貴女のBARで酔いましょう

夜桜月霞

文字の大きさ
上 下
3 / 8

しおりを挟む
「あ、ここです」

 そういって着いたのはよくあるワンルームアパート。入口にはオートロックがあり、最近流行りの女性向け物件と云う奴だ。

「きれいなお家ね。最近越してきたの?」

「そうなんですよ! 会社からも近いですし、なにより防音しっかりしてるんですよ」

「へえ」

 防音が、というのが気になったが、まぁ入れば分かるだろう。

 彼女の部屋は1階の一番手前の部屋だった。そして入ってすぐに、まぁ驚いた。

「え、うそ。すご」

 ワンルームとは言ってもそこそこ広い室内は、照明が落とされて薄暗い。居住スペースはベッドがひとつと、小さなローテーブルだけで珍しい物はない。

 唯一飛び抜けてとんでもない物は、バーカウンターだ。

 本来ならカウンターキッチンになっているはずのそこは、完全にバーの装いだった。

 壁一面に作られた棚にはお酒のボトルが無数に並んでいる。フレーバーなども豊富で、こじゃれたバーの一角と言われても納得のレベル。

 さらにわずかに鼻腔をくすぐるハーブとお香の香りは、無意識に深呼吸してしまいたくなるほどだ。

「さては、もぐりの飲み屋をやっているの、貴女?」

「ち、違いますよ! 好きなんです。お酒作るのが!」

 必死で否定する彼女は、買ってきたものをそそくさと棚にしまっていった。なるほど、確かに好きなのだろう。並んでいる銘柄はただの酒好きの範疇ではない。

「いつもは一人で作って飲んでるんですよ。バーに独りで行く勇気もないし、なら自分の家でやればいいやーって」

 自分でやればいいやーでここまで行けるのは、中々頭のネジに問題がありそうだ。

「どっぷりハマって家でシェイカー振ってたら、ご近所トラブルになって……」

 それでここに越してきたのか。だから防音か。

 軽いめまいを感じたが、それならそれでいい。

「ねえ、それなら私にお酒作ってくれない? 一人でやけ酒するの、嫌になっちゃった」

「はあ、そうなんです? それなら」

 ここに来るまでは散々嫌がっていたのがウソのように、すんなりとこちらの頼みごとを聞いてくれた。

 そこに座っててくださいと、カウンターの前に置かれていた椅子を指して、私は云われるがまま腰かけた。

 茫然と眺めていると、彼女は冷蔵庫から氷の塊を取り出して、包丁でサクサクと削り始めた。

 何が始まるんだと眺めていると、グラスに山盛りになりそうなほどのかき氷が出来上がった。

「まさか、かき氷にビールかけないでしょうね?」

「あはは。それも美味しいですね。夏ならたまにやりますよ」

「うそでしょ!?」

 驚く私を軽くあしらい、彼女はパッとジャケットを脱いで、手首に巻いていたヘアゴムで髪の毛を無造作に縛った。

 あらわになった顔は、想像以上に綺麗な造りをしていて、思わず見とれていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

【ワタシのセンセイ外伝1】 鍋島晃子の憂うつ

悠生ゆう
恋愛
『ワタシのセンセイ』に登場した保健室の先生、鍋島先生の大人百合です。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...