私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月

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「おぉ!!凄い」
それは訓練をしてから半年経った頃のことだった。
いつものように訓練所で訓練をしていたら隣から煌びやかな光の温かさを感じた。それとほぼ同時に私たちの護衛騎士と神官から驚きの声が上がった。
目を開け、隣を見るとヒナコの全身から暖かい光が発せられていた。
「え、え、ええ」とヒナコは戸惑うばかり。私も驚いて、思わずヒナコを凝視していた。開いた口が塞がらないというのはこのような時に陥るのだろうかとちょっと現実逃避をしたりもしている。
「ミ、ミズキ、私どうなっているの?」
「どうって言われても、光っているとしか言えない」
不安そうにヒナコが私を見てくるけれど私もどうしたらいいのか分からない。ヒナコは光の抑え方をしたないみたいで(まぁ、知っていたら逆にびっくりだけど)ずっと光り続けていた。正直、ちょっと目が痛い。
「ヒナコ様」
神官の誰かが呼びに行ったのだろう。バタバタと神官長、そして殿下がやって来た。
「こ、これは」
神官長は喜色の笑みを浮かべてヒナコを見る。一緒に入ってきた殿下も同じ反応だ。
「ヒナコ、やはり俺の目に狂いはなかった」
「殿下、私、どうなっているのですか?」
不安そうな顔のままヒナコが問う。彼女の気持ちに全くと言っていいほど気づいていない殿下は感情のままヒナコを抱きしめる。
「よくやったヒナコ。やはりお前だったのだ。お前しかいないと思っていた」
「で、ででで、殿下」
顔を真っ赤にしてうろたえるヒナコ。私は周りの反応で何となく察することができた。でも、鈍いヒナコはまだ現状についていけていないようだ。あるいは現実を直視したくないあまり気づかないふりをしているのかもしれない。
「ヒナコ様。お気持ちをお静めください。光が己の中に入ってくるようにイメージするのです」
やっと現実に戻ってきた神官長がヒナコにそうアドバイスをした。殿下に抱きしめられたままのヒナコは取り合えず目を瞑り、神官長の言ったとおりにした。すると彼女から発せられていた光は本当にヒナコの中に入っていくように消えていった。
「あ、あの、これはどういうことですか?私はどうなるのですか?」
ヒナコの戸惑いをしっかりと受け止めた神官長は安心させるように穏やかな笑みを携えてゆっくりと頷いた。
「これはあなた様が聖女として覚醒したことを意味します」
「私が、聖女」
思ってもみなかった状況にヒナコは目を見開き絶句する。
「そうだ、ヒナコ。先ほどお前が見せた力は文献にあった『聖なる光』だ。100年前の聖女はこの力で魔王を封印したと言われている」
興奮がようやく収まったのかヒナコから体を離した殿下は期待に満ちた目でヒナコを見る。それが余計にヒナコを恐縮させてしまいと知らずに。
私はそっとヒナコから目を離して周りを見た。そこのいる誰もがヒナコに期待の眼差しで見つめていた。これにはさすがに同情する。
「これでこの世界は救われる。ヒナコ、この力で魔王を封印してくれ」
「わ、私、無理、できない」
震える声でヒナコは言った。
「ヒナコ?」
まさか拒絶されると思ってもいなかったのだろう。殿下はとても驚いてヒナコを見た。
ヒナコは殿下から距離を取るように一歩、また一歩と後ろに下がった。首をゆっくりと横に何度も振って拒絶をする。それは当然だろう。ただの女子高生に世界の命運を背負わされるなんて。そのプレッシャーに耐えられる人間が一体どれくらいいるのやら。
「ヒナコ、どうした?」
「わ、私」
「そこを、どけ」
私はほとんど反射的にヒナコと殿下の間に入り込んでいた。そんな私の不敬な態度に当然だが殿下は険しい顔で私を睨みつける。だが、まぁ同郷のよしみだ。どくわけにはいかなかった。
「わ、私には無理だよぉ」
そう言ってヒナコは私と殿下の横を通り過ぎて訓練場を出て行った。その後を彼女の専属護衛であるハーヴェルが追っていく。辺りは騒然とした。ヒナコの反応がよほど意外だったのだろう。そんな彼らの無神経さに私は怒りがわいてきた。
「どういうつもりだ」
その筆頭である殿下が私に怒鳴る。反射的にエイルが私を守ろうと動くが私はそれを視線で制した。
「そうか、お前。聖女であるヒナコに嫉妬しているのだな」
どこをどう勘違いしたのか私の態度をとんと頓珍漢な解釈をした殿下が言う。この男、王族でなかったらぶん殴ってた。
「誰もが名誉あることと喜んでその地位に就くわけではありません」
「何だと」
殿下の眉間にしわがさらに深まる。それでも私は気にしない。
「魔王を封印できなければこの世界は滅びるかもしれない」
「だが」
「『封印すればいいだけだ』などと容易く言わないでいただきたい」
先回りして私が言った言葉に殿下は言葉を詰まらせる。
「したこともないことを『しろ』と言われてできたら苦労はしません。たった一人の女の子にその責をすべて負わせるのがこの国のやり方ですか?」
「貴殿の言葉は最もだ」
私の言葉に答えたのは殿下でも神官長でもない。私たちのやり取りを遠巻きにしていた神官たちでもない。それは初めて見る人だった。
精悍な顔立ちは為政者のもので、彼が纏う空気は鋭くはあるけれどそれは決して人を傷つけるものではなかった。存在そのものが人を従わせるうような人だ。
「陛下」と、神官長は言った。
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