9 / 15
第2話 ゴブリン、勇者に会う
ゴブリンとゾンビ
しおりを挟む
「オオタ、ワシはナタージャを迎えに行ってくる」
俺とサイジャ君は朝早くおばばさんに起こされ、そう告げられる。
「まぁ向こうの古い友人にも会っておきたいしの。2·3日留守にするが、騒ぎを起こすわじゃないぞ、特にサイジャ!」
「わーったよ」
「オオタ、留守番はお前に任せるからなっ!」
「え?わ、わかりました。行ってらっしゃ~い」
…と、笑顔で送り出すが、俺は内心相当焦っていた。
見知らぬ異世界に来てまだ2日目…。親切にしてくれた美少女ヒロイン(仮)はどっか行っちゃうし、頼りになる年長者もそれに続いて遠方に行ってしまう…。まぁ、サイジャ君はいてくれるけど。
俺はおばばさんを見送りながら、横にいるケルベロスを見る。
俺にこの魔獣の世話が務まるだろうか。ファーストインパクトは最悪だったし。
「ま、まぁ物は試しか」
一応犬という形を模してるし、何とかなるだろう、うん。
「よ~し、おいで~」
「あ~アニキ、そいつ俺を5回病院送りにしてるから気をつけろよ」
「まじでか…」
俺は慎重にケルベロスの体を撫でる。下手したら死ぬな、コレ…。
「散歩と餌は俺がやっとくから、アニキはテキトーにコイツと遊んでやってくれ」
「う、うん。了解」
しかしそんな楽な仕事だけでいいのだろうか?俺にやれることが少しでもあるなら、やった方がいいだろう。
「あ、散歩。僕も付き合うよ」
俺は出かける準備をしてるサイジャ君にそう話掛けた。
┋
┋
┋
「グワワンッワンッ!」
ベロちゃんは雄叫びを上げながら大樹にマーキングする。
「嘘でしょ」
しかしその量が半端じゃない、もしや…3頭分の量が出てるんじゃないだろうな。
「はっ!?」
突如上から視線を感じ、背筋が凍る。見ると、ハーピィが大樹の上から物凄い形相でこっちを睨んでいた。
「すいません、すいません!」
急いで持っていた水筒の水で大樹を流す。しかし全然これだけじゃ足りねぇ!
「ご、ごめんなさ~い」
俺は慌ててサイジャ君を押してここから移動するように合図して、この場を離れる。
「ん?急にどうしたんだよ」
「いや、だってこの樹ってハーピィの住処みたいだし」
「あ~そんなの気づかないフリしてりゃいいんだよ、どうせ空飛んで下なんか見ねぇんだし」
「えぇ…」
何となくおばばさんがサイジャ君じゃなくて俺に留守番を頼んだ理由が分かった気がする。俺がしっかりしないとな…。
「っていうか、この森ってハーピィがいるんだね」
「まぁランタン村含めてここら一帯は魔物の領地だからな」
「へぇ~」
「散歩するだけなら襲われたりしないから安心してよ。…と、あのデカい木がハーピィの本拠地」
しばらく歩くと、さっきの大樹よりもかなり大きな樹があった。
「ほぇ~」
見上げると、確かに上の方の太い木の枝に、鳥の巣箱っぽい家々がある。
「グォオーン」
「ん?」
ベロちゃんが情けなく一吠えした後、前足をつっぱり、お尻を下げる。
…何してんの!?
「いやいやいやまさか…」
「ん?ブリブリか?どんと出せっ!」
「どわぁあぁああっ!」
俺は大慌てで一人と一匹を大樹から離した。
┋
┋
┋
「ハァ…ハァ…」
あの後、ベロちゃんが予想以上のアレを出したため、持ち帰らずに予め用意していたスコップで埋めたのだが…疲れた。
「アニキー、律儀だな~」
「ま、まぁサイジャ君にはお世話になってるし、これくらいはね」
そして無事?に散歩を終えた俺達は家路についていた。
しかしこれが毎日続くとなると、体力的に大丈夫かなぁ…?
「よぅし、着いたぜー」
10分くらい歩いた所で村が見え、家に着く。往復で一時間ぐらいだろうか、まぁ良いダイエットだと思おう。
「アニキ、茶でも飲むか」
「お、ありがとう」
家に着くなりサイジャ君がお茶を淹れてくれて、二人でまったりする。
冷たいお茶は喉を涼やかに潤して、久々に良い汗をかいたことを実感する。こんなにお茶をうまいと感じたのはいつ以来だろう。
「ふぅー、こうしてると心が休ま」
「アア゛ー疲れた!ハイ今日のお仕事終了っ!」
「え?」
サイジャ君はお茶を飲み干した後、いそいそと寝床に行こうとする。
「ちゅちょちょっと!この後僕は何したらいいかな?」
「え?まぁ俺は寝たり遊びに行ったり人間の本を読んだりしてるけど?」
「そ、そう」
それってニー…。いや、かなり自由人だな。
しかし居候の俺がそんな事でいいのだろうか。
「うーん」
サイジャ君はすでに爆睡してる…。
俺はいきなり手持無沙汰になったので、とりあえず外に出てみた。
今は春の終わり頃だろうか、生ぬるい風が頬を撫でる。
村を見回すと、ゴブリンの老人達は農作業に勤しんでいた。
農業か…。全くやった事ないけど、俺に何かできる事があれば…。
「すいませーん、僕に何か手伝わせて下さーい」
「ん?おんや、人間のお兄さん、土いじりしてみんかい?」
「はいっ、是非!」
┋
┋
┋
「きっ…きっつ…」
30分後、俺は滝の様な汗を流しながら鍬を必死で引いていた。
しかし隣の田んぼではおそらく馬か牛用の大きな鍬を、ゴブリンのおばあさんが涼しげな顔で引いている…。
そ…そうか、ゴブリンは馬鹿力だった…。
「あんれー、お兄さんにはちと辛かったかねぇ」
隣でおばあさんが手を止めて話掛けてくれる。
「す、すいません。肉体労働は…久々で…」
俺は息も絶え絶えで弁解する。
「そっかーい。じゃ、畦の雑草取りでもしてけれたら嬉しいねー」
「わかりました」
俺は水田の中をのっそのっそと歩き、畦道に上がる。
「おぉ…これは…」
畦道は背の高い雑草がびっしり生えている。
「すぅぅぅ~」
息を整え、気合を入れる。よぉ~し、俺は肉体労働より、こうした雑用の方が得意なんだ。
「すぅぅぅ~…ん?」
畦道の向こう側に、緑色の肌をした人影がゆらゆらと揺れ動く。もしかして、草刈り鎌とか持って来てくれたのかな?
「あ、すいませ…ん?」
だがその人影は、手を前に掲げながら、アーアーと不気味に呻き、明らかに尋常じゃない感じだ。
「こ、これってもしや…」
俺はほぼ確信を持って目の前の人影の正体を叫ぶ。
「ゾ、ゾンビだぁ~!」
俺とサイジャ君は朝早くおばばさんに起こされ、そう告げられる。
「まぁ向こうの古い友人にも会っておきたいしの。2·3日留守にするが、騒ぎを起こすわじゃないぞ、特にサイジャ!」
「わーったよ」
「オオタ、留守番はお前に任せるからなっ!」
「え?わ、わかりました。行ってらっしゃ~い」
…と、笑顔で送り出すが、俺は内心相当焦っていた。
見知らぬ異世界に来てまだ2日目…。親切にしてくれた美少女ヒロイン(仮)はどっか行っちゃうし、頼りになる年長者もそれに続いて遠方に行ってしまう…。まぁ、サイジャ君はいてくれるけど。
俺はおばばさんを見送りながら、横にいるケルベロスを見る。
俺にこの魔獣の世話が務まるだろうか。ファーストインパクトは最悪だったし。
「ま、まぁ物は試しか」
一応犬という形を模してるし、何とかなるだろう、うん。
「よ~し、おいで~」
「あ~アニキ、そいつ俺を5回病院送りにしてるから気をつけろよ」
「まじでか…」
俺は慎重にケルベロスの体を撫でる。下手したら死ぬな、コレ…。
「散歩と餌は俺がやっとくから、アニキはテキトーにコイツと遊んでやってくれ」
「う、うん。了解」
しかしそんな楽な仕事だけでいいのだろうか?俺にやれることが少しでもあるなら、やった方がいいだろう。
「あ、散歩。僕も付き合うよ」
俺は出かける準備をしてるサイジャ君にそう話掛けた。
┋
┋
┋
「グワワンッワンッ!」
ベロちゃんは雄叫びを上げながら大樹にマーキングする。
「嘘でしょ」
しかしその量が半端じゃない、もしや…3頭分の量が出てるんじゃないだろうな。
「はっ!?」
突如上から視線を感じ、背筋が凍る。見ると、ハーピィが大樹の上から物凄い形相でこっちを睨んでいた。
「すいません、すいません!」
急いで持っていた水筒の水で大樹を流す。しかし全然これだけじゃ足りねぇ!
「ご、ごめんなさ~い」
俺は慌ててサイジャ君を押してここから移動するように合図して、この場を離れる。
「ん?急にどうしたんだよ」
「いや、だってこの樹ってハーピィの住処みたいだし」
「あ~そんなの気づかないフリしてりゃいいんだよ、どうせ空飛んで下なんか見ねぇんだし」
「えぇ…」
何となくおばばさんがサイジャ君じゃなくて俺に留守番を頼んだ理由が分かった気がする。俺がしっかりしないとな…。
「っていうか、この森ってハーピィがいるんだね」
「まぁランタン村含めてここら一帯は魔物の領地だからな」
「へぇ~」
「散歩するだけなら襲われたりしないから安心してよ。…と、あのデカい木がハーピィの本拠地」
しばらく歩くと、さっきの大樹よりもかなり大きな樹があった。
「ほぇ~」
見上げると、確かに上の方の太い木の枝に、鳥の巣箱っぽい家々がある。
「グォオーン」
「ん?」
ベロちゃんが情けなく一吠えした後、前足をつっぱり、お尻を下げる。
…何してんの!?
「いやいやいやまさか…」
「ん?ブリブリか?どんと出せっ!」
「どわぁあぁああっ!」
俺は大慌てで一人と一匹を大樹から離した。
┋
┋
┋
「ハァ…ハァ…」
あの後、ベロちゃんが予想以上のアレを出したため、持ち帰らずに予め用意していたスコップで埋めたのだが…疲れた。
「アニキー、律儀だな~」
「ま、まぁサイジャ君にはお世話になってるし、これくらいはね」
そして無事?に散歩を終えた俺達は家路についていた。
しかしこれが毎日続くとなると、体力的に大丈夫かなぁ…?
「よぅし、着いたぜー」
10分くらい歩いた所で村が見え、家に着く。往復で一時間ぐらいだろうか、まぁ良いダイエットだと思おう。
「アニキ、茶でも飲むか」
「お、ありがとう」
家に着くなりサイジャ君がお茶を淹れてくれて、二人でまったりする。
冷たいお茶は喉を涼やかに潤して、久々に良い汗をかいたことを実感する。こんなにお茶をうまいと感じたのはいつ以来だろう。
「ふぅー、こうしてると心が休ま」
「アア゛ー疲れた!ハイ今日のお仕事終了っ!」
「え?」
サイジャ君はお茶を飲み干した後、いそいそと寝床に行こうとする。
「ちゅちょちょっと!この後僕は何したらいいかな?」
「え?まぁ俺は寝たり遊びに行ったり人間の本を読んだりしてるけど?」
「そ、そう」
それってニー…。いや、かなり自由人だな。
しかし居候の俺がそんな事でいいのだろうか。
「うーん」
サイジャ君はすでに爆睡してる…。
俺はいきなり手持無沙汰になったので、とりあえず外に出てみた。
今は春の終わり頃だろうか、生ぬるい風が頬を撫でる。
村を見回すと、ゴブリンの老人達は農作業に勤しんでいた。
農業か…。全くやった事ないけど、俺に何かできる事があれば…。
「すいませーん、僕に何か手伝わせて下さーい」
「ん?おんや、人間のお兄さん、土いじりしてみんかい?」
「はいっ、是非!」
┋
┋
┋
「きっ…きっつ…」
30分後、俺は滝の様な汗を流しながら鍬を必死で引いていた。
しかし隣の田んぼではおそらく馬か牛用の大きな鍬を、ゴブリンのおばあさんが涼しげな顔で引いている…。
そ…そうか、ゴブリンは馬鹿力だった…。
「あんれー、お兄さんにはちと辛かったかねぇ」
隣でおばあさんが手を止めて話掛けてくれる。
「す、すいません。肉体労働は…久々で…」
俺は息も絶え絶えで弁解する。
「そっかーい。じゃ、畦の雑草取りでもしてけれたら嬉しいねー」
「わかりました」
俺は水田の中をのっそのっそと歩き、畦道に上がる。
「おぉ…これは…」
畦道は背の高い雑草がびっしり生えている。
「すぅぅぅ~」
息を整え、気合を入れる。よぉ~し、俺は肉体労働より、こうした雑用の方が得意なんだ。
「すぅぅぅ~…ん?」
畦道の向こう側に、緑色の肌をした人影がゆらゆらと揺れ動く。もしかして、草刈り鎌とか持って来てくれたのかな?
「あ、すいませ…ん?」
だがその人影は、手を前に掲げながら、アーアーと不気味に呻き、明らかに尋常じゃない感じだ。
「こ、これってもしや…」
俺はほぼ確信を持って目の前の人影の正体を叫ぶ。
「ゾ、ゾンビだぁ~!」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

半分異世界
月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。
ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。
いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。
そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。
「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

超文明日本
点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。
そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。
異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。
阿吽
ファンタジー
クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった!
※カクヨムにて先行投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる