ザ ゴブリンキング

ペーパーラヴァー

文字の大きさ
上 下
8 / 15
第2話 ゴブリン、勇者に会う

モルダとソルダ

しおりを挟む
突然女の人の甲高い声が響き、その声がする方に行く。すると俺達の家の前に二人の男女ゴブリンが立っていて、ナタージャさんが怒り顔でその二人に対峙していた。
「オオタ、お前はメンド臭いから隠れておれ」
「あっ、はい」
おばばさんに促されてベロちゃんの餌?置き場の木箱裏に屈んで体を隠す。
「こんにちは~、"ハーフ"ゴブリンのランタン村の皆さん!」
「何しに来たの馬鹿兄弟っ!」
「馬鹿兄弟はそっちでしょ、私達は村で採れたブルーベリーを届けに来ただけですわ」
「おお、毎度すまんのモルダ」
おばばさんがナタージャさんを押しのけてブルーベリーの入ったフルーツバスケットを受け取る。
「あらおばばさんこんにちは。このブルーベリーは"純ゴブリン"である弟のソルダが育てたんですわ」
「おぉ、そうかい」
「姉ちゃん、それ純ゴブリンはあんま関係ないんじゃ…」
へー、弟の方のゴブリンは確かにゲームとかに出てくるいかにもなゴブリンっぽくてカッコいいな。見事なつるッパゲである。仲間仲間。
「おいおいおばば。いちいちそんな奴ら相手にすんなよ」
サイジャ君が俺の後ろから家の方に出て行く。
「アラ~、ニートのサイジャ君じゃありませんか。少しは成長しましたか?」
「あにぃっ!?」
「あっ、…まぁサイジャは言われてもしょうがないかな…」
「何でだよっ!?フォローしろよっ!」
サイジャ君は姉の方の純ゴブリンに煽られていとも簡単に怒ってしまう。しかしおばばさんが言ったように、確かにこの状況はちょっと面倒臭いかもしれない。
「おいおい、あんま失礼な事言うなよ姉ちゃん」
美人の姉と違って弟はまんまゴブリンなのに常識人らしい。異世界って分からねぇもんだな…。
「失礼じゃありませんわ。事実、サイジャ君はゴブリンらしさの欠片も無い見た目をしてるじゃない」
「んだとぉ…!くそっ、アニキっ!」
突然サイジャ君に呼びかけられて体がビクッと反応する。
「へっ!お前らに真のゴブリンをみせてやるぜっ!」
え、これ俺を呼んでる?さっきおばばさんに隠れてろって言われたしな…。ここはバレないようにこっそり逃げて…。つか誰が真のゴブリンやねん。
「そこに誰かいるんですの!?」
しかし、速攻でバレる…。まぁただでさえ巨漢だしな。
「やれやれ、もう出て来てよいぞオオタ」
おばばさんは仕方が無いという風に許可してくれる。俺もコソコソ隠れるのは苦手だしありがたい。
それにサイジャ君が貶されてこっちもちょっとムカついてた頃だ。ニート馬鹿にすんじゃねぇ!
「どうも゛っ、こんにぢわ゛っ」
俺は出来るだけ低い声で挨拶して威圧する。これでちょっとはサイジャ君に対する態度を改めればいいが。
「な、なんですのっこのゴブリン!」
「すげぇ、めっちゃ威厳ある!」
案の定、純ゴブリン兄弟はあからさめにうろたえる。
嬉しいような、悲しいような…。
「俺、ソルダっす、よろしくっす」
「えっ?」
弟の方のゴブリンがにこやかな顔で握手を求めてきた。
「あぁ、こっちこそよろしく。君とは仲良くやれそうだ」
俺は真下のハゲ頭を見下しながらソルダ君と固く握手する。
「な!そんな奴と仲良くすんじゃねぇ、アニキ!」
「そ、そうですわっ、ニートのサイジャの知り合いなんかと!」
くと、まだ言うかこの女っ。美人だけど性格悪い人はNGで。
「でも姉ちゃんすげぇ立派なゴブリンだぜ?」
「そうだそうだー、馬鹿モルダはすっこんでろ~」
「じゃ、じゃあこのゴブリンはどんな事ができるんですの?」
「え?」
不意に鋭い質問が飛んでくる。皆の視線が痛い。
「なんもできませーん」
…俺は苦笑いでそう答えるしかできなかった。
「ほぅら、所詮ランタン村はニートの巣窟なんですわーっ」
モルダと呼ばれるゴブリンは勝ち誇ったように高笑いする。
俺はサイジャ君と一緒にうなだれながら頭を掻く。
これ俺のせいだよな…。
「おいおいそこまでにしておけよモルダ。結局お前はナタージャに構って欲しいだけじゃろ」
今まで黙ってやり取りを見ていたおばばさんが話に割って入る。
「なっ!そ、そんなことないですわっ、私はただ」
「グールド村で何か採れるとすーぐナタージャのために持って来てくれるのう。いつもありがとう」
おばばさんは弱冠からかい気味にお礼を言う。それに対しモルダさんは顔を赤らめてプルプル震えていた。
「え、そーなの?」
「あ、そーなん?」
「ふーん、そうだったんだ」
おばばさんの言葉にみんな意外そうな顔をする。
しかし瞬間、俺の脳内には少女漫画特有の薔薇色の世界が広がっていた…。
いや~美少女同士の百合っていいっすね~。さっき性格NGって心の中で言ってゴメンネッ☆
「そんなことありませんわーっ!!!」
しかしその世界はモルダさんの大声で掻き消された。
「ナタージャっ!あなたの腐ったその根性、私のグールド村で叩き直してやりますわっ!」
「え?なんで私?」
「いいから来いっ!」
強引にモルダさんに引っ張られて、ナタージャさんはあ~れ~と連れ去られてしまった…。
「なんかすいません。何日かナタージャさん借ります」 
ソルダ君はぺこりと謝罪する。
「別にいーって、むしろせいせいするし」
サイジャ君はしっしっとナタージャさんが連れ去られた方向に手を振る。しかし、ソルダ君は何度か頭を下げながら帰って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

超文明日本

点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。 そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。 異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

処理中です...