私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月

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遅れた旅程を取り戻す様に私たちは魔王が封印されている地へ近づいて行った。近づくにつれて瘴気とやらが濃くなっているのが一般人の私でも分かるぐらい空気はよどみ、その周辺にある村は廃村のようだった。
そして、瘴気に侵された獣が魔物と化して私たちを襲ってくる。
「ひっ」
「ヒナコ様。必ずお守りしますから私たちのそばを離れないでください」
恐怖のあまり本能に任せて逃げようとするヒナコをバートランドが捉える。
「バートランド、後ろっ!」
「ぐぅあっ」
ヒナコに気を取られたすきに魔物がバートランドの腕に噛みつく。それをエイルが剣で切り捨てた。
「大丈夫か?」
「あ、ああ。すまない」
「あ、あ、あ、あ」
ヒナコはバートランドの腕から流す血を見た。恐怖のあまり地面におしりをついて、がたがたと震えだす。
「ヒナコ様、立ってください」
「・・・・・む、むり」
蚊の鳴くような声で彼女はそうはっきりと言った。無理もない。本来、恐怖とは無縁の場所で生きていた。私たちはただの高校生なのだから。
「ヒナコ、立って。エイル、私たちはあの木陰に避難しているわ」
私が指をさした付近をエイルとバートランドの二人はすぐに危険がないかを探る。
「分かりました」
付近に魔物はいない。戦っている騎士たちからも距離があるので戦いに巻き込まれることもない。
「傍までは護衛させていただきます」
「ええ、お願い」
私はエイルを見て、恐怖で固まりそうになる顔に何とか笑顔を張り付けた。でないと、私も恐怖のあまり動けなくなってしまいそうだったから。
「ヒナコ、立って」
「む、むり。腰が抜けて」
「では私が運びます。エイル、全面的に戦いを任せる形になるが」
「大丈夫だ」
死線をいくつも潜り抜けた絆だろうか。二人にはこいつに任せれば大丈夫という信頼関係があるように見えた。
バートランドはヒナコをおぶる。そのせいで戦うことはできなくなったが、エイルがそれを補う。
戦いから少し離れた位置までの距離なのでそこまでの負担を彼らにかけるわけではない。現に、すぐに私たちを暗線地帯に運び、二人は離れて行った。
私はその背を見送った後、地面に座り込んだままのヒナコを見下ろした。
「ねぇ。『聖なる力』って封印を強化するだけなのかな?ああいう瘴気を払うことはできないの?前の聖女にはそれができたみたいだけど」
「わ、私に聞かないでいよぉ。わ、私は、ま、前の、聖女みたいに、できがいいわけじゃ、ないんだからぁ」
それもそうだ。下手に使って封印の場所に着いたら全部使い果たしてましたってなっても困るか。
「もう、帰りたい」
冷たい地面に座り込んだままヒナコはずっと泣いている。私はそんなヒナコの隣でエイルたちの戦いを見ていた。血を流し、倒れる騎士もいる。これが戦いなんだと私は初めて実感した。
いつもそれは画面の向こうにあった。でも今は目の前にある。一歩間違えば死ぬ世界が私の前にあった。ここが日本ではないと今更ながら実感した。
もう、戻れないんだ。あの平和な世界に。
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