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第67話 皆のアジト

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「おーいッ、帰ったぞ~ガキ共~ッ!!」



「「「「「お帰りなさ~いッ!!」」」」」



 ディーノがマンホールのフタを開けて中に向かって叫ぶと、直ぐに様々な声で返事が返ってきた。

 そしてものの数秒で地下の暗闇の中に数十の瞳が浮かびあがる。

 誰かが入り口付近に掛けられている蝋燭に火を付け、光が地下空間の中に広がると何人もの小さな子供達が現われた。

 その顔を見てディーノとマルクは満面の笑みを浮かべる。

 二人が命よりも大切にしている宝物達であった。



「おうッ、ただいまマリア。留守番はちゃんとできたか~ティグル?? マックとビリーはちゃんと仲良く出来たか? もし喧嘩してたとしても、ちゃんと仲直りはしとけよ。家族なんだからな」



 ディーノはマンホールの下に降りると、背中に背負っていた荷物を地面に降ろしながらながら出迎えてくれた子供達一人一人の名前を呼びながら頭を撫でた。

 それぞれ話す内容が異なり、全ての子の個性や性格を把握しているようだ。



 ディーノとマルクはこの8年間で自分達と同じ、身寄りのない子供を守る為に子供だけの窃盗団を作り二人でそのリーダーを務めていた。

 必死に生きている間に気が付けば自然と仲間が増えて、今では総勢20人以上mの大所帯である。

 まだ働く事も出来ない程幼い子もおり、全ての子供達の食事を賄う為には犯罪行為を行うしか選択肢がない。

 其処で年長者を中心に金目の物や食料を盗んで生活しているのだ。



「ディーノ兄ちゃんお帰り~!! 絵本読んで~」



 食料がパンパンに詰まった袋を地面に置き、スペースが出来たディーノの背中に空かさず美しい桃色の髪をした少女が飛び付く。

 ディーノは一瞬驚いた表情を見せたが、その少女の顔みて直ぐに笑顔を作る。



「おう、ただいまユウリ。 赤ちゃん二人組の面倒をみてくれたか?」



「うん、バッチリ! お日様が昇ってから今まで付きっきりで面倒みてたよ。だから今度は私が兄ちゃんに甘えるの!!」



 そう言ってユウリと呼ばれた少女はディーノの頬に自分の頬を擦りつけた。

 ディーノは普段年齢の割に大人びていていて、自分にしか見せない子供じみた行動に苦笑いを浮かべた。



「わかったよ、じゃあ小さい奴等を全員集めてくれ。メイとライが寝ている部屋で本をよんでやるよ」



「え、でも二人共まだ言葉分かんないよ?」



「分かんなくても、アイツらはアイツらなりに何か感じてるんだよ。お前も小さかった頃は絵本を読んでやると嬉しそうに笑ったんだぜ? じゃあお前は俺の背中から降りて、チビ達を呼びに行ってくれ」



 ディーノに背中から降りろと言われたユウリは露骨に頬を膨らませ、嫌そうな顔をした。



「……そんな顔すんなよ。ウチの長女がおんぶされたままだと皆に示しが付かないだろ? お前は此処のお姉ちゃんなんだからさ、威厳と高貴さを纏わなくては」



「むぅ……分かったよ」



 ユウリは嫌そうな顔は変えなかったが、仕方ないといった様子で背中から降る。

 そして二人は手を繋ぎ、小さな子供達に声を掛けながら奥のスペースに進んでいった。



 マルクは二人の仲睦まじい様子を笑顔で眺め、自分の周りに集まってきた子供達をディーノの後を追うように促す。

 そして漸く手が空いた時、脇から出て来た少年に声を掛けられた。



「お帰りなさい、マルクさん。今日の仕事はどうでした?」



「ああ、ディルクか。今日は大量だよ。三日分の食料を掻っ攫ってきた!!」



 マルクは暗闇の中から現われた他の子供達に比べると大柄の少年、ディルクに笑顔で話掛けた。

 このディルクはディーノとマルクが初めて仲間に引き入れた少年で、二人を覗けばこの場所の最年長である。

 彼には年長組のリーダーとして働いて貰っているのだが、どうやら二人よりも早く帰って来ていたようだ。



「凄いな、流石ディーノさんとマルクさんのペアだ。二人共僕達のヒーローですよ、どんな日でも絶対に食べ物を運んできてくれて……皆あなた達を特別な存在だと思ってる」



「其れは買い被り過ぎだ。俺達はどれだけ綺麗事を言っても所詮コソ泥、お前達には俺達に憧れるんじゃなく此処を出て良い職に就いて本物のヒーローに成って欲しいね」



 自嘲の笑みを浮かべながら言うマルクは言った。



「そんな事無いですよ、あなた達は絶対に特別な存在です!! 此処に居る奴なら全員間違い無く同意する筈ですよ」



 何故か当の本人であるマルクが気にした様子を見せていないにも関わらず、ディルクは顔を真っ赤にして二人は特別な存在であると言い張った。

 その様子から彼がどれ程二人を尊敬しているのかが分かる。



 其れもその筈で、ディルクにとって二人は命の恩人であった。

 幼い右も左も分からない頃に捨てられ、ひもじさに涙を流す事しかできず餓死を待っていた時に二人が食料を分け与えてアジトに連れ帰ったのが出会いである。

 其れから生きる術を一から教わり、何度も危機を救われて、二人が仲間達に降りかかった多くの困難を奇跡に近い活躍で乗り越えてきたその背中を見てきた。

 その視線には一種心酔の色が含まれ、ことある毎に賞賛してくれる。



「お前の言葉を背負うには俺のひ弱な肩じゃ足りねえよ。だが、ディーノは確かに特別かもな」



 そう言ってマルクは一瞬で子供達を集め、一つの塊の様に成って移動していく様を見ていた。



「ディーノさんって、色々と不思議な方ですよね。綺麗な銀色の髪も他じゃ見たこと無いし、読み書き計算まで出来る。何よりも一部の人間しか持てない家名まで持ってるんですよ? きっと特別な生まれの人間なんですよ!!」



「ああ、あの髪の色な。アレは白髪だ、黒髪が色抜けしてああ成ったんだよ」



「えッ!? そうなんですか!!」



 もう5,6年一緒に居るにも関わらず初めて聞いた話に、ディルクは目を見開く。

 その表情を見たマルクは満足そうに笑った。



「俺とアイツが初めて会った時は、アイツもお前と同じように空腹と病気で死にかけててな。空腹は俺がパンをやったから何とか凌いだが、直ぐに病気の高熱でぶっ倒れたんだ」



 マルクは昔を思い出す様に遠い目をしながら言った。

 ディルクは貴重な二人のエピソードを聞き逃さない様に耳を澄まし、忙しなく首を縦に振りながら頭に焼き付けていく。



「結局三日間意識を失って、まともに行動できる様に成ったのは一週間後。その間に凄まじい速度で髪から色が抜け、アイツは自分の過去を全て忘れちまった」



「……ディーノさんに、そんな過酷な過去がッ」



「いや、案外そっちの方が楽で良いかも知れねえよ? お前だって偶に自分を捨てた母親の事を思い出して魘されてるだろ」



 ディルクは自分が魘されている内容を言い当てられて顔を少し赤くする。



「ストリートチルドレンの過去何て碌なもんじゃないさ。今のアイツにとってこの場所の仲間たちが全て、今だけを全力で愛しているんだ。其れは確かに少し寂しい事かも知れねえが、俺はとっても美しい事だと思うな」



 そう言ってマルクは静かに目を閉じる。

 そして数秒の沈黙が流れた後、ディルクがその沈黙を切り裂いた。



「つまり今のディーノさんの記憶の中は俺達が独占してるって事ですね!! 何か嬉しいです!!」



「ディルク……お前、其れはちょっとキモいぞ」



「え?」



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