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第十話 練習以外の時間

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「良いかい、君達が才能に充ち満ちていて多少の事ならたった一人でも容易く解決出来てしまう凄い人達だって事は僕ももう充分に理解したよッ。でもさ、このゲームはあくまでチーム戦であって、しかも僕達は唯楽しむ為に集まった仲良し集団じゃなく勝つ為、勝利する為に集まった競技eスポーツチームなんだよ。其処を君達はちょっと忘れてしまってるんじゃないのかな? 確かにさっきの試合は勝てた、確かに勝てたけどももっと楽に確実に勝てるルートがあったんだよ。エイナ、君があそこで前に出過ぎ無ければ助けるのも容易だったしそもそも敵はヘブンズウォールを使っていなかったかも知れない。それにあそこでジークが変に助けに行かなければ、もっと時間を掛けレベルを上げた上で強化魔法も使う必要無く敵を倒せた筈だ。もうこれ説明するのは何回目だったかな? このチームの基本的な戦術は前線を無理せず適度に上げる、若しくは維持しエースに広いレベリングスペースを与えていち早くジークを強化して前線に投入しゆっくりと敵陣に押し込み勝利する。これが最善で最もリスクが無いんだよ。確かにこれ以外でも勝てるかも知れない、でも其れでもゼロコンマ1でも勝率を上げて敗北の可能性を下げるっていうのがプロリーグを目指す上で重要なんだ。分かるかな、プロリーグに行くのが目標じゃなく……何が出来るか…………最終的に優勝を目指してるんだから………………つまり僕が言いたいのは………………………………………」


 新メンバーを加えて初めての練習、VIPマッチでの数戦を終え現在、海斗の前に疾風と優奈が正座せられている。
 全くもってリーダーの指示を聞かないエースと、了解と言いながら敵が背を向けたら我を忘れてぶっ殺しにいくアーチャーへのお説教タイムだ。

(あの……この話って一体何時終わるんです? この人もう2時間顔に薄笑い貼り付けたまま喋り続けてるんですけど。怖いんですけどッ)

(考えるな、素数算えろ素数。時間なんて気してたら精神保たねえぞ)

 疾風が助け求める視線を先輩に送ると、優奈はもう何もかもを悟った修験者の様な目で床の木目を視線でなぞっていた。

(何時もお説教タイムってこんな感じなのか?)

(日によってまちまちだよ。早い日は30分ぐらいで終わる)

(長いときは?)

(知ってるか? 一晩中同じ声聞きながら正座し続けた後の朝日って、めっちゃ綺麗なんだぜ?)

(……………アハッ、アハハッハ、アハッアハ~~)

(おいッ、疾風!? 気を確かに持てッ、精神もってかれてるぞ!!)



「ちょっと疾風ッ、ちゃんと聞いてるのかい? 何で白目剥いて涎垂らしてるんだ??」

「…はッ!? はいッ、ちゃんと聞いてます!!」

 突然海斗に質問され、疾風は寧ろ聞いてませんでしたと言うが如く素っ頓狂な声を出した。

「よし、じゃあ今僕が何を話していたのか言ってごらん。それが出来たら今日のお説教は此処までにしておこう」

「「ッ!?」」

 その海斗の発言に、感情を捨て只管ひたすら木目をなぞっていた優奈のうつろな目が見開かれる。そして絶対に外すなというプレッシャーを視線だけで伝えてきた。
 刺す様な視線って本当に有るんだなと、疾風はこの時初めて知ったのである。

 だがしかし、そんな目で見られても疾風は今海斗が何を言っていたのか皆目見当も付かなかった。こんな長時間話を聞いていられる我慢強さが有れば、そもそもレベリングを途中で投げ出すなんて真似しないだろう。
 そもそも勝ったのに何故怒られなければいけないのか理解出来ない。

 それでも、此処で答えを出さねばこのお説教がこの先どれ程続くのかも又分からない。何としても正解を出さなくては。
 疾風は自分の精神を守る為脳みそのシナプス結合全てを使用。己の持てる全て、いや持てる以上の知識を限界を超えて引っ張り出し、彼の思考は別次元の領域へと到達した。

 

「まあ端的に言うと…………インボイス制度はクソって話ですよねッ」

「何処の知性をフル回転させてるんだい? それは作者の薄っぺらな政治思想だよね、炎上するからそういう事書くの辞めなさい」

 考えに考えた結果次元の壁を越えてしまった疾風の回答は、正解とか不正解とかそういう以前の問題であった。

「はあ…本当は間違っててもお説教は此処で終わりにしようと思ってたけど、今のは流石に見過ごせないな。罰としてもう一度頭から話をするとしようか」

「えぇッ!? ちょ、それはだけは勘弁ッ……グヘェッ!」

 チャンスを逃した疾風の胸ぐらを横から優奈が掴み上げる。その視線は刺す様なというより、最早刺してきそうな視線であった。


ブンッ!! ブンッ!! ブンッ!! ブンッ!!

「疾風ッてめえェ、なに外してくれてんだ”!! アタシの精神がぶっ壊れたら責任とってくれんのかッ、あ″あん? もう無理だからな、もう限界だからなッ、一体木目何往復したと思ってんだ!!」

「そッ、そんな事オレに言われてもッ……っていうか、優奈はッ何言ってたのか分かるのかよ!」

「あ″? インボイス制度はクソって言って外れたんだから、インボイス最高って言えば良いんだろうが!!」

「ちがうよ優奈。それも炎上するから辞めようね」

「いッ、インボイス制度最高ーー!!」

「疾風それ正解じゃないから。本当に炎上しちゃうよ?」

 想像しる中で最悪の結果が訪れ、優奈は八つ当たりで疾風の胸倉むなぐらを掴み右へ左へと振り回した。そして外れの反対は当たり理論で、疾風以上にヤバい事を声高らかに叫ぶ。
 更に涙目になって振り回され続ける疾風すらも、その大外れな正解を叫ぶというカオス極まる状況。

 そうして1度のみで此処まで精神が壊れるお説教をもうワンセット行なうのかと2人が絶望しかけたその時、しかし思いもせぬ希望が下から湧き上がってきた。


「みんな~、凪咲ちゃんと一緒にクッキー焼いたから下へ食べに来てちょうだ~い! 三時のおやつにしましょ~!」


 一階から聞こえたのは海斗の姉である相模久美さがみくみさんの声。
 確か凪咲が久美さんと一緒に何かすると言っていたが、どうやらお菓子作りを行なっていたらしい。

 加えてその音で2人の説教を聞きながら昼寝していた聡太が「クッキーッ!? クッキー何処ッ!」と言いながらデカい図体を跳ね起こした。
 その能天気のうてんき極まる声に疾風と優奈は強い殺意を覚える。

 しかしその殺意を一先ずかたわらに置いておいて、二人は命乞いをする様な目で海斗を一心に見上げた。どうか許して下さいと、無益な殺生は辞めてお茶にしましょうと。
 四つの目は口以上に雄弁に彼へと語りかける。

「……………はぁ、分かった。二人共今日は特別に勘弁してあげよう。下におやつ食べに行こっか」

「本当かッ!? 久美さん神ッ、マジで命の恩人だ!!」

「愛してるぜ久美の姉御あねごッ結婚してくれ! アタシがぜってえ幸せにしてやっからな!!」

「クッキーッ!? クッキー何処ーッ!!」

 海斗がおやつを食べに行こうと言った途端、疾風と優奈の瞳は一転してキラキラと生命の輝きに満ち溢れる。
 そして疾風・優奈・海斗・聡太の四人は良い匂いが漂ってくる一階へと、先を争う様にして駆け下りていったのであった。
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