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王子は姫に隠したい
しおりを挟む気になっていた特別メニューのグラタンがテーブルに届けられた。熱そうに湯気が立ち食欲をそそる。
「優ちゃん、はいどうぞー!」
すぐに依澄がグラタンを取り分けてくれて、こちらに渡してくれる。可愛くて優しい依澄を見ていると、なんだか張り詰めていた気持ちが緩んだ気がした。
「ありがと、依澄」
「ううん!熱々のうちに食べよ?メニューの名前通りに!」
ニコニコしながら一口目を口に運ぶ依澄を見て、自分もフォークを持ち食べ始める。
「あっ、あつっ」
「あちっ」
2人して同時に声が出て顔を見合わせた。
「熱いねぇ」
「見た目でわかってたけど、やっぱりびっくりしちゃった」
やっと表情も緩んできたのか、自分の顔に自然な笑みが浮かんだのがわかった。
「依澄、ありがとうね」
「え?なにが?」
キョトンと目を丸くする依澄を見て、その愛らしさに声を出して笑ってしまう。
「え?え?優ちゃん?僕何かおかしい?あっ口の周りに何かついてるとか??」
慌ててナプキンで口元を拭って、何もつかないのを見てまた不思議そうにこちらを見て、と忙しなく動く依澄の顔と動きに癒された私は思わず手を伸ばして頭を撫でていた。
「!!!!!」
なぜかはわからないが、手が頭に触れた瞬間依澄の顔は真っ赤になった。ついでに耳も赤かった。小声で何か言ったみたいだが、聞こえなかった。
「依澄、グラタン美味しいね」
「うぅぅ、うん」
「また美味しいもの食べに、一緒にどこか行けたらいいね」
「!!!うん!!!」
食い気味の了承の返事にまた笑ってしまった。
楽しい時間はあっという間で、依澄と別れ今は家の前にいる。先程までの暖かな気持ちとはうって変わって、うんざりした気持ちでドアを開ける。中に入ってすぐ、大きな声で迎えられた。
「おかえり!優!!」
「ただいま。声大きすぎ……」
「何か言ったか!!??」
「何も!」
帰宅した自分を出迎えたのは、肉付きの良い大男だった。
「さあ!今日も父さんとトレーニング始めるぞ!!」
「疲れてるし無理」
暑苦しい大男から逃げるように自室に向かった。
「優~!!」
部屋のドアを閉めても聞こえてくる声に、小さくため息をついた。
「依澄には知られたくない…」
若王子 武は格闘技好きなら誰もが知る、超有名なプロレスラーだ。しかも悪役。その大きな肉体で相手の技を全て受け止め、攻撃も見た目に合った派手な技で観客を大いに盛り上げる。そして最後はヒーロー役に花を持たせる。完璧な悪役。それが若王子 優の父であり、先程の暑苦しい大男だった。
いい歳なのでもうすぐ引退試合を行い、華々しくリングを去る!と気合が入って最近は通常の100倍ほど暑苦しい。そしてそんな武の子供たちは皆、幼少期から格闘技を仕込まれてきた。
長男の剛士はその名に相応しく、父似のガッチリ体型を引き継ぎ、高校時代には柔道で日本一になった。今は会社所属の柔道選手として、大きな大会には必ずその名前が現れる。
次男の涼は、残念ながら父似の大柄な体型で、プロレスラーを目指しつつ、現在は大学に通っている。武から格闘センスをバッチリ引き継ぎ、卒業後の進路として何ヶ所かの事務所から声がかかっていたりする。
そして末っ子長女の優。優は若王子一族の謎と言われ続けている、美人すぎる母とゴツい大男の父親から良いところだけを受け継いでいた。父親の長身に母似の顔と線の細さ、それでいて格闘技やトレーニングをすれば武も泣いて喜ぶほどのセンスを見せた。
美人すぎて今でもモテまくって伝説を作り続ける母が、なぜこんな暑苦しくガチガチの岩みたいな悪役プロレスラーと結婚したのかは、若王子家の親類たちが集まれば必ず話題にあがる謎だ。母は毎回聞かれるたびに、頬を赤らめ恥ずかしいから秘密ですと質問をかわしている。その度に親類たちは母以上に赤い顔になって黙り込むのだ。ちなみに子供たち3人は結婚した理由を知っているが、誰にも話さない。ただ人と好みが違いすぎるだけなんだから、明かしたところで楽しくもなんともない。
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