セレファイスの探偵

夜桜月霞

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Not peace,Not love You.

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 さて”表通り”は少しだけにぎやかだ。

 武装僧侶が町中を駆けずり回っている。

 裏通りを使って何とか逃げ回っていたが、どうにももう切り抜けられないな。

 最近裏通りにミイラが増えたと思ったら、ナ・イの野郎だ。やつは金に物言わせて、裏通りの探索をしてやがったんだな。

 面倒だが、仕方ないか。

 ナ・イの教会すぐ裏に車を停めて降りた。

「どこに、いくのよ」

 顔の青い彼女。

「話を付けるのさ」

 言って外に出ると、彼女も一緒に降りてきた。

 中にいろと言おうと思ったが、まぁ、確かに相手も裏路地の歩き方がわからないわけじゃない。まだましかもな。

「まあ、なんだ。後ろにいろよ」

 彼女の返事は聞かず、歩き出す。

 裏路地から出て、表通りへ。

 そこは昼も夜も雑然と、人で溢れかえる、セレファイスの商店通り。すぐ目の前には、ナ・イの教会もある。

 弾倉を取り替えた、それ。この街に来る前の前々職から使う軍用の短機関銃。それを構える。

「よう、名探偵」

「時は金だぜ。そこをどきな」

 教会の入り口には、いつも飲んだくれてた僧侶が数人。それぞれ手に短機関銃をもっている。

 ただ、違うのは、こっちは構えてて、向こうは下ろしている所。

「それは、どうだかな。神父ナ・イは」

「わかった。どけ」

 横凪に一連射。それで仕舞い。

 教会の中に押し入り、短機関銃を肩掛け帯で下げる。代わりに拳銃を抜いた。

 教会の中はいつも通り。敬虔な信者なんていないから、誰もいない。

 礼拝堂の奥へ進み、奥の隠し扉へ向け、右の拳銃を弾倉分撃ちまくる。

 弾倉を取り替えながら、ボロボロのドアを蹴破る。元人間が三人倒れてた。

「くそ。チクショウ……! この、裏切り者が……ッ!」

「裏切り、か?」

 まだ生きていたのか。驚いた。

 とりあえずとどめを刺して、階段へ。後ろで彼女が声のない悲鳴を上げたが、仕方ない。

 階段を登りきり、最後のドアだ。

 力任せに一気に開ける。視界に飛び込んできた何かと、入り口の脇に向け、引き金を引く。

 薬莢が転がる音と、銃弾の残響が耳に痛いが、部屋は静かになった。

「やあ、名探偵くん」

「よう、ナ・イ」

「相変わらず、ノックをしないやつだ」

「必要ないだろう」

 俺の言葉にか、ナ・イは鼻で笑った。

「で、どうする?」

「どう、とは?」

「茶番を続けるのか?」

「茶番? ふん。茶番か」

「なにが?」

 一瞬この男に一発くれてやろうかと思ったが、それは利口な手段ではない。止めておく。

「現状はこうだ。乱射事件で、民主派と厳格派の幹部は死んだ。新たに立ったのは死んだはずの民主派の幹部の娘だ」

「何を……。そうか、テメェ」

「しかし神官派に追われた彼女は私立探偵に助けられ、なんとか命を繋ぐ。そして探偵は交渉の席を設け、私と密談をする。そこへ厳格派が乗り込んできて、我が組織員を殺傷」

「下衆だな」

 とんだ下衆野郎だ。

「どうも。またしても生き長らえた彼女」

「もう結構。で、あんたの企みは成功か?」

「勿論だとも。これで神官派、厳格派、民主派、それぞれに高く深い溝ができた」

 これがそもそもの目論みだ。この男は最初から全て駒にして、勝手にこっちの命をチップにして賭けを楽しんでいたのだ。

「ああ、でも、そうだな。君が彼女を助けたのは、少し予想外だったよ」

「そうかい。ロクデナシめ」

「だが、これで君らは助かる。それ以外、なにが必要なんだ?」

 笑う男。踵を返して、部屋を出る。彼女は律儀に俺の後ろに回り込んだ。

「お前の正体を知っているからな」

 一言だけ、残しておこう。奴の反応は、いつもの薄気味悪い微笑だった。

「そうかね、タイタス・クロウくん」

 くそったれ。

 教会を後にした。
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