私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月

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「わ、私、自信がない」
ヒナコがぽつりと言った。
「大丈夫だ、ヒナコ。お前には俺がついているから」
殿下は安心させるようにヒナコを抱き寄せた。
男慣れしていないヒナコはそれだけで頬を赤く染める。
「それで、聖女としての仕事は?封印って言われても私たちは今まで普通の人として暮らして来たわ。聖女と呼ばれるような力なんてないわよ」
神官長は心得ているとばかりに笑みを浮かべた。
「今はまだ眠っているだけです。訓練すればそれも開花します。訓練内容は主に精神集中になります」
それは何とも神頼みな訓練だろう。不安しかない。
「百聞は一見に如かず。実際にしてみましょう」
神官長の言葉で私たちは部屋を移動した。私たちが連れていかれた場所は真っ白な大理石の部屋をステンドグラスがが照らしている。とても神秘的な場所だ。
「ここは100年前、聖女が精神統一の場として使っていたところです」
つまり、それだけの場所。訓練が精神集中オンリーなら、それができる場所ならどこまでいい。まぁ、こんな神秘的な場所に籠っているなんて聖女らしいかもね。
いかんね。訳の分からないことの連続で心が荒んでいる。
ふと視線を感じたので目をそちらに向けるとエイルがじっと私を見ていた。
私が彼を見返すと彼はすぐに視線を逸らした。何だろうね。
こんな訳の分からない小娘の護衛に任命されたのが気に入らないのかな。私だっていくら女性の憧れの王宮で、性格はともかく殿下を初めとしてイケメンに囲まれている環境でも好きでここにいるわけではない。帰れるのなら帰りたい。
お母さんもお父さんもきっと心配しているだろうな。
・・・・・するわけないか。家にいないことにも気づかれてないかも。
あ、何かやばい。泣けてきそう。
考えないようにしよう。考えてもどうしにもならないことは保留にしておくのが一番いい。
「綺麗」
煌びやかなステンドグラスを見てヒナコは目をキラキラさせて言った。ヒナコが初めて見せた笑顔に殿下は頬を染めて彼女に見惚れた。
「気に入ったのか、ヒナコ」
「はい。とても」
そう言ってヒナコは笑う。
私はヒナコの視線を追うようにもう一度スタンドグラスを見る。
「さっそくですがお二人とも始めましょうか」
少しして神官長が声をかけてきた。私とヒナコは神官長に言われた通り目を閉じて神経を集中させた。
「己の中にめぐる魔力を感じてください」
「・・・・・」
「・・・・・」
何も感じないけど。
「血液が体内を巡るように魔力もあなた方の中に巡っています。まずはそれを感じられるところから始めてください」
「・・・・・」
「・・・・・」
マジで何も感じない。
いくら待っても私にもヒナコにも変化は訪れなかった。
「まだ初めだから仕方がありません」
神官長はある程度、この結果を予想していたのか特に落胆している様子は見られない。
「ミズキ、何か感じた?」
遠慮がちにヒナコが尋ねる。
「何も」
「お前には無理だろ。聖女は一人。ヒナコだけなのだから」
ああ、はいはい。
偉そうに言い、私のことを鼻で笑う殿下は無視だ。
殿下はともかく、神官長はまだ私にも聖女である可能性を考えてか、殿下の無礼千万な態度にいつもハラハラしている。なかなか忙しい御仁だ。
「少しずつやっていきましょう。訓練は今日のところは終了とします」
神官長の言葉でとりあえずお開きとなった。
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