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第17話 道標
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「どういう事? 僕が今まで会ってきた人達は皆、パパはいい人で世界を変えるために毎日戦ってるヒーローだって言ってたよ??」
ディーノは小首を傾げながら父を見上げる。
ルチアーノはその大きくて綺麗な、母親譲りの瞳に見詰められて胸が詰まった。
「・・・そうだな。ディーノ、ヒーローは悪者と戦う時に町中をメチャクチャに壊しながら戦うよな。でも最後はヒーローが人々に賞賛される、此れは何でだと思う?」
「う~ん、、、ヒーローは悪者を倒してくれたから」
ディーノはルチアーノの質問を真剣に考え、そして望んだとおりの回答を出してくれた。
「その通りだ。じゃあ街を壊すだけ壊して、人々を巻き込むだけ巻き込んで、結局悪者を倒す所か逆に返り討ちにされた人間はヒーローと呼べるのかな?」
「ううん、ヒーローじゃない。ヒーローは最後に必ず勝つからヒーローなんだよ」
「その通り。ヒーローに必要な物は、『優しい心を持っているのか』でも『どれだけ崇高な志を示しているのか』でもない。ヒーローに一番大切なのは『実際に悪者を倒して世界を昨日よりも良くする事』、そして『其れを実行する為に充分な力を持っている事』だ」
此処まで言って、ルチアーノは自分が息子の存在を忘れて自分の世界の中に引き籠もってしまっていた事に気付き慌てて膝の上の息子を見る。
ディーノは理解の外側にある言葉を浴びせかけられ、困ったようなポカンとした顔で父の顔を見ていた。
「ハハ、ちょっと難しかったかな?」
ルチアーノは、ばつが悪そうな表情を見せてディーノの頭を撫でた。
ディーノの黒髪は唯一ルチアーノに瓜二つな部分である。
この子の頭を撫でていると、自分とこの子の間に確かな繋がりを感じられて安心するのだった。
そして似ているのは髪の色だけであって、運命までもが自分似る事だけは避けて欲しいという思いを込めて撫でるのである。
「つまりパパが言いたかったのはさ、、、パパにはあと少しだけ世界を良くする為の力が足りなかったんだ。結局壊すだけ壊して、何も手に入らなかった。ヒーローを目指してた筈なのに、気が付けば世界で一番の悪者に成ってた」
「・・・パパ、泣かないで」
ディーノの言葉でルチアーノはハッとした。
気付かぬ内に瞳から涙が溢れ、水晶のように透明で美しい雫が頬を伝っていたのだ。
話している最中に相手のことを忘れ、自分の思い出に浸って勝手に感慨深くなるのは老人の特徴である。そして涙もろく成る事も。
「あれッ、おかしいな。もしかしてゴミでも入ちゃったのかな?」
ルチアーノはゴシゴシ擦って涙を拭い、表情が岩のように固い作り笑いを浮かべた。
ディーノはその笑顔が無理している事に気が付いていただろうが、父の心境に幼いながら気を遣い無言で見詰める。
「パパはな、ディーノには本物のヒーローに成って欲しいんだ。お前が此れから行く場所には本物のヒーローが待ってる、必ずお前を一人前の男に育て上げてくれる、、、」
ルチアーノは息子の小さな身体を強く、自らの身体で覆おう様に抱きしめた。
「パパは間違い過ぎたし、もう一度やり直すには歳を取り過ぎた。だからディーノには俺の夢を継いで、誰よりも強くて誰よりも愛されるヒーローに成って欲しい。それこそ、パパを倒してくれるくらい強いヒーローに、、、」
最後に言うまいと思っていた感情が零れてしまった。
そしてディーノは父から漏れ出す何かを感じ取った様で、必死に父を喜ばせようと言葉を紡ぎ出してくれる。
「う、うんッ!! 僕強く成るよ! その本物のヒーローの所で修行して、誰よりも強くてパパを守れる様なヒーロに成る!! だからパパは心配しないで、僕がパパを守って上げるからね」
ディーノは父親が何を悲しんでいるのかは分からなかったが、自分が強く成る事を望んでいる事だけはわかる。
彼はまだ何も知らないが、強く成れば父を守って上げる事もできると信じたのだった。
「そうか、、、パパを守ってくれるか、、、お前は本当にお母さんにソックリだな。ローナに似てくれて良かった、俺に足りない物をお前は持っている」
ルチアーノは在りし日の妻の面影を息子に重ねる。
ディーノは母と過ごした記憶が無いので、父の言葉に複雑な表情を見せた。
「お前ならきっと大丈夫だ、俺よりも強く、俺よりも賢く、もっと上手くやれる筈だ。自分の心に従うんだディーノ、お前の中の答えを探せば良い。お前が胸を張って選んだ選択で有れば全てが正解なんだ」
何の話をしているのか分からない難しい言葉を父に投げかけられ、ディーノは困惑した表情をみせる。
しかしルチアーノは其れでも話続ける。
此れからディーノが歩む道には多くの壁が現われる、恐らく自分はその時隣にいる事は出来ないだろう。
だからその時に少しでも助けに成るよう、可能な限り言葉を刻み込む。
「お前は必ず今の自分では敵わない様な強敵と戦う事になる。その時は泣くでも諦めるでも無く笑うんだ、相手と自分を比べるのは辞めて自分の中に目を向け笑ってみろ。強者とは死を目前にして笑う者だ」
ディーノは何の言葉か理解してはいないが、父の必死な様子からこの言葉が何か重大な意味が有ると感じ取った。
そして言葉を意味としてでは無く、音として脳の奥底に刻んでいく。
「人間が一番強いときは世界の中心に立ったときだ。世界と自分の間に亀裂が生じたときは世界に従ってはダメ、自分の後ろを世界に追わせろ。常に後ろ姿で語る男になれ」
ディーノは小さくコクりと頷いた。
「人間は間違う生き物だ、どれだけ注意深くすすんでも行き止まりにぶつかる事は有る。その時は恐れずに始めからやり直せ、自分が積み重ねてきた物を投げ捨てることは恐怖を伴うが其れが最短の道だ。根底からやり直す勇気を持て」
ディーノはコクリコクリと数度頷いた。
「自分の考えと正反対で嫌悪感や生温さを感じるような思想にこそ耳を貸せ。自分と違うから恐れるのだ、自分の持っていない物を持っているから怖いのだ。自分と正反対の人間こそ最大の師匠だ」
ディーノは寝息で応じた。
ルチアーノが身を乗り出して顔を見ると、既に瞼は両目を覆って息子は夢の世界に行ってしまったようだ。
「もう夜遅かったもんな、、、ゆっくりお休み。パパからの話は此れで最後だ」
ルチアーノは静かに息子をベッドに寝かせ、耳元で囁く様に息子が眠った今だから言える言葉を呟いた。
「仲間や家族は何時までも一緒に居てくれる訳じゃない。お前が信念を貫く間に仲違いや嫉妬、裏切りによって少しずつ減っていく、、、そして大勢死ぬ。だがお前は足を止めては成らない、部下が死んでも、友が死んでも、師匠が死んでも、家族が死んでも、父親が死んでも、、、」
ふと、窓から覗く月を見上げる。
「死に意味なんか無い、人間は無意味に無機質にあっけなく死ぬ。でももし何か意味付けできるのなら、其れは生きた人間の役割だ。生きた人間がその屍を踏み越えて何を掴むのか、、、お前は俺の死に何の意味を見出すのかな?」
そう言うとルチアーノは数秒間月明かりに照らされた息子の顔を眺め、そして額にキスをして部屋を後にした。
ディーノは小首を傾げながら父を見上げる。
ルチアーノはその大きくて綺麗な、母親譲りの瞳に見詰められて胸が詰まった。
「・・・そうだな。ディーノ、ヒーローは悪者と戦う時に町中をメチャクチャに壊しながら戦うよな。でも最後はヒーローが人々に賞賛される、此れは何でだと思う?」
「う~ん、、、ヒーローは悪者を倒してくれたから」
ディーノはルチアーノの質問を真剣に考え、そして望んだとおりの回答を出してくれた。
「その通りだ。じゃあ街を壊すだけ壊して、人々を巻き込むだけ巻き込んで、結局悪者を倒す所か逆に返り討ちにされた人間はヒーローと呼べるのかな?」
「ううん、ヒーローじゃない。ヒーローは最後に必ず勝つからヒーローなんだよ」
「その通り。ヒーローに必要な物は、『優しい心を持っているのか』でも『どれだけ崇高な志を示しているのか』でもない。ヒーローに一番大切なのは『実際に悪者を倒して世界を昨日よりも良くする事』、そして『其れを実行する為に充分な力を持っている事』だ」
此処まで言って、ルチアーノは自分が息子の存在を忘れて自分の世界の中に引き籠もってしまっていた事に気付き慌てて膝の上の息子を見る。
ディーノは理解の外側にある言葉を浴びせかけられ、困ったようなポカンとした顔で父の顔を見ていた。
「ハハ、ちょっと難しかったかな?」
ルチアーノは、ばつが悪そうな表情を見せてディーノの頭を撫でた。
ディーノの黒髪は唯一ルチアーノに瓜二つな部分である。
この子の頭を撫でていると、自分とこの子の間に確かな繋がりを感じられて安心するのだった。
そして似ているのは髪の色だけであって、運命までもが自分似る事だけは避けて欲しいという思いを込めて撫でるのである。
「つまりパパが言いたかったのはさ、、、パパにはあと少しだけ世界を良くする為の力が足りなかったんだ。結局壊すだけ壊して、何も手に入らなかった。ヒーローを目指してた筈なのに、気が付けば世界で一番の悪者に成ってた」
「・・・パパ、泣かないで」
ディーノの言葉でルチアーノはハッとした。
気付かぬ内に瞳から涙が溢れ、水晶のように透明で美しい雫が頬を伝っていたのだ。
話している最中に相手のことを忘れ、自分の思い出に浸って勝手に感慨深くなるのは老人の特徴である。そして涙もろく成る事も。
「あれッ、おかしいな。もしかしてゴミでも入ちゃったのかな?」
ルチアーノはゴシゴシ擦って涙を拭い、表情が岩のように固い作り笑いを浮かべた。
ディーノはその笑顔が無理している事に気が付いていただろうが、父の心境に幼いながら気を遣い無言で見詰める。
「パパはな、ディーノには本物のヒーローに成って欲しいんだ。お前が此れから行く場所には本物のヒーローが待ってる、必ずお前を一人前の男に育て上げてくれる、、、」
ルチアーノは息子の小さな身体を強く、自らの身体で覆おう様に抱きしめた。
「パパは間違い過ぎたし、もう一度やり直すには歳を取り過ぎた。だからディーノには俺の夢を継いで、誰よりも強くて誰よりも愛されるヒーローに成って欲しい。それこそ、パパを倒してくれるくらい強いヒーローに、、、」
最後に言うまいと思っていた感情が零れてしまった。
そしてディーノは父から漏れ出す何かを感じ取った様で、必死に父を喜ばせようと言葉を紡ぎ出してくれる。
「う、うんッ!! 僕強く成るよ! その本物のヒーローの所で修行して、誰よりも強くてパパを守れる様なヒーロに成る!! だからパパは心配しないで、僕がパパを守って上げるからね」
ディーノは父親が何を悲しんでいるのかは分からなかったが、自分が強く成る事を望んでいる事だけはわかる。
彼はまだ何も知らないが、強く成れば父を守って上げる事もできると信じたのだった。
「そうか、、、パパを守ってくれるか、、、お前は本当にお母さんにソックリだな。ローナに似てくれて良かった、俺に足りない物をお前は持っている」
ルチアーノは在りし日の妻の面影を息子に重ねる。
ディーノは母と過ごした記憶が無いので、父の言葉に複雑な表情を見せた。
「お前ならきっと大丈夫だ、俺よりも強く、俺よりも賢く、もっと上手くやれる筈だ。自分の心に従うんだディーノ、お前の中の答えを探せば良い。お前が胸を張って選んだ選択で有れば全てが正解なんだ」
何の話をしているのか分からない難しい言葉を父に投げかけられ、ディーノは困惑した表情をみせる。
しかしルチアーノは其れでも話続ける。
此れからディーノが歩む道には多くの壁が現われる、恐らく自分はその時隣にいる事は出来ないだろう。
だからその時に少しでも助けに成るよう、可能な限り言葉を刻み込む。
「お前は必ず今の自分では敵わない様な強敵と戦う事になる。その時は泣くでも諦めるでも無く笑うんだ、相手と自分を比べるのは辞めて自分の中に目を向け笑ってみろ。強者とは死を目前にして笑う者だ」
ディーノは何の言葉か理解してはいないが、父の必死な様子からこの言葉が何か重大な意味が有ると感じ取った。
そして言葉を意味としてでは無く、音として脳の奥底に刻んでいく。
「人間が一番強いときは世界の中心に立ったときだ。世界と自分の間に亀裂が生じたときは世界に従ってはダメ、自分の後ろを世界に追わせろ。常に後ろ姿で語る男になれ」
ディーノは小さくコクりと頷いた。
「人間は間違う生き物だ、どれだけ注意深くすすんでも行き止まりにぶつかる事は有る。その時は恐れずに始めからやり直せ、自分が積み重ねてきた物を投げ捨てることは恐怖を伴うが其れが最短の道だ。根底からやり直す勇気を持て」
ディーノはコクリコクリと数度頷いた。
「自分の考えと正反対で嫌悪感や生温さを感じるような思想にこそ耳を貸せ。自分と違うから恐れるのだ、自分の持っていない物を持っているから怖いのだ。自分と正反対の人間こそ最大の師匠だ」
ディーノは寝息で応じた。
ルチアーノが身を乗り出して顔を見ると、既に瞼は両目を覆って息子は夢の世界に行ってしまったようだ。
「もう夜遅かったもんな、、、ゆっくりお休み。パパからの話は此れで最後だ」
ルチアーノは静かに息子をベッドに寝かせ、耳元で囁く様に息子が眠った今だから言える言葉を呟いた。
「仲間や家族は何時までも一緒に居てくれる訳じゃない。お前が信念を貫く間に仲違いや嫉妬、裏切りによって少しずつ減っていく、、、そして大勢死ぬ。だがお前は足を止めては成らない、部下が死んでも、友が死んでも、師匠が死んでも、家族が死んでも、父親が死んでも、、、」
ふと、窓から覗く月を見上げる。
「死に意味なんか無い、人間は無意味に無機質にあっけなく死ぬ。でももし何か意味付けできるのなら、其れは生きた人間の役割だ。生きた人間がその屍を踏み越えて何を掴むのか、、、お前は俺の死に何の意味を見出すのかな?」
そう言うとルチアーノは数秒間月明かりに照らされた息子の顔を眺め、そして額にキスをして部屋を後にした。
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