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姫は王子に好かれたい3
しおりを挟む自分から聞いておいてなんだが、もしいるって言われたらどうしたらいいかわからない。勝手に死にそうな気持ちになって返事を待つ。
「いないよ、そんなの」
ドキッとした。普段の優からは想像できない冷たい声だったから。
「えぁ、」
驚きから思わず意味のない声が出てしまった。優はそんな俺に気付いて苦笑して言った。
「依澄は男だから今まで黙ってたんだけどね。依澄は自分以外の男子と話してる、というか男子に仲良く話しかけてる私のこと見たことある?」
学校での優の様子を思い出して見る。知り合ってからは常に一緒にいたけど、確かに用事がある時以外は俺と女子としか話してない?かも?首を捻りながら悩む俺を見てまた優が言った。
「ないでしょ?」
そうだ。ないのだ。
「それって、なんでって聞いても良い?」
恐る恐る聞くと、優は優しい顔で答えてくれた。
「実はね、依澄は特別だから気にしないで欲しいんだけど、」
「あ?若王子じゃね?」
「えっ、知り合いぃ?イケメンじゃあん」
優からなんだか嬉しすぎる言葉が聞こえてきたところで、嫌な雑音が入ってきた。
「いや、こいつ女だから。つーかさ、お前こんな遠くの店まで来て何してんの?その制服この近くの高校のじゃん。家から遠いとこ選んだねー」
制服を着崩したいかにもチャラそうな男と、これまた下品で化粧の濃い女の2人組だった。
「……」
優は優しい表情を消し、黙っている。そうだ!優は俺を助けてくれた時震えてた!俺以外の男は怖いんだ!!と思い至った俺は、優を助けようと間に入った。
「ちょっと、誰?僕と優ちゃん、2人の時間なんだから邪魔しないでくれる?」
乱暴に見えない程度にキツい顔を作り、文句を言うと男が初めて気付いたようにこっちを見た。
「お?何この子随分可愛い子じゃん。若王子って男にモテないからって、女でも誘惑してんの?君もそういう趣味?」
ニヤニヤしながら話しかけてくる男の顔面を殴ってやりたかった。性別とか見た目とか関係なく俺は優が好きなんだ。失礼すぎて、怒りで顔が般若みたいになりそうだった。
「このっ」
「おい」
俺の怒鳴り声と、聞いたことのない低い声が重なった。優の方からする。チラリと優を見ると、俯きがちで表情は見えなかったが少し震えていた。
「私のことはいいけど、依澄を悪くいうな。お前、ここは店の中だぞ。それ以上言うなら外に出るか?あ?」
決して大きくはない声だが、その凄みはとんでもなく、しっかりきっかり耳から心臓まで響いて聞こえた。
「そ、俺、これ以上話すことはなかったな!」
「えぇ?ちょっとぉ、ケーキはぁ?」
急に青ざめた男は、文句を言う彼女らしき女を掴んで出口へ向かう。店から慌てて出ていった男を見送り、優は深めのため息をひとつ吐いた。
「ごめんね。依澄、怖かったでしょ?」
悲しそうな顔をして、優がこちらを見てきた。
「大丈夫だよ。優ちゃん。びっくりしたけど、僕のこと守ろうとしてくれたんでしょ?」
これは正直な気持ちだった。怖がって震えながら、あんな凄い声で嫌な相手を撃退してくれた。しかも俺を庇って!また惚れ直した!と感動に打ち震えながら言った俺に、優は少し微笑んだ。
そこでタイミングよく注文していたメニューが来た。
優は店員さんに騒いだお詫びをしている。そういう気遣いできるとこも好きだと思った。
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