貴女のBARで酔いましょう

夜桜月霞

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1 最悪なお酒から始まるお話し

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 最悪だった。

 気合いを入れたメイク、真っ白なブラウス。日本ではあまり有名ではないけど、デザインが気に入っているイタリアンジャケット。自分の勝負衣装を身につけていた。朝から同僚たちからは冷やかされたがもう20代半ば。そろそろ優良物件を仕留めにかからないと後がない。

 早めに切り上げた仕事から、待合せの駅前へ余裕をもって移動した。

 本日の先方は有名企業に勤めるエリート君。業界大手で出世街道に乗った倍率の高い物件。何とかアポイントが取れたのは、まことしやかに悪いうわさも耳に入るためだろう。そこは実際に会ってみてから確かめてみよう。

 到着した先方にエスコートされて着いた、有名レストラン。予約を取るのも中々難しいという店だが、下準備が入念なのか、それとも悪い噂が本当か。

 少しの蘊蓄を交えた楽しいディナータイム。

 ここまでは完璧。今まで一番と言っていい。

 とはいえ本題はここから。適度にアルコールが入った先方は気が大きくなったようで、若干横柄な態度がチラチラと見えてきていた。

 この時点で危険信号。

 これに気付けないほど私は若くないし、苦い経験がないわけじゃない。

 そして案の定。

「女は黙って家にいればいいんだ。社会進出とか言ってるけど、結局社会に必要なのは男だけ」

 レストランを出てからの第一声がこれ。

 二軒目で美味しいお酒でも飲みに行こうという話しだったが、その台詞で全て興醒め。

 こんな時代錯誤で、現実を見れていない男に割く時間はない。教育してやる義理もない。

 笑顔で別れを告げて、執拗に次の約束を取ろうとする男を置いてその場を離れた。

 こんな日は家でひとり、つまらない時間だったと愚痴を溢しながら呑むに限る。

 着いて来られるのが嫌で、さっさとタクシーを捕まえて飛び乗ると、自宅の最寄り駅の路線の駅に行ってもらった。

 タクシーを降りて駅チカの高級スーパーに入ると、かごをもって冷蔵コーナーへ向かう。

 生ハムとチーズをかごに入れ、さて今日は何を飲もうかなと無理やりテンションを上げながら酒類コーナーへ。そこで目に入った人物に驚いた。

 おかっぱのような髪型。鼻にかかるくらいの前髪が邪魔くさそうで、さらにその下に分厚いレンズのウェリントンタイプの眼鏡をかけた人物。

 職場ではうつむき加減の姿勢と、ぼそぼそとしゃべる気弱そうな態度が、正直言って苦手なタイプだった。

 苦手なタイプだが、目に入った。

 何故なら彼女もお酒の瓶を数本かごに入れていた。

「数本?」

 おかしいのはそこだ。

 例えば、缶チューハイがいくつかとか、発泡酒やビールが数本、なら話しは簡単だ。私のかごの中も同じである。

 グレーの地味さ一点張りのようなスーツを着込んだ彼女のかごの中身はドライジン、ドライベルモット。あとよく分からない瓶がいくつも入っている。

 さらに棚からいくつか瓶をとり、躊躇なくかごに放り込んでいく。

「あ、あの、須崎さん? よね?」
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