上 下
3 / 33

3

しおりを挟む
「ミズキ様、殿下のことですけど」
部屋を出て直ぐに神官長が殿下のことで謝罪をしてきた。彼もなかなか大変そうだ。でも、私には関係ない。
「私は必要ないみたいね」
自分が思っていたよりも低い声が出た。青を通り過ぎて真っ白になっている神官長は今にも倒れてしまいそうだ。
「それでも私は帰れないの?」
「申し訳ありません」
神官長の言葉にため息が漏れる。その行為ですらも神官長には恐怖を与えたらしい。ビクリと体を揺らした。
「ミズキ様にはこの城に留まっていただきたく」
「それでどうしろと?あの『殿下』?のお小言を黙って聞いていろと?」
皮肉と嘲笑を交えて私は言った。
「聖女としての勉強と訓練をしていただきたいのです。勝手な申し出であることは分かっています」
「本当に勝手ね」
でも、そうするしかないのだろう。私は無一文だし。この国の常識何て知らない。
ここで聖女(ではないかもしれないけれど。むしろ絶対に違うだろうけど)としての訓練と勉強をしながらこの世界のことも同時に学んでいく必要がある。
そして何とか自分で自立できるようにしないと。
「条件があるわ」
「何でしょう?」
「労働には対価が付きものよ。私は無償報酬なんて御免だわ」
ファンタジー小説をいくつか読んだことが私は自分が異世界に行ってみて初めて疑問に思ったことがある。まぁ。最終的には有力貴族と結婚してハッピーエンドだからいいのかもしれないけれど。
残念ながら私の身に起きたことが現実である以上、エンドはすなわち私自身の死を意味する。
だから思ったのだ。ファンタジー小説に出てくるヒロイン・ヒーローよ。何で聖女や勇者なんて割に合わないことでただ働きしているの。
「もちろん、それなりの報酬が国から贈られるます」
「具体的には?言っておくけれど土地も地位も要らないわよ。土地なんて思っていても維持なんてできるほど高性能ではないの、私。地位だって合っても面倒なだけよ」
考えていた報酬を否定されて神官長は戸惑う。権力者の与える報酬なんて下心見え見えね。
地位があればそれなりの責任が問われるし、それに貴族にでもなればそれはこの国の王の臣下になるということだ。つまり王族は何が何でも『聖女』を傍に置いておきたいのだろう。
「では何を望まれますか?」
「月給制で働いた分だけのお給料を。聖女候補がそんな俗なものを求めると思わなかった?神格化しないでね。私もあのヒナコって子もこことは違う世界の人間というだけであって、それ以外はあなた達と変わらない人間だもの。幾らにするかはこの国の賃金の平均を知らないからあなた達に任せるわ。でも、平均賃金なんて調べようと思えば調べられるから適当に決めないことね」
「・・・・・分かりました」
これで大丈夫だろう。
きっと彼らは私に幻滅しただろうね。でも、それがどうしたの?
勝手に拉致しておいて喜んでただ働きをしてくれるなんて都合のいい話があるわけがない。
「お部屋を用意しております。ミズキ様も今日はお疲れでしょう。早めにお休みください」
「そうさせてもらうわ」
確かに疲れた。いろいろとありすぎて。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

美人アラサーOLは悪役令嬢になってもへこたれない

本多 真弥子
ファンタジー
芹澤美月25歳腐女子美人OLはBLが好き過ぎて、スマホでBL小説を書いていたら、赤信号で突っ込んで来たトラックのライトに当てられて……気が付くと異世界に召喚されていた。 聖なる巫女を経て、何故か悪役令嬢に! 持ち前の勝ち気で、自分を断罪した王子と罠に嵌めた光の聖女へ反発して隣国に飛ばされてしまう。 聖女に次ぐ光魔法を持っていた美月はここではゲームで使っていた名前である『ファルセア』と名乗り、自分を裏切り追放した王子を受けとした同人誌を普及していく。 その人気は凄まじくなり『崇拝者』『共同執筆者』などを獲得しながら、地位を確立した。 全ては王子への復讐のために。 と思っていたら、意外な出逢いが待っていて… やがてスケールは大きくなり、ファルセアは世界を救う。 キャラクターデザイン りぐだる様 https://www.pixiv.net/users/7692921 挿絵  あるふぁ様 https://twitter.com/xxarufa   編著者 一限はやめ様 https://twitter.com/ichigenhayame

名無し令嬢の身代わり聖女生活

音無砂月
ファンタジー
※タイトル変更:名無しの妹は嫌われ聖女の身代わり アドリス公爵家は代々、光の魔法を使う聖女の家系 アドリス家に双子の女の子が生まれた。一人は聖女の家系に相応しい魔力を有し、アニスと名付けられた。 一人は魔力が少ない、欠陥品として名前をつけられず、万が一のスペアとして生かされた。 アニスは傲慢で我儘な性格だった。みんなから嫌われていた。そんなアニスが事故で死んだ。 聖女の家系として今まで通り権威を振るいたいアドリス公爵家は残った妹にアニスの身代わりをさせた。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

処理中です...