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Not peace,Not love You.
02
しおりを挟む翌日。俺は指定の時間の少し前に、セレファイスの北西部の通りを車で走っていた。
北部と北西部は比較的に治安がいい。
この街にもまともな理性を持っている人間も、少なからずいる。それがこの町だ。
セレファイスの大多数である闇の面に触れず、近寄らず独自の治安を守っている。
こっちとは程遠い連中が住む町。外観も綺麗で、行き交う人々も品性が良い。こういう場所で生活できれば、苦労もなにもないのだろうが、俺には無理そうだ。ここでの働き方を知らない。
あらかじめ調べておいた、目的の建物の近くの駐車場に車を停めて歩いて目的地まで向かう。
海辺の海洋都市でもあるセレファイスの夜は、風が冷たい。コートの襟を立て、帽子を目深にかぶる。
目的の場所は、この町で一番の高級ホテル。そこの最上階レストラン。一回のディナーで俺の一月分の稼ぎが吹っ飛ぶだろう。
普段ならテーブル代を払えば誰でも立ち入れる場所だが、今日は完全貸切状態で入れない。
だが昨日受け取った封筒の中には、丁寧に招待状まで入っていた。これでパスだ。直通のエレベーターに案内される。
瀟洒な飾りの多い箱の中。他に誰も乗り込んでこなかった。
最上階に到着。
明るい茶色の絨毯が敷かれた通路。薄黄色の壁。丁寧な彫刻が施されたドア。橙の光を灯す電気燭台が暖かい色で満たされている。
そのまま進み、レストランの入口でドアマンがコートと帽子を預かりに来た。それを撃った。
この街に来る前から持っている、自動式の拳銃。装弾数は大口径の割に戦闘装填では八発も入り、静音器との相性がいい。この街ではまだほとんど見かけない最新式だ。
ぶすんという発射音と共に、ドアマンの頭は弾けて、倒れた。
そのままドアを蹴破り、ホールへ。
まず一番近くの席に座っていた、名前も顔も知らない奴に一発。
そして左手でもう一つの同じ拳銃を抜いて、誰かに一発。
十四発をすべて命中させ、新しい弾倉に取り替えつつ、警備員を蹴り倒して脳天に一発撃ち込んだ。
阿鼻叫喚の渦。俺は努めて冷静に、残りの客も始末しようとした。
その時だ。別の入口。食事を運び込む従業員入口から五人ばかりがなだれ込んできた。
近くの観葉植物の花壇の陰に飛び込む。
そして爆裂音。
くそったれ。この音は最新の軍用短機関銃だ。全自動で弾をばらまく、戦場で一番出くわしたくないシロモノだ。
耳の中を引き切り裂くような銃声。はじけ飛ぶ肉の音。
明らかに襲撃者だ。誰だかわからんが、こいつらも、ここを狙うように雇われたんだろう。それもプロの荒事専門業者だ。
最悪だ。
トンズラするか?
いや、そうしたら給料はフイになる。
そうなると……。
花壇から滑るように飛び出して、一番近くの銃声へ。
敵は五人。二人は従業出入口の前。三人はそれぞれ部屋の中に展開して、片っ端から乱射しまくっている。
その中のひとりが、すぐ近くに来ていた。
上半身を低くしたまま、真横から襲撃者の喉を撃ち抜いて、右手の拳銃を脇のホルスターに突っ込む。
首がへし折れて脱力した襲撃者。その腕から短機関銃を奪い取り、こちら側を見ていた入り口の二人をなぎ払う。
一掃射で弾切れになった鹵獲品を捨て、自前の拳銃でこちらを振り向く最中の来客用出入り口の奴を撃ち、最後にこっちに照準を定めていた窓際の奴を殺す。
それなりに訓練を積んでいる相手で助かった。素人みたくでたらめに乱射されていたら、まずかった。
拳銃の弾倉を取り替えながら、生存者がいないか確認して回る。
次があり得る。なるべく早く立ち去りたいが、皆殺しが条件だ。
「悪いな。こっちも生きてるんだ」
何となく口から出てしまった、意味ない言葉。
絶命し、濁った瞳で見つめてくる死体達。
とりあえず生存者はいないようだ。
それなりに広いホールの中には、生き物の気配はない。依頼達成だろうか。
「…………ッ」
いや、誰かいるな。
一瞬だが、吐息が聞こえた。
場所はどこだ。
記憶を頼りに、その方向へ。
後からきた襲撃者の死体の近くだ。窓際の死体。
向こうからは見えているのか、一生懸命気配を消している。
倒れた勢いでひっくり返ったテーブル。その近くに倒れるタキシードを着た紳士と、戦闘服を着た武男の死体。そのすぐ近くだ。
ひっくり返ったテーブルと死体を蹴り飛ばした。
「ひぅっ!?」
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