7 / 33
7
しおりを挟む
「何だか私、自信がない」
召喚されてから一ヶ月。
私とヒナコの訓練での成果はない。体の中に何かが流れるような感覚もないし、ゲームや小説で語られているように自身が発光するという現象もない。
周りの落胆は日に日に大きくなる。それを気にしてか、休憩中、ヒナコがぽつりと言った。
休憩用に与えられた部屋には私とヒナコ以外ではそれぞれの護衛騎士と給仕をしてくれる侍女が一人いる。
この世界はイギリスのようにアフタヌーンティーの習慣があるようで私とヒナコはその真っ最中だった。
「聖女なんて、やっぱり無理なんだよぉ」
私はカップに口をつけたままヒナコを見た。
ヒナコは手元にある紅茶を眺めていた。両手でカップを包み、縁を指でなぞりながら不安を紛らわせようとしていた。
「異世界召喚され→聖女確定→魔王を見事撃退→イクメン彼氏ゲット→ハッピーエンド。なんて、小説の中だけの話し。現状、私たちはこの国の人間に拉致監禁されて、いつ殺されてもおかしくない」
「こ、殺されるんでしょうか」
ヒナコは目を大きく見開き、私を見る。自分が殺されるかもという考えは眉唾物だったようだ。
私はちらりと視線を護衛や騎士たちに向ける。バートランドもエイルも動揺した様子はない。二人ともポーカーフェイスが得意のようだ。何を考えているかまるで分からない。
「虞ながらヒナコ様、ミズキ様」
恐る恐るといった感じに侍女が話しかけてきた。
「お二人は大切な聖女候補様です。無体を強いるものなどおりません」
ヒナコはあからさまにほっと胸を撫で下ろした。
「ただの冗談よ。本気にしないで。ちょっと退屈だったからからかっただけ」
「そんな冗談は聞きたくなかったです」
むっと口を尖らせてヒナコが抗議する。そんな顔をしても迫力ゼロだ。声も小さい。
「悪かったわね」
ただ、あくまでも『聖女候補』。つまり聖女でもなく候補でもなくなればその身の安全は保証されない可能性がある。
私はそんな思考を胸のうちに仕舞った。行ったところで今の私たちには何もできないから。
「そろそろ次の講義に行きましょう」
「はい」
次はこの国の歴史や知性についてだ。
地形はともかく歴史なんか知って意味があるかは不明だ。
まぁ知識はあっても邪魔にはならないので大人しく講義を受けることにするが。
召喚されてから一ヶ月。
私とヒナコの訓練での成果はない。体の中に何かが流れるような感覚もないし、ゲームや小説で語られているように自身が発光するという現象もない。
周りの落胆は日に日に大きくなる。それを気にしてか、休憩中、ヒナコがぽつりと言った。
休憩用に与えられた部屋には私とヒナコ以外ではそれぞれの護衛騎士と給仕をしてくれる侍女が一人いる。
この世界はイギリスのようにアフタヌーンティーの習慣があるようで私とヒナコはその真っ最中だった。
「聖女なんて、やっぱり無理なんだよぉ」
私はカップに口をつけたままヒナコを見た。
ヒナコは手元にある紅茶を眺めていた。両手でカップを包み、縁を指でなぞりながら不安を紛らわせようとしていた。
「異世界召喚され→聖女確定→魔王を見事撃退→イクメン彼氏ゲット→ハッピーエンド。なんて、小説の中だけの話し。現状、私たちはこの国の人間に拉致監禁されて、いつ殺されてもおかしくない」
「こ、殺されるんでしょうか」
ヒナコは目を大きく見開き、私を見る。自分が殺されるかもという考えは眉唾物だったようだ。
私はちらりと視線を護衛や騎士たちに向ける。バートランドもエイルも動揺した様子はない。二人ともポーカーフェイスが得意のようだ。何を考えているかまるで分からない。
「虞ながらヒナコ様、ミズキ様」
恐る恐るといった感じに侍女が話しかけてきた。
「お二人は大切な聖女候補様です。無体を強いるものなどおりません」
ヒナコはあからさまにほっと胸を撫で下ろした。
「ただの冗談よ。本気にしないで。ちょっと退屈だったからからかっただけ」
「そんな冗談は聞きたくなかったです」
むっと口を尖らせてヒナコが抗議する。そんな顔をしても迫力ゼロだ。声も小さい。
「悪かったわね」
ただ、あくまでも『聖女候補』。つまり聖女でもなく候補でもなくなればその身の安全は保証されない可能性がある。
私はそんな思考を胸のうちに仕舞った。行ったところで今の私たちには何もできないから。
「そろそろ次の講義に行きましょう」
「はい」
次はこの国の歴史や知性についてだ。
地形はともかく歴史なんか知って意味があるかは不明だ。
まぁ知識はあっても邪魔にはならないので大人しく講義を受けることにするが。
6
お気に入りに追加
1,401
あなたにおすすめの小説

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。


名無し令嬢の身代わり聖女生活
音無砂月
ファンタジー
※タイトル変更:名無しの妹は嫌われ聖女の身代わり
アドリス公爵家は代々、光の魔法を使う聖女の家系
アドリス家に双子の女の子が生まれた。一人は聖女の家系に相応しい魔力を有し、アニスと名付けられた。
一人は魔力が少ない、欠陥品として名前をつけられず、万が一のスペアとして生かされた。
アニスは傲慢で我儘な性格だった。みんなから嫌われていた。そんなアニスが事故で死んだ。
聖女の家系として今まで通り権威を振るいたいアドリス公爵家は残った妹にアニスの身代わりをさせた。
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる