10 / 33
9
しおりを挟む
「おぉ!!凄い」
それは訓練をしてから半年経った頃のことだった。
いつものように訓練所で訓練をしていたら隣から煌びやかな光の温かさを感じた。それとほぼ同時に私たちの護衛騎士と神官から驚きの声が上がった。
目を開け、隣を見るとヒナコの全身から暖かい光が発せられていた。
「え、え、ええ」とヒナコは戸惑うばかり。私も驚いて、思わずヒナコを凝視していた。開いた口が塞がらないというのはこのような時に陥るのだろうかとちょっと現実逃避をしたりもしている。
「ミ、ミズキ、私どうなっているの?」
「どうって言われても、光っているとしか言えない」
不安そうにヒナコが私を見てくるけれど私もどうしたらいいのか分からない。ヒナコは光の抑え方をしたないみたいで(まぁ、知っていたら逆にびっくりだけど)ずっと光り続けていた。正直、ちょっと目が痛い。
「ヒナコ様」
神官の誰かが呼びに行ったのだろう。バタバタと神官長、そして殿下がやって来た。
「こ、これは」
神官長は喜色の笑みを浮かべてヒナコを見る。一緒に入ってきた殿下も同じ反応だ。
「ヒナコ、やはり俺の目に狂いはなかった」
「殿下、私、どうなっているのですか?」
不安そうな顔のままヒナコが問う。彼女の気持ちに全くと言っていいほど気づいていない殿下は感情のままヒナコを抱きしめる。
「よくやったヒナコ。やはりお前だったのだ。お前しかいないと思っていた」
「で、ででで、殿下」
顔を真っ赤にしてうろたえるヒナコ。私は周りの反応で何となく察することができた。でも、鈍いヒナコはまだ現状についていけていないようだ。あるいは現実を直視したくないあまり気づかないふりをしているのかもしれない。
「ヒナコ様。お気持ちをお静めください。光が己の中に入ってくるようにイメージするのです」
やっと現実に戻ってきた神官長がヒナコにそうアドバイスをした。殿下に抱きしめられたままのヒナコは取り合えず目を瞑り、神官長の言ったとおりにした。すると彼女から発せられていた光は本当にヒナコの中に入っていくように消えていった。
「あ、あの、これはどういうことですか?私はどうなるのですか?」
ヒナコの戸惑いをしっかりと受け止めた神官長は安心させるように穏やかな笑みを携えてゆっくりと頷いた。
「これはあなた様が聖女として覚醒したことを意味します」
「私が、聖女」
思ってもみなかった状況にヒナコは目を見開き絶句する。
「そうだ、ヒナコ。先ほどお前が見せた力は文献にあった『聖なる光』だ。100年前の聖女はこの力で魔王を封印したと言われている」
興奮がようやく収まったのかヒナコから体を離した殿下は期待に満ちた目でヒナコを見る。それが余計にヒナコを恐縮させてしまいと知らずに。
私はそっとヒナコから目を離して周りを見た。そこのいる誰もがヒナコに期待の眼差しで見つめていた。これにはさすがに同情する。
「これでこの世界は救われる。ヒナコ、この力で魔王を封印してくれ」
「わ、私、無理、できない」
震える声でヒナコは言った。
「ヒナコ?」
まさか拒絶されると思ってもいなかったのだろう。殿下はとても驚いてヒナコを見た。
ヒナコは殿下から距離を取るように一歩、また一歩と後ろに下がった。首をゆっくりと横に何度も振って拒絶をする。それは当然だろう。ただの女子高生に世界の命運を背負わされるなんて。そのプレッシャーに耐えられる人間が一体どれくらいいるのやら。
「ヒナコ、どうした?」
「わ、私」
「そこを、どけ」
私はほとんど反射的にヒナコと殿下の間に入り込んでいた。そんな私の不敬な態度に当然だが殿下は険しい顔で私を睨みつける。だが、まぁ同郷のよしみだ。どくわけにはいかなかった。
「わ、私には無理だよぉ」
そう言ってヒナコは私と殿下の横を通り過ぎて訓練場を出て行った。その後を彼女の専属護衛であるハーヴェルが追っていく。辺りは騒然とした。ヒナコの反応がよほど意外だったのだろう。そんな彼らの無神経さに私は怒りがわいてきた。
「どういうつもりだ」
その筆頭である殿下が私に怒鳴る。反射的にエイルが私を守ろうと動くが私はそれを視線で制した。
「そうか、お前。聖女であるヒナコに嫉妬しているのだな」
どこをどう勘違いしたのか私の態度をとんと頓珍漢な解釈をした殿下が言う。この男、王族でなかったらぶん殴ってた。
「誰もが名誉あることと喜んでその地位に就くわけではありません」
「何だと」
殿下の眉間にしわがさらに深まる。それでも私は気にしない。
「魔王を封印できなければこの世界は滅びるかもしれない」
「だが」
「『封印すればいいだけだ』などと容易く言わないでいただきたい」
先回りして私が言った言葉に殿下は言葉を詰まらせる。
「したこともないことを『しろ』と言われてできたら苦労はしません。たった一人の女の子にその責をすべて負わせるのがこの国のやり方ですか?」
「貴殿の言葉は最もだ」
私の言葉に答えたのは殿下でも神官長でもない。私たちのやり取りを遠巻きにしていた神官たちでもない。それは初めて見る人だった。
精悍な顔立ちは為政者のもので、彼が纏う空気は鋭くはあるけれどそれは決して人を傷つけるものではなかった。存在そのものが人を従わせるうような人だ。
「陛下」と、神官長は言った。
それは訓練をしてから半年経った頃のことだった。
いつものように訓練所で訓練をしていたら隣から煌びやかな光の温かさを感じた。それとほぼ同時に私たちの護衛騎士と神官から驚きの声が上がった。
目を開け、隣を見るとヒナコの全身から暖かい光が発せられていた。
「え、え、ええ」とヒナコは戸惑うばかり。私も驚いて、思わずヒナコを凝視していた。開いた口が塞がらないというのはこのような時に陥るのだろうかとちょっと現実逃避をしたりもしている。
「ミ、ミズキ、私どうなっているの?」
「どうって言われても、光っているとしか言えない」
不安そうにヒナコが私を見てくるけれど私もどうしたらいいのか分からない。ヒナコは光の抑え方をしたないみたいで(まぁ、知っていたら逆にびっくりだけど)ずっと光り続けていた。正直、ちょっと目が痛い。
「ヒナコ様」
神官の誰かが呼びに行ったのだろう。バタバタと神官長、そして殿下がやって来た。
「こ、これは」
神官長は喜色の笑みを浮かべてヒナコを見る。一緒に入ってきた殿下も同じ反応だ。
「ヒナコ、やはり俺の目に狂いはなかった」
「殿下、私、どうなっているのですか?」
不安そうな顔のままヒナコが問う。彼女の気持ちに全くと言っていいほど気づいていない殿下は感情のままヒナコを抱きしめる。
「よくやったヒナコ。やはりお前だったのだ。お前しかいないと思っていた」
「で、ででで、殿下」
顔を真っ赤にしてうろたえるヒナコ。私は周りの反応で何となく察することができた。でも、鈍いヒナコはまだ現状についていけていないようだ。あるいは現実を直視したくないあまり気づかないふりをしているのかもしれない。
「ヒナコ様。お気持ちをお静めください。光が己の中に入ってくるようにイメージするのです」
やっと現実に戻ってきた神官長がヒナコにそうアドバイスをした。殿下に抱きしめられたままのヒナコは取り合えず目を瞑り、神官長の言ったとおりにした。すると彼女から発せられていた光は本当にヒナコの中に入っていくように消えていった。
「あ、あの、これはどういうことですか?私はどうなるのですか?」
ヒナコの戸惑いをしっかりと受け止めた神官長は安心させるように穏やかな笑みを携えてゆっくりと頷いた。
「これはあなた様が聖女として覚醒したことを意味します」
「私が、聖女」
思ってもみなかった状況にヒナコは目を見開き絶句する。
「そうだ、ヒナコ。先ほどお前が見せた力は文献にあった『聖なる光』だ。100年前の聖女はこの力で魔王を封印したと言われている」
興奮がようやく収まったのかヒナコから体を離した殿下は期待に満ちた目でヒナコを見る。それが余計にヒナコを恐縮させてしまいと知らずに。
私はそっとヒナコから目を離して周りを見た。そこのいる誰もがヒナコに期待の眼差しで見つめていた。これにはさすがに同情する。
「これでこの世界は救われる。ヒナコ、この力で魔王を封印してくれ」
「わ、私、無理、できない」
震える声でヒナコは言った。
「ヒナコ?」
まさか拒絶されると思ってもいなかったのだろう。殿下はとても驚いてヒナコを見た。
ヒナコは殿下から距離を取るように一歩、また一歩と後ろに下がった。首をゆっくりと横に何度も振って拒絶をする。それは当然だろう。ただの女子高生に世界の命運を背負わされるなんて。そのプレッシャーに耐えられる人間が一体どれくらいいるのやら。
「ヒナコ、どうした?」
「わ、私」
「そこを、どけ」
私はほとんど反射的にヒナコと殿下の間に入り込んでいた。そんな私の不敬な態度に当然だが殿下は険しい顔で私を睨みつける。だが、まぁ同郷のよしみだ。どくわけにはいかなかった。
「わ、私には無理だよぉ」
そう言ってヒナコは私と殿下の横を通り過ぎて訓練場を出て行った。その後を彼女の専属護衛であるハーヴェルが追っていく。辺りは騒然とした。ヒナコの反応がよほど意外だったのだろう。そんな彼らの無神経さに私は怒りがわいてきた。
「どういうつもりだ」
その筆頭である殿下が私に怒鳴る。反射的にエイルが私を守ろうと動くが私はそれを視線で制した。
「そうか、お前。聖女であるヒナコに嫉妬しているのだな」
どこをどう勘違いしたのか私の態度をとんと頓珍漢な解釈をした殿下が言う。この男、王族でなかったらぶん殴ってた。
「誰もが名誉あることと喜んでその地位に就くわけではありません」
「何だと」
殿下の眉間にしわがさらに深まる。それでも私は気にしない。
「魔王を封印できなければこの世界は滅びるかもしれない」
「だが」
「『封印すればいいだけだ』などと容易く言わないでいただきたい」
先回りして私が言った言葉に殿下は言葉を詰まらせる。
「したこともないことを『しろ』と言われてできたら苦労はしません。たった一人の女の子にその責をすべて負わせるのがこの国のやり方ですか?」
「貴殿の言葉は最もだ」
私の言葉に答えたのは殿下でも神官長でもない。私たちのやり取りを遠巻きにしていた神官たちでもない。それは初めて見る人だった。
精悍な顔立ちは為政者のもので、彼が纏う空気は鋭くはあるけれどそれは決して人を傷つけるものではなかった。存在そのものが人を従わせるうような人だ。
「陛下」と、神官長は言った。
6
お気に入りに追加
1,404
あなたにおすすめの小説
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

現実的な異世界召喚聖女
章槻雅希
ファンタジー
高天原の神々は怒っていた。理不尽な異世界召喚に日ノ本の民が巻き込まれることに。そこで神々は怒りの鉄槌を異世界に下すことにした。
神々に選ばれた広瀬美琴54歳は17歳に若返り、異世界に召喚される。そして彼女は現代日本の職業倫理と雇用契約に基づき、王家と神殿への要求を突きつけるのだった。

召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

【完結】召喚されて聖力がないと追い出された私のスキルは家具職人でした。
井上 佳
ファンタジー
結城依子は、この度異世界のとある国に召喚されました。
呼ばれた先で鑑定を受けると、聖女として呼ばれたのに聖力がありませんでした。
そうと知ったその国の王子は、依子を城から追い出します。
異世界で街に放り出された依子は、優しい人たちと出会い、そこで生活することになります。
パン屋で働き、家具職人スキルを使って恩返し計画!
異世界でも頑張って前向きに過ごす依子だったが、ひょんなことから実は聖力があるのではないかということになり……。
※他サイトにも掲載中。
※基本は異世界ファンタジーです。
※恋愛要素もガッツリ入ります。
※シリアスとは無縁です。
※第二章構想中!
【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!
蜜柑
ファンタジー
レイラは生まれた時から強力な魔力を持っていたため、キアーラ王国の大神殿で大司教に聖女として育てられ、毎日祈りを捧げてきた。大司教は国政を乗っ取ろうと王太子とレイラの婚約を決めたが、王子は身元不明のレイラとは結婚できないと婚約破棄し、彼女を国外追放してしまう。
――え、もうお肉も食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?
追放される道中、偶然出会った冒険者――剣士ステファンと狼男のライガに同行することになったレイラは、冒険者ギルドに登録し、冒険者になる。もともと神殿での不自由な生活に飽き飽きしていたレイラは美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。
その一方、魔物が出るようになったキアーラでは大司教がレイラの回収を画策し、レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。
※序盤1話が短めです(1000字弱)
※複数視点多めです。
※小説家になろうにも掲載しています。
※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる