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あまり長居するとヒナコの体に障るので会話を早々に切り上げて私は部屋を出た。出て向かったのは神官の部屋だ。
「相談とは何ですか?」
私は神官に促されるまま窓辺に用意された椅子に腰かける。神官は用意したお茶を置いて私の向かいに座る。私はお礼を言ってお茶を一口飲む。
「『聖なる力』ほどではなくとも辺りを漂う瘴気を薄める程度の力を使える人はいないのでしょうか。このままではヒナコの体調は良くならないどころか、留まり続ければ悪化すると思います。かと言って出直せる距離でもありません」
神官はお茶を一口飲み、真っすぐと私を見る。
「そうですね。あれだけ盛大に出て行ったのに何もせずに帰るなど、国の良い面汚しです。それ故に我々は帰ることもできません。本来なら無関係であったあなた方には大変申し訳ありませんが」
そう言って神官は私に頭を下げた。
「いいえ。国を守るために仕方のないことだったと理解しています。今問題なのはここに留まり続けることです。何か打開策を打たなければなりません。それに聞いた話では瘴気のせいで作物が育たず、賊まがいのことをしている人も増えているそうですね。そんな人たちが私たちを狙ってくる可能性もありますよね。二頭馬車が二台。それに大まかな護衛もついていますし。聖女ではなくともそれないの地位を持った人間がいることは一目で分かります。賊にとっては格好の餌食です。同じ場所に留まり続けるべきではないと思います」
私の言葉に神官は苦笑する。
「どうしてあなたが聖女ではなかったのでしょうね」
ぽつりと漏らされた神官の言葉は小さすぎて私には聞こえなかった。私が不思議そうな顔をしていると神官は何でもない言う代わりに首を左右に振った。
「実はここ数日前から聖女様の周囲に結界を張り巡らせています。暫くすれば聖女様の体に溜まった瘴気が抜けて、動けるようになると思います」
どうやら神官たちはしっかりと考えてくれていたようだ。でも。
「あなたが危惧している通り根本的な解決にはなりません。結界をずっと張り続けるのも正直、難しいです」
私の考えを察したかのように先回りして神官は言う。
「彼女が動けるようになったら休みなしで魔王が封印されている場所まで行けますか?例えば、馬車ではなく騎士様たちの馬に乗せてもらうとか。邪魔な荷物は全て置いていくことはできますか?」
「・・・・邪魔な荷物、ですか?」
「ええ。派手な凱旋でこの旅に王族が加わっていることが全面的に知らしめることはできました。なら、その時点で殿下の役目は思わっているのではないですか?彼の手はエイルや他の騎士とは違う。とても綺麗な手をしています」
それは暗に殿下が剣を握ったことのない(握ったことがあったとしても嗜み程度でとてもじゃないが実践むきではない)ことを示していた。その考えは当たっていたのか神官は苦笑するだけだった。否定も肯定もしなかった。さすがに自国の王子を貶めることは言えなかったのだろう。たとえそれがどうしようもない王子でも。
「それも含めて話し合ってみようと思います」
「お願いします。すみません、何の役にも立たない私が生意気なことを言って」
神官は静かに首を左右に振った。
「いいえ。あなたに無理やりついて来て欲しいと頼んだのは我々です。それにヒナコ様がここまで来てくれたのは少なからずあなた様の存在があったからだと我々は考えています。この旅の行く末を危惧しての発言、ありがとうございます」
神官は立ち上がり、深々と頭を下げた。
「相談とは何ですか?」
私は神官に促されるまま窓辺に用意された椅子に腰かける。神官は用意したお茶を置いて私の向かいに座る。私はお礼を言ってお茶を一口飲む。
「『聖なる力』ほどではなくとも辺りを漂う瘴気を薄める程度の力を使える人はいないのでしょうか。このままではヒナコの体調は良くならないどころか、留まり続ければ悪化すると思います。かと言って出直せる距離でもありません」
神官はお茶を一口飲み、真っすぐと私を見る。
「そうですね。あれだけ盛大に出て行ったのに何もせずに帰るなど、国の良い面汚しです。それ故に我々は帰ることもできません。本来なら無関係であったあなた方には大変申し訳ありませんが」
そう言って神官は私に頭を下げた。
「いいえ。国を守るために仕方のないことだったと理解しています。今問題なのはここに留まり続けることです。何か打開策を打たなければなりません。それに聞いた話では瘴気のせいで作物が育たず、賊まがいのことをしている人も増えているそうですね。そんな人たちが私たちを狙ってくる可能性もありますよね。二頭馬車が二台。それに大まかな護衛もついていますし。聖女ではなくともそれないの地位を持った人間がいることは一目で分かります。賊にとっては格好の餌食です。同じ場所に留まり続けるべきではないと思います」
私の言葉に神官は苦笑する。
「どうしてあなたが聖女ではなかったのでしょうね」
ぽつりと漏らされた神官の言葉は小さすぎて私には聞こえなかった。私が不思議そうな顔をしていると神官は何でもない言う代わりに首を左右に振った。
「実はここ数日前から聖女様の周囲に結界を張り巡らせています。暫くすれば聖女様の体に溜まった瘴気が抜けて、動けるようになると思います」
どうやら神官たちはしっかりと考えてくれていたようだ。でも。
「あなたが危惧している通り根本的な解決にはなりません。結界をずっと張り続けるのも正直、難しいです」
私の考えを察したかのように先回りして神官は言う。
「彼女が動けるようになったら休みなしで魔王が封印されている場所まで行けますか?例えば、馬車ではなく騎士様たちの馬に乗せてもらうとか。邪魔な荷物は全て置いていくことはできますか?」
「・・・・邪魔な荷物、ですか?」
「ええ。派手な凱旋でこの旅に王族が加わっていることが全面的に知らしめることはできました。なら、その時点で殿下の役目は思わっているのではないですか?彼の手はエイルや他の騎士とは違う。とても綺麗な手をしています」
それは暗に殿下が剣を握ったことのない(握ったことがあったとしても嗜み程度でとてもじゃないが実践むきではない)ことを示していた。その考えは当たっていたのか神官は苦笑するだけだった。否定も肯定もしなかった。さすがに自国の王子を貶めることは言えなかったのだろう。たとえそれがどうしようもない王子でも。
「それも含めて話し合ってみようと思います」
「お願いします。すみません、何の役にも立たない私が生意気なことを言って」
神官は静かに首を左右に振った。
「いいえ。あなたに無理やりついて来て欲しいと頼んだのは我々です。それにヒナコ様がここまで来てくれたのは少なからずあなた様の存在があったからだと我々は考えています。この旅の行く末を危惧しての発言、ありがとうございます」
神官は立ち上がり、深々と頭を下げた。
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