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姫は王子に好かれたい2
しおりを挟むいつものように優と食堂で昼食をとっていると、優に話しかけてくる女子がいた。どうやら優に助けてもらったらしい。2人の時間を邪魔されてイライラしたが、小さくて弱々しくて優が好きそう、と思うと余計にイライラした。
女子は優に何かを渡すと、慌てて去っていった。何を貰ったのか聞けば、優も好きなお菓子だという。喜び笑顔の優は可愛かったが、チリッとした痛みのようなものが胸に走る。
ただ、俺の知らない優の好物を知ることが出来たし、放課後デートの約束も取り付けることが出来たので、名も知らない女子のことはそれで許すことにした。
「それじゃ、行こっか?」
約束の日、俺はなんでもない様子で優に声をかける。
「そうだね。何食べようか、今から楽しみだね」
優しい微笑みで返事をした優が、俺の隣に自然に立って歩く。それだけでなんだか自分の心が満たされてゆくのを感じる。我ながら単純だ。
「ねぇ優ちゃん。今日、初デートだねぇ」
「あはは、そういえば一緒にどこか行くのって初めてだよね」
俺の内心ドキドキしながらのセリフを華麗にスルーした優は、楽しげに笑った。そう。俺たちは学校内ではずっと一緒にいるが、どこかへ出かけるってことはしたことがなかった。だから初デート。かなり気合を入れて臨んだ。女子かって位髪の毛のセットにも力を入れて、今日は俺が一番可愛く見えるゆるパーマ風にした。もちろん優が好きそうなうさぎのぱっちんピンもつけといたし。顔もパックしてツヤツヤ。なんとなく爪も磨いておいた。どこからどうみても完璧に可愛い自信があった。
「実は僕ね、優ちゃんと初デートだから、今日はとびきり可愛くしたんだけど、どうかな?」
心臓が胸を突き破って飛び出そうなくらいの緊張を隠して、もう一度アピールしてみた。俺は強い。優を手に入れるためなら可愛くぶりっ子だってできる。なんでもやれる。
「ん」
すると優は学校の女子たちがいたら悲鳴をあげて倒れそうなくらいの、完璧な王子様スマイルを浮かべながら俺の髪に触った。
「そうなの?嬉しい。世界一可愛いよ」
完敗だ。優は完璧だ。普段は可愛い女の子なのに、こういうところがかっこよすぎる。
「あ、あ、ありがとう、嬉しい」
俺はガラにもなく、隠しきれない赤面でカタコトのお礼を言うのが精一杯だった。
菓子店は人気で、しばらく並んで待ってやっと店内に入れた。
「依澄は何にするの?結構食べるから色々頼んでシェアしても良いかもね」
シェア?さすが俺の優。最高の提案だ。
「うん!ありがとう優ちゃん。何にするか悩んでたから、そうする!優ちゃん食べたいやつ先に教えて!それと僕が悩んでたやつを一緒に頼もー!」
「良かった。私はね、これにしようかな」
そう言って優がメニュー表を指差す。
「フォンダンショコラ?」
「そう。ここの美味しいから、いつもこれにしちゃうんだよね」
「そうなんだ!他に気になってるのはないの?」
「うーん、あるにはあるんだけど、ちょっとね」
苦笑して教えてくれない優を不思議に思い、聞いてみる。
「ちょっと?」
「あの、怒らないでね?これなんだけど……」
そう言って優がゆっくり指差したのは、俺がメニュー表を見た時から目につきまくっていたものだった。
「カップル限定、ラブラブあつあつグラタン&スペシャルパフェセット……」
「ここ、お菓子屋さんだし他は甘いもののメニューしかないのに、これだけはグラタンってしょっぱいメニューでしょ?味がずっと気になってて。それにこのパフェも苺とチョコたっぷりで見た目も可愛くて……あ、でも大丈夫だよ!依澄も私にとカップルだと思われたら迷惑だろうし、誰か他の人と来た時にでも」
「頼もう」
珍しく饒舌な優を見られてラッキー、しかもこんなメニュー最高じゃん、怒るはずないじゃん、てかもしかして優も俺のこと……?とか淡い気持ちで聞いてたら、聞き捨てならない台詞が聞こえて言葉を遮ってしまった。他の人ってなんだ他の人って。あとカップルと思われても全く迷惑じゃないし、そう見られたいし。
「大丈夫?無理してない?」
「無理してない。僕もこれ最初から気になってたから」
「そ、そう?それならこれ頼んでいい?」
「頼もう。絶対頼もう」
「そう言ってくれるなら、そうしよう」
若干変な空気になってしまったが、なんとか他に頼むものを決め注文した。
「優ちゃん、あのさ」
「なに?」
そう、食べるものが決まってひと段落、ではないのだ。まだ確かめなきゃいけないことがある。
「他の人と来た時にでもって、さっき言ってたけど、僕より仲の良い男、とか、いるの?」
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