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104話 今後の予定

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「ディーーノォォォォッ!! 起きたんだねッ死んだかと思ったよ! もうッ目を覚まさない……かと…思ったよォォォォ!! うあああああああんッ」



 感情を剥き出しにして怒鳴り合っていたディーノとアンベルトも口論を辞めて引く程の大音量を発し、ゴンザレスの泣き叫ぶ声が響く。

 そして岩の様に巨大な身体が宙を舞い、ディーノが寝ているベッドの上に落下しておよそ人間が落下した音とは思えないズドッという音と共に着地した。



「グエッ……ゴンチャン、マジでッ吐いちゃうから退いて……」



「うあああああああああああんッ」



 ディーノは紅潮していた頬を一瞬で真っ青に変え、吐き気を必死に堪えながら身体の上から退いてくれるよう懇願する。

 しかしその悲痛な叫びはゴンザレス自身が発する巨大な鳴き声によって掻き消されてしまい、ゴンザレスは一切退く素振りを見せず泣き叫ぶばかり。



(ヤバい……また吐くッ)



 とうとう吐き気を堪えるのも限界に達したディーノが諦めて思い切り胃の中を吐き出そうとした時、突如ゴンザレスの身体が凄まじい力でベッドから引き摺り降ろされた。



「え? ……グフゥッ!?」



 まるで蹴り飛ばされた枕の様に宙を舞い、そのままの速度で壁に激突したゴンザレスから驚愕の詰まった呻き声が漏れた。

 そしてディーノは巨体が宙を舞うその姿にも驚いたが、何よりも驚いたのはその巨体を投げ飛ばした人物が誰であったかという事。

 ゴンザレスを投げ飛ばした人物、それは細身の優男フーマであった。



「おはようディーノ。気分はどうだい?」



 自分が見せた凄まじい怪力技を気にも止めず、フーマは何時もと変わらない下手な笑顔を浮かべた。



「す、凄えな。前はあんなに謙遜してた癖に、凄え怪力じゃんッ」



 そう言ってディーノは目の前に立つ、くたびれたサラリーマンの様な男を観察する。

 傍目からには痩せ型で力の弱い印象を受けるが、あの細い身体に100キロオーバーの怪物を投げ飛ばすだけのパワーが宿っている事に驚愕を隠せない。



「別に大した事じゃないよ、要は体重移動と力の使い方だ。君だってその気に成れば直ぐに出来るよッ」



 フーマはそう言うが、其れを真に受ける程ディーノも馬鹿じゃ無い。

 ゴンザレスが投げ飛ばされた瞬間もディーノは周囲の則を感じていたが、フーマその則を用いた痕跡は一切無かった。

 つまり、己の肉体一つであの巨体を投げ飛ばし壁に激突させたという事になる。

 とても人間業じゃない。体重移動と力の使い方だと本人は言っているが、一体どのような修行を今まで積んできたのだろうか?



「じゃあ、その体重移動と力の使い方を今度教えてくれよッ」



「ああ、構わないよ」



 フーマは簡単に了承してくれた。

 ゴンザレスは純粋にパワーで敵を圧倒するイメージであるが、今見た光景から察するにフーマは技で敵を一蹴するタイプの様に思えた。

 その男から技を教えて貰えるという事が素直に嬉しい。



「本当かッ!? じゃあ今すぐやろうぜッ呆けて寝てる時間なんて無えッ……」



「ダメだ」



 フーマの技術を教われると聞いたディーノが意気揚々とベッドから飛び降りようとした時、まさかの方向から飛んできた静止の声に遮られる。

 その声は、アンベルトの口から発されていた。

 普段一秒も無駄にせず只管修行に没頭しろと口酸っぱく、耳にタコができる程注意してきたアンベルトが静止したという事実にその場が凍り付いた。

 アンベルトが修行を止めるという事は中々の緊急事態である。



「何だよ……まさか前と同じ理由か?」



 ディーノはアンベルトが静止した理由を大方推測し、その上で質問を送るとアンベルトはゆっくりと頷いた。



「そうだ、死ぬので修行は当分中止だ。そもそも今のお前は二本足で立って歩く事すら厳しい状況の筈、その状態では何の修行をしても碌な物にならんわ」



 冷静に成って考えればディーノは数日間意識を失い、加えて一度死んで蘇生されたという重体中の重体だったのだ。当然直ぐに動き回って良い状態では無い。

 何時体調が急変して再び意識を失うかも分からない状態なのだ。



「加えて、幸い今は再び心臓が動きだし問題無く拍動しているが、小さな衝撃を受けただけでも心臓が止まる可能性がある。次も無事蘇生できるという補償は無いッ」



 そう言ってアンベルトは薄笑いを浮かべながらディーノの胸部を裏拳で小突いた。

 痛みも無い小さな衝撃であったが、その衝撃で心臓が止まる可能性が有ると脅されていたディーノはギャッと小さな悲鳴を漏らす。



「フッ、まあ命が惜しければベッドの上で安静にしておけという事だ。修行は一週間休み、その間に身体を休めて体調を元に戻しておくんだな」



 そう言うとアンベルトは自分の心臓がちゃんと動いているのか手を当てて真剣に確認しているディーノに意地悪い笑みを向け、部屋を出て行った。

 一方のディーノは気が気では無く心臓に爆弾を付けられた気分で、突然心臓が止まるのではという恐怖に苛まれてる。



 だが青い顔をして自分の胸に手をを当てるディーノに、フーマが苦笑いをしながら近づいて耳打ちしてくれた。



「大丈夫、アンベルトさんは少し驚かしたかっただけさ。激しい運動をしない限り突然心臓が止まる事は無いよ」



「ほ、本当か……?」



 質問に力強く頷いてくれたフーマの顔を見て、漸くディーノは解消のしようが無い不安から解放された。

 其れと同時に再びアンベルトへの怒りが湧き上がって来る。

 そしてこの怒りをどのようにしてあの性悪ハゲジジイに返してやろうか考えていると、ディーノの耳に再び大音量の鳴き声が飛び込んで来た。



「えーッ! ディーノ死んじゃうのッ!? 死んじゃダメだよディーノぉぉぉぉぉぉッ! 心臓マッサージッ、取り敢えず心臓マッサージをしよう!! そしたら多分何とかなる! 今助けるぞディーノッ!!」



「はッ!? ゴンちゃん急に何言ってんだよ!! おまッ、ちょっと落ち着けよ!!」



 ゴンザレスはアンベルトの言葉を部分的に理解したのか突然パニックに成り、立ち上がって何故か止まってすらいない心臓に心臓マッサージを施すため一直線に迫ってきた。

 あんな大男に突然心臓マッサージ何てされれば、逆に心臓を止められて胸骨を破裂させられてしまう。

 しかし抵抗しようと思っても禄に力が入らない今の状態では出来る事が何も無く、ディーノは突如迫ってきた死の気配に背筋が凍り付いた。

 そして号泣している大男がベッドの数センチ先に迫り身構えたとき、フーマが右腕を一閃させてゴンザレスの顎を打ち砕く。

 数秒のラグの後、ゴンザレスがヘナヘナと力なく地面に崩れ落ちた。



「ごめんねディーノ、ゴンザレスが君の身が危険だと聞いて取り乱してしまったみたいだ。コイツは僕が外に摘まみ出すから、君はゆっくりと身体を休めてくれ。しっかり身体が治ったら、その時は僕が知っている技術を幾つか教えるよ」



 フーマはそう言うとポカンと驚いた様子のディーノを尻目に気絶したゴンザレスを掴み、その巨体を引き摺って部屋の外に出て行く。

 そして突如人が居なくなり、ディーノは暫くぶりに睡眠以外で自由に使える時間を手に入れたのだった。



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