12 / 33
11
しおりを挟む
ヒナコが部屋から出なくなって一週間が経った。部屋には鍵がかかっているので食事は部屋の前に置かれている。
毎回、完食されて部屋の前に置かれているそうなので食欲はあるようだ。
ならとっとと回復して自分のとるべき対応を考えてほしいものだ。
「なかなか出てきませんね」
ヒナコの部屋の前まで来た私にエイルが言う。
因にだが部屋の中にはバートランドがいる。聖女になって部屋へ逃げ帰ったヒナコについて行って、一緒に部屋へ入ったのだろう。
彼なら余計なことは言わないだろうからヒナコも傍にいることを許しているのかもしれない。
「どうしますか?」
全く焦った様子もなくエイルが私に聞く。
重鎮たちはこの状況に焦りあわめふためいているというのに。ずいぶんとお気楽なものだ。
「ヒナコ」
声をかけて暫くするとヒナコがドアの隙間から顔を出してきた。
泣きすぎで目は赤く、周囲は腫れていた。たったあれだけのとこでよくもまぁ、ここまで泣けるものだ。
ヒナコは体を横にずらして私が通れるように道を作った。
入れと言うことなのだろう。
私は遠慮なくヒナコの部屋に入る。部屋の中にいたバートランドは涼しげな顔で私に一礼する。
「・・・・私、どうしたらいいんだろ」
知るか。
途方にくれるヒナコを無視して私はソファーに座った。
それを見てヒナコも私の向かいに座る。するとバートランドが私たち二人のためにお茶を淹れてくれた。騎士なのに侍従のようなことが板についている。
ヒナコが籠っている間はこうやって彼が世話をしていたのかもしれない。
「ヒナコ、私たちは元の世界には帰れない」
私の言葉にヒナコは俯く。
「ここでやって行くしかない。一人で」
「一人で?ミズキは?」
ヒナコは私を縋るように見てくる。思わず漏れそうになるため息を何とかこらえた。
「場所は変わっても私たちは何も変わらないわ。いつかは好きな人ができて、家庭を持つことになるかもしれない。あなたはそんな私にずっとついてくる気?」
「そんなつもりは」
ない?本当に?
心のどこかで私が何とかしてくれる。自分以外の誰かが。そんかことを考えていないとは言わせない。
これまでの言動が全てを物語っている。
「自分で考えて動かないといけない。今回のことも、こうやっめ部屋に閉じ籠っていたって何も変わらないでしょ」
「でも、どうすればいいのか分からない」
だからそれを考えろと言っているのだ。
「聖女の件、どうするの?」
「無理だよ」
ヒナコは再び俯いてしまった。
違うだろ!
「さっきの現象が手品でないのなら。そして彼らの言うことが正しいのならヒナコは本当に選ばれた聖女ということになる」
彼女だけがこの世界に存在する意味をみいだされた。
私はここに来た理由すらない。存在する意味も価値もない。
そのことが私の胸に小さな痛みを与えた。でも私はそれに気づかないふりをする。
「でも」
尚も言い募ろうとするヒナコに私は言葉を被せる。
「できるか、できないかじゃない。現段階の問題はするか、しないか。できる、できないっていうのは、するか、しないかを決めてから発生する問題よ」
私の言葉にヒナコは口を真一文字にする。目には涙が溜まっていた。でも指摘しなかった。
私一人ならこんな苦労はなかったのにと心の中で嘆息するのは致し方がない。
ここに来てからのストレスは溜まりにたまっているのだ。
人は慣れない場所にいるだけでストレスが溜まる生き物だと言われているのだから。まぁ人だけには限らないだろうが。
「聖女がいなければこの世界でこれから生きていかないといけない私たちも困ることになる。RPGの世界なんて夢物語みたいで、戸惑うのは分かるけど、立ち止まってばかりではいられない。だから聞いているの、ヒナコ。あなたはどうしたいの?」
濡れた瞳が真っ直ぐと私を見つめる。
「聖女なんて無理なんて言うのならここにらいられない」
聖女候補だからいられた場所なのだ。そうでないのなら出ていくべきだろう。
「自力で生きていくのが筋だと思う。どうする?」
ヒナコは信じられないものでも見るように私を見つめる。そしてそのあと思案し、やがて蚊の鳴くような声で「聖女になる」と言った。
きっと、自力で生きていくのは無理だと判断したのだろう。
「分かった。なら私もできるだけサポートする」
聖女の件が一件落着したらすぐにこの城を出よう。
私は聖女ではなかった。聖女ではない私がここに留まるのは筋ではない。だって今の生活はこの国の血税で賄われているのだから。
でも、それをヒナコに言うつもりはない。
だっていつまでも一緒にいられるわけではないし。聖女になる彼女と私の道は既に分かれているのだから。
毎回、完食されて部屋の前に置かれているそうなので食欲はあるようだ。
ならとっとと回復して自分のとるべき対応を考えてほしいものだ。
「なかなか出てきませんね」
ヒナコの部屋の前まで来た私にエイルが言う。
因にだが部屋の中にはバートランドがいる。聖女になって部屋へ逃げ帰ったヒナコについて行って、一緒に部屋へ入ったのだろう。
彼なら余計なことは言わないだろうからヒナコも傍にいることを許しているのかもしれない。
「どうしますか?」
全く焦った様子もなくエイルが私に聞く。
重鎮たちはこの状況に焦りあわめふためいているというのに。ずいぶんとお気楽なものだ。
「ヒナコ」
声をかけて暫くするとヒナコがドアの隙間から顔を出してきた。
泣きすぎで目は赤く、周囲は腫れていた。たったあれだけのとこでよくもまぁ、ここまで泣けるものだ。
ヒナコは体を横にずらして私が通れるように道を作った。
入れと言うことなのだろう。
私は遠慮なくヒナコの部屋に入る。部屋の中にいたバートランドは涼しげな顔で私に一礼する。
「・・・・私、どうしたらいいんだろ」
知るか。
途方にくれるヒナコを無視して私はソファーに座った。
それを見てヒナコも私の向かいに座る。するとバートランドが私たち二人のためにお茶を淹れてくれた。騎士なのに侍従のようなことが板についている。
ヒナコが籠っている間はこうやって彼が世話をしていたのかもしれない。
「ヒナコ、私たちは元の世界には帰れない」
私の言葉にヒナコは俯く。
「ここでやって行くしかない。一人で」
「一人で?ミズキは?」
ヒナコは私を縋るように見てくる。思わず漏れそうになるため息を何とかこらえた。
「場所は変わっても私たちは何も変わらないわ。いつかは好きな人ができて、家庭を持つことになるかもしれない。あなたはそんな私にずっとついてくる気?」
「そんなつもりは」
ない?本当に?
心のどこかで私が何とかしてくれる。自分以外の誰かが。そんかことを考えていないとは言わせない。
これまでの言動が全てを物語っている。
「自分で考えて動かないといけない。今回のことも、こうやっめ部屋に閉じ籠っていたって何も変わらないでしょ」
「でも、どうすればいいのか分からない」
だからそれを考えろと言っているのだ。
「聖女の件、どうするの?」
「無理だよ」
ヒナコは再び俯いてしまった。
違うだろ!
「さっきの現象が手品でないのなら。そして彼らの言うことが正しいのならヒナコは本当に選ばれた聖女ということになる」
彼女だけがこの世界に存在する意味をみいだされた。
私はここに来た理由すらない。存在する意味も価値もない。
そのことが私の胸に小さな痛みを与えた。でも私はそれに気づかないふりをする。
「でも」
尚も言い募ろうとするヒナコに私は言葉を被せる。
「できるか、できないかじゃない。現段階の問題はするか、しないか。できる、できないっていうのは、するか、しないかを決めてから発生する問題よ」
私の言葉にヒナコは口を真一文字にする。目には涙が溜まっていた。でも指摘しなかった。
私一人ならこんな苦労はなかったのにと心の中で嘆息するのは致し方がない。
ここに来てからのストレスは溜まりにたまっているのだ。
人は慣れない場所にいるだけでストレスが溜まる生き物だと言われているのだから。まぁ人だけには限らないだろうが。
「聖女がいなければこの世界でこれから生きていかないといけない私たちも困ることになる。RPGの世界なんて夢物語みたいで、戸惑うのは分かるけど、立ち止まってばかりではいられない。だから聞いているの、ヒナコ。あなたはどうしたいの?」
濡れた瞳が真っ直ぐと私を見つめる。
「聖女なんて無理なんて言うのならここにらいられない」
聖女候補だからいられた場所なのだ。そうでないのなら出ていくべきだろう。
「自力で生きていくのが筋だと思う。どうする?」
ヒナコは信じられないものでも見るように私を見つめる。そしてそのあと思案し、やがて蚊の鳴くような声で「聖女になる」と言った。
きっと、自力で生きていくのは無理だと判断したのだろう。
「分かった。なら私もできるだけサポートする」
聖女の件が一件落着したらすぐにこの城を出よう。
私は聖女ではなかった。聖女ではない私がここに留まるのは筋ではない。だって今の生活はこの国の血税で賄われているのだから。
でも、それをヒナコに言うつもりはない。
だっていつまでも一緒にいられるわけではないし。聖女になる彼女と私の道は既に分かれているのだから。
5
お気に入りに追加
1,398
あなたにおすすめの小説
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
名無し令嬢の身代わり聖女生活
音無砂月
ファンタジー
※タイトル変更:名無しの妹は嫌われ聖女の身代わり
アドリス公爵家は代々、光の魔法を使う聖女の家系
アドリス家に双子の女の子が生まれた。一人は聖女の家系に相応しい魔力を有し、アニスと名付けられた。
一人は魔力が少ない、欠陥品として名前をつけられず、万が一のスペアとして生かされた。
アニスは傲慢で我儘な性格だった。みんなから嫌われていた。そんなアニスが事故で死んだ。
聖女の家系として今まで通り権威を振るいたいアドリス公爵家は残った妹にアニスの身代わりをさせた。
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
嘘つきと呼ばれた精霊使いの私
ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる