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第七話 黒いハイエース②
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「済みません、コード・ジークさんですよね?」
「………………は、はぃ?」
突如、背後から声が聞こえて振り返った疾風は、其処に立ってた女性の質問に疑問符交じりの返答を返した。
トイレに行くフリをして何とか無事会場から脱する事に成功した疾風は、妹に言われた通り直でタクシーに乗り家へと帰ろうとしていた。
しかしそこで、今度はポケットの中から財布が消えている事に気付いたのである。
イベントの中で盗られた可能性も有る。
だが自分のズボラ加減を鑑みるに落としたと考えるのが最も妥当であろう疾風は、タクシー乗り場の前で呆然と己のリアル生存能力の低さに打ち拉がれていたのだった。
しかしそんな彼を、突如プレイヤーネームで呼ぶ声が聞こえたのである。
「やっぱりそうだ~、さっきのステージでの戦い見てましたよ。コード・ジークさんって、あのレッドバロンを倒し掛けた方ですよね? とっても強くてカッコよくて、私憧れちゃうな~」
「は、はぁ……どうもッ」
振り返った疾風の背後に、声の主であろう女性が笑顔で立っていた。そして過剰なまでのネコ撫で声で、先ほどの戦いを称賛してくれている。
他人の女性に称賛して貰える事なんて暫く無かった疾風は、その言葉を受けて照れと微かな笑顔が滲む。
しかし現実でプレイヤーネームを呼ばれ、ゲームが上手いと称賛されている事に何か恥ずかしさを感じ、疾風は少し女性から距離を取った。
ガシッ
すると、女性が後ろへ引いた一歩より大きく前に出て来て、彼の手を掴んだのである。流石に違和感を覚えた。
たがそんな疾風へと、女性は張り付けた様な笑みと共に更なる言葉を畳み掛けてくる。
「私、一目惚れかも知れません。会場の巨大スクリーンに貴方を見た時から、貴方のプレイングが目に焼き付いて消えないんです。実は私ピンクブラッドというeスポーツチームを作っていて、チームを勝利に導いてくれるエースさんを探してたんですね。それでコード・ジークさんを見て、この人しかいないって確信したんです。貴方となら私達きっとプロリーグにだって行けます。ね、そう思うでしょ?」
「え……いや急にそんな事言われてもッ」
突然態度が豹変し早口にeスポーツチームだのプロリーグだのと話題に出してきた女性に疾風は恐怖を覚え、その手を振り払おうとする。
しかし彼女は凄まじい力で痛いほど腕を握っていて、逃げる事が出来ない。
「あ、済みませんッ確かに余りに急過ぎましたね。じゃあお茶でもしながらゆっくりお話ししましょうか。この近くに良い喫茶店が有るんです」
「いやッ、良いです。もう帰る所だったんで。手離して貰って良いですかッ」
「遠慮なさらないでください。何なら私達が送ってあげますので、何時間でも問題なくお話できますよ。貴方が私達のチームに入ると言うまで、何時間でも……キャッ!?」
ッバシン”!!
断ってもお構いなしに腕を引っ張ってきて、その言葉の内容が明らかに普通ではない方向へと舵を切った女性に対し、疾風の恐怖心はピークに達する。
だがそこで突如、彼女の手が高音を上げて叩かれたのだった。
そして驚き手を離した女性へと、いつの間にか自分と彼女の間に立っていた大柄なスポーツマンが如き外見をした男性が、叱り付ける様にして言ったのである。
「彼嫌がっているだろ! 強引な勧誘はやめろ、みっともない!!」
手を叩いた男はそう一括し、女性と疾風の間に割って入り壁となった。如何やら助けてくれたらしい。
多少やり方が強引にも見えたが、一応疾風は助けて貰ったお礼を述べる。
「あ、ありがとうございます。助かりました」
「ハハハッ、危ない所だったね。君は今一番の有名人だから欲しがってる輩は沢山いる、気を付けないと」
「はい? 有名人って…何でオレが」
「ところでコード・ジーク君、君はeスポーツチームに興味は無いかな? 実は俺ドレッドバッファローっていうチーム組んでるんだけど、強いエースを探しててね。此処で会ったのも何かの縁だと思うし、ちょっと話だけでも聞いてくれないかな?」
「…………え?」
自分を助けてくれた恩人だと思っていた人物から再び飛び出した、eスポーツチームという言葉。そしてこの男の顔にも表れた張り付いた様な笑顔に、疾風は戦慄して身体が動かなく成る。
そして恐怖で耳が冴えたのか、いつの間にか、周囲が自分のプレイヤーネームを呼ぶ声で溢れている事にやっと彼は気付いたのだった。
「おいッ、コード・ジークが居るぞ。何かもう外に出てる!! お前ら急げ!!」
「コード・ジーク!! ウチのチームに入らないか!!」
「おいてめえら退けよッ!! 彼は俺達のチームが貰うんだよ!!」
「コード・ジーク! 野球しないか!!」
「コードジーク君~、お姉さん達とちょっとお話しない? 楽しい事沢山出来るわよ~」
「コード・ジーク様!! 大会賞金もギャラも全部貴方が貰って良い、だからウチに入ってくれ!!」
「君はウチでこそ輝ける!! 我がクレイジーフォックスは君に最高の席を用意している!!」
いつの間にか、周囲は見知らぬ大量の人々と声で溢れていた。
薄暗いジメジメとした部屋で引き籠ってきた疾風には、余りに普段身を置いている環境との間にギャップがある状況。
鼓膜を引っ掻く大音量と、鼻を突きさす人の匂いと、皮膚を焼く暑さに強い吐き気を覚える。
そして等々我慢できず嘔吐しかけたその寸前、周囲から浴びせかけられるプレイヤーネームに交じって、あの名前が聞こえた。
「群”雲”疾”風””ェェェェッ!!!!」
それは何となく聞き覚えのある声。更に直後、身に覚えのある力で後ろ襟を強く引っ張られた。
その微かに感じる知り合いの気配に、疾風は藁をも縋る思いでその方向を向く。
「走れ疾風ッ!! 車を待たせてある、一緒に逃げるぞ!!」
そう凛堂優奈は力強く言って、顔を青白く染めた疾風の手を引いたのであった。
「………………は、はぃ?」
突如、背後から声が聞こえて振り返った疾風は、其処に立ってた女性の質問に疑問符交じりの返答を返した。
トイレに行くフリをして何とか無事会場から脱する事に成功した疾風は、妹に言われた通り直でタクシーに乗り家へと帰ろうとしていた。
しかしそこで、今度はポケットの中から財布が消えている事に気付いたのである。
イベントの中で盗られた可能性も有る。
だが自分のズボラ加減を鑑みるに落としたと考えるのが最も妥当であろう疾風は、タクシー乗り場の前で呆然と己のリアル生存能力の低さに打ち拉がれていたのだった。
しかしそんな彼を、突如プレイヤーネームで呼ぶ声が聞こえたのである。
「やっぱりそうだ~、さっきのステージでの戦い見てましたよ。コード・ジークさんって、あのレッドバロンを倒し掛けた方ですよね? とっても強くてカッコよくて、私憧れちゃうな~」
「は、はぁ……どうもッ」
振り返った疾風の背後に、声の主であろう女性が笑顔で立っていた。そして過剰なまでのネコ撫で声で、先ほどの戦いを称賛してくれている。
他人の女性に称賛して貰える事なんて暫く無かった疾風は、その言葉を受けて照れと微かな笑顔が滲む。
しかし現実でプレイヤーネームを呼ばれ、ゲームが上手いと称賛されている事に何か恥ずかしさを感じ、疾風は少し女性から距離を取った。
ガシッ
すると、女性が後ろへ引いた一歩より大きく前に出て来て、彼の手を掴んだのである。流石に違和感を覚えた。
たがそんな疾風へと、女性は張り付けた様な笑みと共に更なる言葉を畳み掛けてくる。
「私、一目惚れかも知れません。会場の巨大スクリーンに貴方を見た時から、貴方のプレイングが目に焼き付いて消えないんです。実は私ピンクブラッドというeスポーツチームを作っていて、チームを勝利に導いてくれるエースさんを探してたんですね。それでコード・ジークさんを見て、この人しかいないって確信したんです。貴方となら私達きっとプロリーグにだって行けます。ね、そう思うでしょ?」
「え……いや急にそんな事言われてもッ」
突然態度が豹変し早口にeスポーツチームだのプロリーグだのと話題に出してきた女性に疾風は恐怖を覚え、その手を振り払おうとする。
しかし彼女は凄まじい力で痛いほど腕を握っていて、逃げる事が出来ない。
「あ、済みませんッ確かに余りに急過ぎましたね。じゃあお茶でもしながらゆっくりお話ししましょうか。この近くに良い喫茶店が有るんです」
「いやッ、良いです。もう帰る所だったんで。手離して貰って良いですかッ」
「遠慮なさらないでください。何なら私達が送ってあげますので、何時間でも問題なくお話できますよ。貴方が私達のチームに入ると言うまで、何時間でも……キャッ!?」
ッバシン”!!
断ってもお構いなしに腕を引っ張ってきて、その言葉の内容が明らかに普通ではない方向へと舵を切った女性に対し、疾風の恐怖心はピークに達する。
だがそこで突如、彼女の手が高音を上げて叩かれたのだった。
そして驚き手を離した女性へと、いつの間にか自分と彼女の間に立っていた大柄なスポーツマンが如き外見をした男性が、叱り付ける様にして言ったのである。
「彼嫌がっているだろ! 強引な勧誘はやめろ、みっともない!!」
手を叩いた男はそう一括し、女性と疾風の間に割って入り壁となった。如何やら助けてくれたらしい。
多少やり方が強引にも見えたが、一応疾風は助けて貰ったお礼を述べる。
「あ、ありがとうございます。助かりました」
「ハハハッ、危ない所だったね。君は今一番の有名人だから欲しがってる輩は沢山いる、気を付けないと」
「はい? 有名人って…何でオレが」
「ところでコード・ジーク君、君はeスポーツチームに興味は無いかな? 実は俺ドレッドバッファローっていうチーム組んでるんだけど、強いエースを探しててね。此処で会ったのも何かの縁だと思うし、ちょっと話だけでも聞いてくれないかな?」
「…………え?」
自分を助けてくれた恩人だと思っていた人物から再び飛び出した、eスポーツチームという言葉。そしてこの男の顔にも表れた張り付いた様な笑顔に、疾風は戦慄して身体が動かなく成る。
そして恐怖で耳が冴えたのか、いつの間にか、周囲が自分のプレイヤーネームを呼ぶ声で溢れている事にやっと彼は気付いたのだった。
「おいッ、コード・ジークが居るぞ。何かもう外に出てる!! お前ら急げ!!」
「コード・ジーク!! ウチのチームに入らないか!!」
「おいてめえら退けよッ!! 彼は俺達のチームが貰うんだよ!!」
「コード・ジーク! 野球しないか!!」
「コードジーク君~、お姉さん達とちょっとお話しない? 楽しい事沢山出来るわよ~」
「コード・ジーク様!! 大会賞金もギャラも全部貴方が貰って良い、だからウチに入ってくれ!!」
「君はウチでこそ輝ける!! 我がクレイジーフォックスは君に最高の席を用意している!!」
いつの間にか、周囲は見知らぬ大量の人々と声で溢れていた。
薄暗いジメジメとした部屋で引き籠ってきた疾風には、余りに普段身を置いている環境との間にギャップがある状況。
鼓膜を引っ掻く大音量と、鼻を突きさす人の匂いと、皮膚を焼く暑さに強い吐き気を覚える。
そして等々我慢できず嘔吐しかけたその寸前、周囲から浴びせかけられるプレイヤーネームに交じって、あの名前が聞こえた。
「群”雲”疾”風””ェェェェッ!!!!」
それは何となく聞き覚えのある声。更に直後、身に覚えのある力で後ろ襟を強く引っ張られた。
その微かに感じる知り合いの気配に、疾風は藁をも縋る思いでその方向を向く。
「走れ疾風ッ!! 車を待たせてある、一緒に逃げるぞ!!」
そう凛堂優奈は力強く言って、顔を青白く染めた疾風の手を引いたのであった。
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