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第13話 正体不明の会談

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「だからさだからさ、僕達は日本っていう国に住んでる引き籠りの非リア男性が夜な夜な書いてる小説の登場人物なんだ! つまり俺達の選択も行動も全てその男が握ってる訳! 何かムカつかない?」



「はあ、、、夢か妄想の話か? 国の名前も言ってる言葉の意味も所々理解不能だ」



「違う! 夢でも作り話でもないッ!! オイラちゃんあと176538番目の僕チンに聞いたんだ!!」



「じゃあ、『非リア』ってどういう意味だよ?」



「知らない」



「・・・そうか」



 丁度レヴィアスファミリーの幹部とボスが集まっていた同時刻、偶然にも薄暗く対面の相手の表情を読み取るので精一杯な部屋の中で会談が行われていた。

 その部屋はすぐ頭上に巨大なシャンデリアがぶら下がり、強烈な光を放っているにも拘らず部屋が光を吸収しているかの様に薄暗い。

 そして室内のテーブルでは二つ人影がボウッと浮かび、少し異常な程密着して座っている。



(クソッ、、、何とかコイツを懐かせなきゃいけねえのにッ、何言ってるのか欠片も理解できねえ。話がチグハグ過ぎて聞き取るだけで精一杯だ)



 真っ白なスーツの右半分だけ黒線で幾何学模様が描かれた服を着て、唯でさえ薄暗い室内にも関わらずサングラスを掛けた奇妙な男は、目の前に座るもう一人の奇妙な言動に頭を抱えていた。



 そのもう一人の人影は、これまた紫色のスーツの上にピエロマスクを被った異様な外見をしており、忙しなく体を揺らして何かを呟き続けている。

 そして急に体の力が抜けてダラリと項垂れたと思ったら、これまた急に体を痙攣させながら跳ね起きてサングラスの男に話しかけた。



「初めまして、君名前なんて言うの?」



「おい、このやり取り何回目だ!! もう五回は自己紹介をしただろ!!」



「私は初めてなの、レディーを口説くのに名前も名乗らないつもり?? これからデートだってのに! もう知らない、ジェシカの所でもアンヌの所でも好きに行ったら良いわ!!」



「さっきからお前は何の話をしているんだよ! もうだめだ、、、限界だ、、、ッ!!」



 ピエロはつい数秒前の記憶も完全に忘れてしまい、一人称も統一されておらず、話もチグハグで内容がコロコロ変わっていく。

 サングラスの男は何度かコミュニケーションを取ろうと努力したが、ようやく不可能であると気が付き両耳を塞いだ。



(このピエロマスクの下に居るのが人間じゃないって事だけは理解した。コミュケーションを取って手駒に加えようとした俺が馬鹿だったぜ、、、全く無駄な労力だ!!)



 サングラスの男の心が折れて耳を塞いだ後も、ピエロは意味も無い言葉を男の耳の隙間から流し込んでくる。

 男の精神が崩壊の瀬戸際に立たされた時、新たな人間が何処からともなく部屋に現れた。



「あ、アレは我らがプッリンセ~ス!! 今日もとってもおめかししてて可愛いわね~」



 新しく表れた子供用の服を着て人形の様に冷たい肌と瞳をした少女に、ピエロが早速食いついた。

 ダンスでも踊っているかの様なステップで、二人が居るテーブル目掛けて歩いてくる少女に近づき、歌う様に大きな声で話掛ける。



「お嬢お嬢久しぶり、今日も金髪が綺麗でちゅね~!! また昔みたいに高い高いしてあげようか?お嬢大好きだもんね~、高い高い。 あれ、お嬢が好きだったのは睨めっこだっけ?」



 少女は弾丸の様に言葉をぶつけられても無言無表情のままだったが、突然立ち止まって氷の様な瞳をピエロに向けて一言放った。



「次お嬢と呼んだら、殺すぞ」



 その言葉は子供特有の高くて澄みきった声で発されたのだが、聞いた者の心をナイフで突き刺すような殺意が込められれていた。

 其れはテーブルの上に突っ伏して、両耳を塞いでいた男も体を痙攣させた程である。



「・・・分かったよ、お嬢。あれ、言っちまたー! 拙者ってばおっちょこッ、、、」



 ピエロの口からそれ以上言葉が発される事は無かった。

 一瞬でピエロの肉体全てが凍り付き、亀裂が入って体ごと粉々に崩れ落ちたのである。

 五体がバラバラに成ったのは勿論、頭部が五つに割れていて脳みそが白と赤が混じった液体と共に零れていた。



「なんだ、死んだのか。不死身だって噂だったが、、、所詮噂は噂だったな」



 サングラスの男は大して驚いた様子も見せず、椅子に座ったまま体を捻らせて道端の石でも見る様な表情でバラバラ死体を観察しする。

 その表情には死に対する嫌悪感や恐怖感は全く無く、寧ろ若干楽しそうまであった。



 そんなサングラスの男にも、自らが氷結バラバラ死体に変えたピエロにも全く興味を示さないで少女はスタスタ歩き、静かに着席した。

 そして瞬き一つしない瞳で意味も無く前だけ見続ける。



「久しぶりだな、マダム。どうよ最近の調子は? 何か困ってる事ととか無いか? 俺とアンタの仲じゃないか、困ったらいつでも相談してくれよ。例えば金に困った時とか、資産に困った時とか、事業を始めたい時とか、、、」



 サングラスの男が今度は少女に話しかけ始める。

 しかし男が幾らペラペラと喋りかけ続けても、少女は依然として仮面でも被っているのでは?と考えてしまう程無表情で静かだった。

 その様子を受けて男は気分を害した様に表情を歪め、口調を急に刺々しくして吐き捨てる。



「チッ、無視かよ。澄ましやがってこのババアがッ」



 そうサングラスの男がそう言葉を漏らした瞬間、少女の首が目にも止まらぬ速度で回転し男の顔を睨み付ける。



「次ババアと呼んだら、殺すぞ」



 その瞬間男の身体を異常な冷気が包み込み、血流の流れが停滞して感覚が乖離していくのを感じた。

 先ほどのピエロが粉々にされた様子が男の脳内を駆け巡る。



「わ、分かったよ。此処でアンタと戦う気は無いし、礼儀を失した事は素直に謝罪する。悪かった」



 男がそう言った瞬間体を包み込んでいた冷気が消え去り、体に温もりが戻り始める。

 そして少女は興味を失った様に視線を前に戻し、意味も無く暗闇を見続ける作業を再開したのだった。



(クソ、この俺が謝罪する事に成るとはな。だが仕方ねえ、此処では俺が一番格下で真っ先に殺される可能性が有る。短期的なプライドに身を任しては駄目だ、、、最終的に俺が総取りできる様に行動し続ける。この屈辱は数年後に百倍にして返すぞ、マダム!!)



 男は表情を変えない様に注意しながら、奥歯が悲鳴を上げる程強く噛みしめて怒りを堪える。

 数年後はこの意趣返しで少女の死体を氷漬けにした後、フードプロセッサーに入れてペースト状に変え、豚の餌として与えてやろうと決意した。



「どうしたのそんな難しい顔して? もしかして生理?? アタシのバファリン貸してあ~げる!」



 男の右腕が突如持ち上げられ、その手の中にとても冷たい物質を握らされた。

 しかし男はそんな事を気にも留めない、それ以上にたった今自分の鼓膜を揺らした声の衝撃で頭がショートしたからだ。



 数秒の硬直の後、男はゆっくり首を動かして自らの隣を見る。

 其処には先ほどバラバラに砕けて絶命したピエロが、男の手を握っていたののだった。



「嘘だろ、、、どうなってんだ??」



 男は目の前で起きている出来事が理解できないまま、自らの右手に握らされた物体を確認する。

 その異常に冷たい物質の正体は、少女に粉砕され頭部から零れ落ちたピエロ自身の脳みそであった。

 自分の手平の中で赤黒い糸を引く物質を見た男は、眩暈がして倒れそうになる。



 その時、四人目の人間が部屋の中に突然現れて(床に転がっているピエロと、サングラスの男に脳みそを握らせたピエロを別に数えるのなら五人目だが)、呟きにしては余りに大きな声を発した。



「ふむ、全員集まってくれているとは想定外だな。しかし中々壮観ではないか、、、ビッグネームをまさか同時に三人も拝めるとは。いや、四人か?」



 そう言葉を発したのは真っ黒なスーツを着て、髪をオールバックに固めた男であった。

 オールバックの男は言葉を続ける。



「では始めようか、裏社会史上最大の会談を。我々の共通敵であるレヴィアスファミリー、そしてルチアーノ・バラキアを殺す為の会談をッ!!」





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