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第四話 オンラインマッチ②

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 最高レベルに設定されたNPC達との戦闘に何の感慨もなく勝利したジークは、アリーナの神殿へと戻ってくる。

 そして直ぐにマッチング先をオンラインに設定し、戦いの場へと向かう為ジョブの彫刻へと手を伸した。
 彼が今回触れたのは『アサシン』の彫刻。最も多くのプレイヤーに使用されているナイトから、この数時間の戦いを経てウォーリアクラスの中でも使用率の低いアサシンへとジークは使用ジョブを変更していたのだ。

 更にもう慣れた手付きで、自らの経験に基づき導き出した最強のスキル・アイテム編成を打ち込んでいく。


【ステータス:コード・ジーク】

ジョブ:アサシン
クラススキル:インファイト
ジョブスキル:キラーファントム
装備:ブラッドストリーム
アイテム①:エルメスシューズ
アイテム②:レッドポーション


 恐らくこういうのはネットでテンプレートを検索し、それを自己流に多少弄るのが普通なのだろう。
 だがそれを分かっていても自分の感覚のみで道を切り開きスキルを選びたいジークは、完全に外部からの情報を入れずに自己流で編成を行なっていた。

 しかしとは言っても明らか強いスキルを使用し、それを中心にアサシン独自の強みを生かした組み合わせへと落とし込んでいる。
 それ故広く使われているアサシンのテンプレートと其処まで差異は無いだろうとも考えていた。

 そして必要な入力を全て終え、ジークは画面に表示された『マッチング開始』のボタンを押したのである。


ヒュオンッ


 マッチング開始からものの数秒でマッチング完了という表示に成り周囲の風景が切り替わった。出た先はNPC戦と同じ、背後にユグドラシルが聳え周囲を大岩が囲み前方をオーラの壁が塞ぐ場所。

 そして近くにはこれまた同じ様に自分を除いて三人のプレイヤーが立っているのだが、今回はコンピュータではなく本当の人間が操っているのだと考えると変に緊張する。
 挨拶くらいした方が良いのだろうか、そうジークが思った矢先向こうの側から予想外の言葉が飛んできた。

「はあッ、アサシン!? マジか外れ引いたんですけど、何でよりにもよってこんな日に地雷踏むのよ!!」

 ジークの方向を向いてアーチャーの女性プレイヤーがそうヒスり気味に叫んだ。
 その声、そして此方を向いた瞳には明らか非難の色が乗っている。

 最初は余りにも唐突過ぎて何を言われたのか分からなかった。だが彼女の言葉が頭の中でぐるぐる回る中で、アサシン・外れ・地雷という言葉によりその意味を大凡理解する事ができたのである。
 如何やら自分は今、アサシンを選んだ事で非難されているらしい。

 しかしそれを理解した所で彼の混乱は終わらない。
 何故ただジョブを選んだだけでここまでの反応をされなくては成らないのか?

 恐らくこの女性プレイヤーが変なのだろう。そう思い掛けた所で、何と他のチームメンバーからも同様の声が上がったのである。

「よりにもよってエースジョブに初心者さんですか。しかも初期スキンでスキル編成もアイテムもメチャクチャ……此れは今回チーム勝利は諦めた方がよさそうですね」

「本当じゃん!! ランクポイント0、それに何よこのふざけたスキル編成、1つも今までオンラインマッチで見た事無い。ちょっとあんたふざけてるでしょ!! 初心者でウォーリアクラスを取るとか非常識にも程が有るわよ!!」

 ウィザードの男性の言葉で、アーチャーもジークが今日ゲームを始めたばかりの初心者であると気付く。そして溜息が漏れそうな言葉で非常識とまで言われてしまった。

 どうやらジョブがアサシンである事の他にも、スキル編成やウォーリアクラスを選んだ事自体まで非難されているらしい。
 しかもスキンがゲームスタートした時点から使えるアサシンの衣装である事、更にマッチング相手などを決める基準のランクポイントが0である事で初心者だとバレてしまった。

 このゲームはチーム戦、一人が足を引っ張って試合に負ければ全員のポイントが下がる羽目になる。だから明らかに初心者風で見た事のないスキル編成をしていた彼が許せなかったのだろう。

(けど、それが如何した……クソ喰らえだッ!!)

 しかしそんな彼らの感情を理解した上で、ジークはクソ喰らえと内心で一刀両断した。
 そしてまるで火山からマグマが噴き出す様に、この記念すべき一番最初のチームメンバーに対する批判の言葉が無限にはらわたの奥から溢れてきたのである。

(まだマッチも始まる前から表面上の情報だけを見て足手纏い認定するなんて言語道断だ。何時間プレイしていようが、どれだけのポイントを持っていようが、どんなスキンを持っていようが所詮飾りに過ぎない。それにスキルがテンプレートから外れているからと非難していたら、このゲームに折角与えられた自由度が無駄になる。そもそも若し仮に地雷プレイヤーとマッチングしたのだとしても、ゲーマーならその条件下で全力を尽くすべきだ。まずどんな状況でも全力でプレイ、愚痴を垂れるならその後だろうが!!)

 ジークの中でメラメラと怒りの炎が燃え上がってゆく。彼のゲームに対するスタンスと真っ向から対立する、勝利して自分が気持ち良く成りたいだけの奴らが許せなかった。
 そして怒りの矛先は、彼の気づかぬ内に少しずつ私怨の色を帯び始めたのである。

(それにどんなプレイヤーだって最初は初心者だ、それを理由にして非難する奴なんてコンテンツを衰退させる癌でしかない。こういう自分勝手なプレイヤーがゲームの寿命を短くしサービス終了を近づける。ゲームの為を思えないプレイヤーなんて、全員この世界から出て行けッ!!)

 確かに初期スキンである事やスキルが変というだけで足手纏い認定してきた他のプレイヤーも悪い。
 しかしその言葉に対し過剰なまでの怒りを覚えたジークは、彼らの言葉に対して同じレベルの罵詈雑言を返しそうに成った。


「おいおい辞めてやれよ~、初心者をそんな邪険にするもんじゃないぜ。誰でも最初は初心者なんだからさッ」


 だがその罵詈雑言が喉から口へと出る寸前で、残ったもう一人のプレイヤーが間に入りジークを庇ってくれた。
 その人物のジョブはバンディット。ジークのアサシン程ではないが珍しいジョブである。

「はあ? 別に邪険に何かしてないし。てかあんたも何よバンディットって、嘗めてんならアタシは落ちるわよ」

「ハハハッ、そんなに嫌な顔しないでくれよ。組んじゃった物は仕方ないんだし回線切りをしてペナルティーを食らうのも馬鹿馬鹿しいだろ? だから今はこのチームで出来る限りの事をしよう。それに、僕は別に嘗めてる訳じゃないんだよ」

 話に割り込まれ、まるで自分が弱い者虐めをしている風に言われたアーチャーがバンディットに対しそれを邪険と言わず何と言うという顔をした。しかしそれを受けてバンディットが示したとある画面に彼女の表情は一変する。
 彼が示したのは、此れまでの成績やポイントを表示するプレイヤープロフィールであった。

「ランクポイント56090……バンディット通算勝利数672……ナイト通算勝利数7154ッ!? 何これ、こんな数字始めて見たんですけど!!」

「ら、ランクポイント56090!? それにナイト通算勝利数7000越えってセミプロレベルじゃないですか! 何でそんな人がこんな所にッ」

 バンディットのプレイヤープロフィールを見て悲鳴の様な声をアーチャーが上げ、そして彼女が読み上げた数字に有り得ないという面持ちでウィザードもそのプロフィールを覗き込む。しかしそれが嘘では無いと分かり、彼もまた同じ悲鳴の如き声を上げた。

 初心者のジークにはその数字がどれ程の意味を持つのかは分からないが、彼らがあれ程驚いているのだからきっと凄い記録なのだろう。

「いや~、それ程大した数字でも無いよ。言ってもマンスリーランキングで運が良いと100位圏内ってレベルだし、プロまではまだ全然遠いよ」

「それでも自分の様な底辺プレイヤーからしたら凄い記録ですよ。でも何で今はナイトじゃなくバンディットに?」

「それはほらッ今日はイベントやってるじゃん? それであのチームにマッチング出来たら良いなとか思いながらガチ構成のナイトでずっと潜ってたら疲れちゃって。今は趣味感覚にやってたバンディットで休憩してる感じ」

「へえー! 本職じゃないバンディットでもこんなに勝利数稼いでるとか尊敬しちゃうな~」

「いやいや、バンディットの方は全然だよ。でも今回は頑張るつもり、彼の足りない分を補えるくらいにはねッ」

 数字を見せ付けられた途端態度が軟化したアーチャーとウィザードの言葉に、バンディットは余程人柄が出来ているのか謙遜の態度を崩さない。そしてジークの方を手で示しながらこう言ったのである。

「僕が彼に変わってエースの役目を受け持つよ。幸いバンディットは上手く使えばウォーリアクラスのプレイヤーでも相手できる位に鍛えられる、ファーストキルさえ取れれば初心者一人分のハンデくらい如何という事は無い筈だ。必ず今回の試合は僕が勝たせてみせる。だから彼をこれ以上責めないであげてくれ」

 バンディットはそう自信溢れる声と表情で言ってのけた。そしてその何故か勝手にエースとしての役割がジークから彼へと移された話に、他のメンバー二人は感動したとでも言わんばかりの表情で頷いている。

 どうやらバラバラに成りかけていたチームは試合開始前ギリギリで団結を取り戻す事が出来たらしい。
 その要因となったバンディットの言葉が妙に癪に触ると感じたのは、きっとジーク自身の性格の問題なのだろう。

「よしッ、じゃあもう直ぐ試合が始まるから準備して。このゲームは初動で六割決まるって言われる位にはスタートダッシュが重要だからね」

 決まっている訳でもないのにバンディットがリーダーの如く指示を出し、他のメンバー達も何ら躊躇なくその指示に従って少しでも初動を有利にする為オーラの正面へと移動していく。
 そしてジークも内心は複雑であったが、別にこの場を一番経験豊富らしい彼が仕切るのに異議は無い。チームメンバー達と同じ様にステージ側へと向かう。

 しかしそんなこの場では極力他のメンバーと関わり合わない様にしようと決めたジークの元へ、バンディットの方から近づいてきたのである。
 更に断りなく肩を組み、そしてこう小さな声で耳打ちされた。

「気にしなくて良いからね。このゲームは競技志向が強くてさ、勝ち負けにピリピリしてるプレイヤーが多いんだよ」

 何と彼は初心者である事やスキル構成の事を誹られていたジークを気遣い、慰めの言葉まで掛けてくれたのである。

 ジークは正直言ってこの男が生理的に受け付けない。こんな八方美人で誰も傷つけずリーダーシップまであるキラキラした人間など居て溜まるかという妬みの感情が目線にフィルターを掛けてしまう。
 だが事実として彼に庇われ、しかも不可抗力とは言え自分が生み出したチーム内の亀裂を修復しくれたのだ。そこまでして貰って此処で無言を貫くのは流石に間違ってる、そう思ったジークはせめて礼を述べようとバンディットの方を向いた。

 しかしその言葉は、丁度ジークが口を開こうとしたタイミングに被さったバンディットの声に遮られる事となったのである。


「でも、そんな気軽にウォーリアクラスは選択しちゃダメだよ。ナイトじゃなくアサシンを選択する何てそれこそもっての外だ……チームを勝たせるのがエースプレイヤーの使命なんだから。勝利の為に全てを捧げられない人間にウォーリアクラスのたった一枠を使用する権利はない」

「………………」


 そのバンディットの発言を聞いた瞬間、ジークは悟った。自分とこの男は絶対に合わない、口を開いて会話をすれば間違い無く衝突するという事を。

 ジークも勿論プレイするからには全力で勝利を目指す。
 だが勝利は彼にとってあくまで副産物、本当に欲しいのは世界に対する没入感と自らが生きているという感覚。正直チームがどうとか使命がどうとか興味が無いのだ。

 しかし流石にそれを正面きって言い返すほどジークも子供ではない。
 如何とでも意味を読み取れる会釈をして組まれた肩を自分から離し、オーラ壁の方へと向かった。

(チームプレイ何て如何でも良い……オレは唯自分がこのゲームを楽しむ事だけ考えよう)

 ジークはそうボイスチャットを切り自分に言い聞かせた。
 チームなんて下らない。仲間なんて下らない。赤の他人の為にゲームをする何て馬鹿のやる事だ。どんなに強く手を繋いだって、何時かは解けてしまうのだから。

 そんな余りにも暗く淀んだ事を考えるジークの前で、フィールドまでの道を塞いでいたオーラの壁が消える。
 ゲームスタートだ。
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