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第四話 オンラインマッチ⑪

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『お詫び』
手違いで今朝の投稿はストックしていたかなり先の内容を投稿してしまいました。混乱させてしまった方々は申し訳ありません。

明日はその分を含め一日3話更新と成ります。


_  _  _



ッビュウ”ン”!!!!

 アーチャーがブーストを起動させた。その事実にジークが気付いたのは、既に光の矢が自らへ向け射放たれた後。
 突如倒れ込んできたナイトに視界を塞がれた事が原因である。

 その試合の勝敗を決した一瞬に起った出来事は、一から十まで全てジークにとっての想定外であった。

 コンピューター制御のモンスターとばかり戦っていたなら如何して遭遇出来ようか。
 激烈な打撃を一身に浴びながらも彼の動きを止める為前に倒れてくる敵。その意志を速やかに読み取り仲間の命ごと彼を射貫くという選択を下せる敵。個々の成績の為でなくチーム勝利の為に身を粉に出来る強敵達。

 それら自分の知らない強さを見せ付けられ、ジークは漸く理解したのである。eスポーツという物の面白さを。そして自分がもうこの攻撃を回避する事は叶わないという事を。
 円卓の騎士団相手に実質三名のプレイヤーを葬る大立周りをしてみせたアサシンは、しかし最後に自らを追い詰めたチームへの喝采として潔く身動きを辞めその一矢を受け入れた。

 アルテミスアローの金色《こんじき》に煌めく矢が、ジークの心臓を貫いたのである。



サアアアアァァァァァ………………………………



 終戦の矢が眩光げんこう散らしながら貫いていった空間を一陣の風が吹き抜けていった。そしてそれに揺られる二つの影を見て、アーチャーはこの大一番自分は狙いを違わなかったのだと胸を撫で降ろす。
 彼が矢を放った場所に、ナイトとアサシンは矢弦やづるを弾いたその瞬間と全く同じ様子で立死していたのだ。

「倒したのでござるね。あのアサシンを、拙者とArthur殿の力で……」


【キルログ Tristran→Arthur✖】

【このキルは同チーム内で発生した物の為レベルアップは発生しません】


 立ち位置の関係で先に絶命する事と成ったナイトのキルログが表示される。
 アーチャーが仲間を射貫いて発生させたキルの為チームキルの認定となり、レベルが確定で1UPするボーナスは発生しない。そしてらし行為対策としてチームキルを行った日付と時間がアーチャーのプレイヤープロフィールに記載される。

 この記載があるだけで、彼はこの先チームを組む際に敬遠され続ける事と成るだろう。
 だがしかし、現在所属している円卓の騎士団とプレイヤー人生を共にする覚悟の彼にとって、その様な事ペナルティーの内に含まれないのである。

 アーチャー、プレイヤーネーム Tristranは心の底からこの高い志を持った円卓の騎士団というチームを愛していた。
 リーダーでウィザードのMerlinは誰よりも優れた頭脳を持つ天才。ナイトのArthurは情報収集と戦術研究を怠らない努力家。マーチャントのGawainは唯一無二の視点を持つゲームチェンジャー。
 円卓の騎士団のメンバーは皆本心から自分達こそが最強であると誇り、そのビッグマウスに見合うだけの血が滲む様な努力をずっと積み上げてきた。毎日VIPマッチに潜り一戦一戦全力で戦い、各試合毎に反省のミーティングを行う。ブレインスペックを最大化する為徹底した生活管理。毎月の様に強敵と一発勝負の緊張を求めてオフラインイベントへの遠征。

 出来る事は全てやっている、それ故日々の疲労も生半可な物ではない。しかしそれでも仲間達は愚痴一つ零さず前を向き只管強く成る為の努力を繰り返せるのだ。
 だからTristranはこのメンバーなら何時かプロリーグに参戦し、日本一になり、そして世界一に成る事だって夢ではッ………


トンッ、パッシャァァン!!!!!!


 視線を通知タブに落としていたアーチャーの鼓膜を、突如何か重い物が倒れ飛び散った音が揺らす。
 
「………………………………………ッな………?」

 その何かは分からないが何故なぜか聞き覚えのある音に、彼は考える間もなく視線を送った。
 其処に見えたのは、地面に散らばった光の粒。そして恐らくナイトの身体をたおし砕け散らせたのであろう右手を眺め、ニヤニヤと笑うアサシンの姿。


 奴の顔に浮かんだ純粋で混じり気の無い笑顔が、この瞬間アーチャーの目にはまるで悪魔の狂笑が如く映ったのである。


「……………何で、何でだ。間違い無く攻撃は当ったッ、あのブーストの矢を受けてアサシンが生き残れる訳が無い。それらなのに何でッ。何で、何でッ何で何で何で、何で死んで無いんだよォ″!!」

 アーチャーは個性であるオタク口調も忘れ、絵に描いた様な動転で天地がひっくり返ったかの如く喚き散らした。
 だがそんな彼の嘆きは、チーム間でボイスチャットのやり取りは出来ないというランクマッチの仕様に阻まれアサシンには届かない。

(さっきのは本気で危なかった。アレを取ってなかったら今頃オレも光の粒に成ってたんだろうな)

 しかし偶然にも、仕様の壁に阻まれた向こう側ではジークがその回答とも呼べる様な事を内心呟いていたのである。
 あの瞬間、ジークは確かに為す術無くブーストの直撃を貰いこの試合最大の危機に瀕した。そして今彼がこうして生き残っているのは、ひとえにアサシンというジョブに与えられしぶっ壊れスキルのお陰。

 だがスキルが無ければ自分は死んでいたというその事実じじつ故に、ジークはここ暫くでも1,2を争う満面の笑みを今浮かべている。

「さあッ、次はどんな驚きをオレにくれるんだ?」

「ちッ、チーターだァッ!! チート、チートに決まってる!!」

 素晴らしい遊び相手を見付けたジークは、早く次の遊びがしたいと軽やかな足取りでその玩具へと近づいていく。
 しかし一方でアーチャーは自分に出来る最高のプレイを無に帰され、何かが崩れてしまったかの如く腰が抜けた。

 そして互いに予期せず、ホラー映画風の恐怖に後退るターゲットと追い詰める殺人鬼の様な構図と成ってしまう。


「何で逃げるんだよ? もっと遊ぼうぜッ」

「ふざけるなッ!! ふざけるなよッ。こっちは遊びじゃなく全力でやってるんだァ、それをお前みたいな……碌に努力もしていないチーターに否定されて溜まるかッ!!」

「なあ、次はどうやってオレを驚かせてくれる? 色々準備してきたんだろ??」

「これだからランクマッチは嫌なんだよッ!! マナーの無いッ改造厨だらけ、本気でプレイしている人達に申し分け無いとは思わないのか! 僕達が日頃どれだけ一戦一戦の為に努力してきてると思ってるんだ」

「逃げないでくれよ。勝負しようぜ、その弓とオレのこの短刀でさッ。最後にどっちが強いのか比べ合おう」

「お前達みたいな……自分が楽しければ良いって奴が一番邪魔なんだよ。社会の癌だ!! 何で好きだった事も嫌いに成るくらい努力を重ねてきた俺達の様な人間が、碌に時間も掛けてないお前達なんかに……ッ」


 ジークは敵の更なる想定外のアクションを引きだそうと、腰から短刀を引き抜き相手に向ける。
 しかしそんな彼の期待に反して、アーチャーは腰を地面に着け後退るばかりだ。弓矢が武器ならば近づかれる前に攻撃したいと思う筈なのだが。
 
 その自分と相手の間に生まれた奇妙な状況に、流石のジークも違和感は覚える。

(何か変だな………。まあ向こうから来ないなら、こっちから仕掛けて反応を引き出すか)

 しかし彼らが行ってきた過酷な努力など想像する事さえ出来ない天才は、アーチャーがこの様に成っている原因を考えもせずに足を振り上げた。

 自分が攻撃すれば相手も何かしらか反応を示す筈。自分が圧倒的な才能でチームメンバーの四分の三を惨殺しても相手は気にせず遊んでくれる筈。
 それがゲームの事を、何時でも逃げ込める遊び場と捉える人間の思考であった。


「………ふざけるなッ。お前なんかに、倒されて溜まるもんか!!」


 そして当然、そんな彼とこのゲームを遊びでは無く夢と捉えている人間の考えは大きく乖離していた。

 こんな努力も何もしていない人間に倒される訳にはいかないのである。こんな時間も青春も捧げていない人間に自分の人生を否定されては堪らない。
 自分が、自分達が、円卓の騎士団が、こんなランクマッチの無名プレイヤー一人に全滅させられた。そんな事チームを愛する彼には認められなかったのである。


ッパアアアアン!!

「…………え?」

【チームブルーがリタイアを選択しました。Congratulation、貴方のチームの勝利です】


 ジークが新たな遊びの始まりとして放った蹴りが命中する寸前、相手の身体が 弾はじけ光の粒と成り消えた。
 円卓の騎士団が何処の誰とも知らぬプレイヤーに全滅させられたという事実を否定する為、アーチャーが自らリタイアを選択し試合を終らせたのである。

 しかし、その選択がアサシン・アーチャー双方にとってプラスの物を与える事は無かった。
 特にいきなり遊びを取り上げられたアサシンは、リタイア寸前の相手の表情、自分と遊ぶのを拒絶されたという事実、伸した手を弾かれた様な感覚、それらがグルグルと頭で回る毎に自分の中であれ程赤々と燃えていた筈の熱が冷めていくのを感じたのである。
 

 ジークは決意した。もうこれ以上、バンクエットオブレジェンズをプレイするのは辞めようと。

 
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