恋愛要素もガッツリ入ります。
※シリアスとは無縁です。
※第二章構想中!
【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!
蜜柑
ファンタジー
レイラは生まれた時から強力な魔力を持っていたため、キアーラ王国の大神殿で大司教に聖女として育てられ、毎日祈りを捧げてきた。大司教は国政を乗っ取ろうと王太子とレイラの婚約を決めたが、王子は身元不明のレイラとは結婚できないと婚約破棄し、彼女を国外追放してしまう。
――え、もうお肉も食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?
追放される道中、偶然出会った冒険者――剣士ステファンと狼男のライガに同行することになったレイラは、冒険者ギルドに登録し、冒険者になる。もともと神殿での不自由な生活に飽き飽きしていたレイラは美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。
その一方、魔物が出るようになったキアーラでは大司教がレイラの回収を画策し、レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。
※序盤1話が短めです(1000字弱)
※複数視点多めです。
※小説家になろうにも掲載しています。
※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる