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「聖女を無事に召喚できたというのは本当かっ!?」
神官長の命令で倒れたヒナコを別室に運び、王宮の医務官が呼ばれた。
国一の名医で王宮の医務官を統括している人物といからもっと高齢の方が来るかと思ったけれど見た目は30代ぐらいだろうか。目じりにしわが少しある。
顔は気難しそうに顰められている。
藍色の髪にエメラルドの瞳をした男だ。顔はまぁかなりいい方だと思う。
名前はギルベルト・アマベル。因みに男爵家だ。その彼の見立てでは精神的ショックによるたんなる気絶で命に問題はないようだ。まぁ、そうだろう。
ギルベルトの見解に神官長はほっと胸を撫で下ろした時だった。最初の第一声に戻る。
腰まである赤い髪を揺らしながら前髪をオールバックにしているこちらもイケメンの分類に入るだろう男がよほど興奮していたのか気を失ったヒナコが寝ている部屋にノックもなく入ってきた。
「で、殿下」
殿下?この男が?殿下ということはつまり王太子殿下のことで、王太子殿下というのはつまり王子のことだよね。王子って王様の子供で、王様は日本でいう天皇陛下のことだよね・・・・・。
私は混乱する頭で『殿下』と呼ばれた男を見た。
「そこの寝台で眠っている女性か?」
殿下は気を失っているヒナコの元へずかずかと近づいて行った。
「ほぅ。見事の黒髪だな。やはり聖女というだけあって神秘的だ」
「んっ、うん。だぁれ?」
騒々しかったのかヒナコが目を覚ました。ぱっちりと開けた目で目の前の知らない男を見つめる。
「だ、誰ですか?」
意識がはっきりとしたヒナコは上ずった声で殿下に尋ねる。
「俺はエーデル・ライン。アルガシュカル王国第一王子。現王太子でもある」
「で、殿下。ヒナコ様はあまりご気分が優れないようで」
神官長がヒナコの体調を気遣い、殿下に進言した。だが、殿下は神官長の話を全く聞かない。
「ほぅ。ヒナコというのか可愛らしい名前だ。名前だけではなく見た目も愛らしいな」
「えっ」
奥ゆかしい日本人にはなかなか刺激的な言葉だ。『背中で語れ』みたいなところのある日本人男性はまず女性を褒めるようなことはしない(あくまでも私見だが)。もともと日本は男尊女卑があった国だから余計に。だからヒナコも「愛らしい」なんて初めて言われたのだろう。それもこんなイケメンに。
まぁ異世界の彼らは私たちからみたらヨーロッパ系のような顔をしているし、日本人にはヨーロッパ系のイケメンは誰でも格好よく見えるものだが(これもあくまで私見だ)。
ヒナコは頬を真っ赤にしてエーデルを見つめる。そんなヒナコの反応に殿下は気分を良くしたのか上機嫌にさらにヒナコと話をしようとした。そんな彼を神官長は止める。そしてちらりと視線を私に向ける。
なぜこっちを見る。
「実は殿下、異世界より召喚された娘は彼女だけではないのです」
「何だと?歴史に語られている聖女は一人だろ。他に誰がいる」
「彼女です。名前はミズキ・カナエ」
ヒナコに向けられていた視線とは明らかに違う視線が殿下から私に向けられた。
「こんな髪の短い女が聖女?しかも髪だって全然黒くはないじゃないか」
ヒナコと違って私の髪は肩までしかなく、しかも色素が薄いので、純粋の日本人ではあるのだが色は赤茶色なのだ。
「それでも異世界召喚で来た以上、彼女にも聖女である可能性があります」
神官長の言葉に殿下は不審げな顔をして私を見る。不審者でも現れたような顔をしているが私は来たくて来たわけじゃない。
身勝手なその態度に私は腹が立った。でも、王族に下手に楯突くのはよろしくない。小説ではこういう異世界は必ず支配階級が存在する。支配階級のつまり私たち高校生のなじみのある言葉を使うならスクールカーストになるのだが、その上位にいる人間は『黒』を『白』に変える力があるのだ。下手なことは言わない方がいい。
「聖女の割には随分と無礼だな。王族を前に礼を取らぬか」
「殿下っ!」
「・・・・申し訳ありません。何分、この世界の者ではないのでマナーというものを知りません」
「はっ。無学だな」
「殿下っ!」
こいつ、鼻で笑いやがった。
神官長の顔を真っ青だが、殿下は全く気にしない。
「あ、あ、あの」
険悪な雰囲気になりそうなところへ戸惑った顔をしたヒナコが蚊の鳴くような声で話しかけてくる。勇気あるね。この雰囲気に入ってこようなんて。それともただ空気が読めないだけかな。
「何か、ヒナコ」
甘い笑みを浮かべて殿下がヒナコを見る。その態度の違いからヒナコは余計に戸惑う。
もう呼び捨て何て随分と馴れ馴れしいことだ。それに私が聖女として認められないみたいな態度をしているけれど要は自分の気に入った女を聖女にしたいだけじゃない。
さすがは人を拉致して、理論整然としている人間が住んでいる世界の王族。身勝手この上ない。
これ以上、ここに留まっても不快指数が増すだけなので私は殿下の矛先が再び私に向かう前に部屋を出た。そんな私にいち早く気が付いた神官長が慌ててついて来る。
神官長の命令で倒れたヒナコを別室に運び、王宮の医務官が呼ばれた。
国一の名医で王宮の医務官を統括している人物といからもっと高齢の方が来るかと思ったけれど見た目は30代ぐらいだろうか。目じりにしわが少しある。
顔は気難しそうに顰められている。
藍色の髪にエメラルドの瞳をした男だ。顔はまぁかなりいい方だと思う。
名前はギルベルト・アマベル。因みに男爵家だ。その彼の見立てでは精神的ショックによるたんなる気絶で命に問題はないようだ。まぁ、そうだろう。
ギルベルトの見解に神官長はほっと胸を撫で下ろした時だった。最初の第一声に戻る。
腰まである赤い髪を揺らしながら前髪をオールバックにしているこちらもイケメンの分類に入るだろう男がよほど興奮していたのか気を失ったヒナコが寝ている部屋にノックもなく入ってきた。
「で、殿下」
殿下?この男が?殿下ということはつまり王太子殿下のことで、王太子殿下というのはつまり王子のことだよね。王子って王様の子供で、王様は日本でいう天皇陛下のことだよね・・・・・。
私は混乱する頭で『殿下』と呼ばれた男を見た。
「そこの寝台で眠っている女性か?」
殿下は気を失っているヒナコの元へずかずかと近づいて行った。
「ほぅ。見事の黒髪だな。やはり聖女というだけあって神秘的だ」
「んっ、うん。だぁれ?」
騒々しかったのかヒナコが目を覚ました。ぱっちりと開けた目で目の前の知らない男を見つめる。
「だ、誰ですか?」
意識がはっきりとしたヒナコは上ずった声で殿下に尋ねる。
「俺はエーデル・ライン。アルガシュカル王国第一王子。現王太子でもある」
「で、殿下。ヒナコ様はあまりご気分が優れないようで」
神官長がヒナコの体調を気遣い、殿下に進言した。だが、殿下は神官長の話を全く聞かない。
「ほぅ。ヒナコというのか可愛らしい名前だ。名前だけではなく見た目も愛らしいな」
「えっ」
奥ゆかしい日本人にはなかなか刺激的な言葉だ。『背中で語れ』みたいなところのある日本人男性はまず女性を褒めるようなことはしない(あくまでも私見だが)。もともと日本は男尊女卑があった国だから余計に。だからヒナコも「愛らしい」なんて初めて言われたのだろう。それもこんなイケメンに。
まぁ異世界の彼らは私たちからみたらヨーロッパ系のような顔をしているし、日本人にはヨーロッパ系のイケメンは誰でも格好よく見えるものだが(これもあくまで私見だ)。
ヒナコは頬を真っ赤にしてエーデルを見つめる。そんなヒナコの反応に殿下は気分を良くしたのか上機嫌にさらにヒナコと話をしようとした。そんな彼を神官長は止める。そしてちらりと視線を私に向ける。
なぜこっちを見る。
「実は殿下、異世界より召喚された娘は彼女だけではないのです」
「何だと?歴史に語られている聖女は一人だろ。他に誰がいる」
「彼女です。名前はミズキ・カナエ」
ヒナコに向けられていた視線とは明らかに違う視線が殿下から私に向けられた。
「こんな髪の短い女が聖女?しかも髪だって全然黒くはないじゃないか」
ヒナコと違って私の髪は肩までしかなく、しかも色素が薄いので、純粋の日本人ではあるのだが色は赤茶色なのだ。
「それでも異世界召喚で来た以上、彼女にも聖女である可能性があります」
神官長の言葉に殿下は不審げな顔をして私を見る。不審者でも現れたような顔をしているが私は来たくて来たわけじゃない。
身勝手なその態度に私は腹が立った。でも、王族に下手に楯突くのはよろしくない。小説ではこういう異世界は必ず支配階級が存在する。支配階級のつまり私たち高校生のなじみのある言葉を使うならスクールカーストになるのだが、その上位にいる人間は『黒』を『白』に変える力があるのだ。下手なことは言わない方がいい。
「聖女の割には随分と無礼だな。王族を前に礼を取らぬか」
「殿下っ!」
「・・・・申し訳ありません。何分、この世界の者ではないのでマナーというものを知りません」
「はっ。無学だな」
「殿下っ!」
こいつ、鼻で笑いやがった。
神官長の顔を真っ青だが、殿下は全く気にしない。
「あ、あ、あの」
険悪な雰囲気になりそうなところへ戸惑った顔をしたヒナコが蚊の鳴くような声で話しかけてくる。勇気あるね。この雰囲気に入ってこようなんて。それともただ空気が読めないだけかな。
「何か、ヒナコ」
甘い笑みを浮かべて殿下がヒナコを見る。その態度の違いからヒナコは余計に戸惑う。
もう呼び捨て何て随分と馴れ馴れしいことだ。それに私が聖女として認められないみたいな態度をしているけれど要は自分の気に入った女を聖女にしたいだけじゃない。
さすがは人を拉致して、理論整然としている人間が住んでいる世界の王族。身勝手この上ない。
これ以上、ここに留まっても不快指数が増すだけなので私は殿下の矛先が再び私に向かう前に部屋を出た。そんな私にいち早く気が付いた神官長が慌ててついて来る。
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