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サバゲー大会初日!

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 フィールドに降りてみると、建物は大きくない。小屋も六畳程度のものだ。しかし、予想していた以上に視界は悪い。音も乱反射して、少し聞き取りづらい。

 ――大丈夫。だいじょうぶ。よく聞けば、聞こえる――

 自分に言い聞かせて、吹き抜けた風をよく聞いた。

 ――大丈夫、空気は抜けてる。音も、聞こえる――

 風の動き。曲がり角。コウモリのようにはいかなくても、距離位はつかめる。あとはその距離感を頭の中に叩き込むだけ。

「敵は対角線上のフラッグ、フォックストロット2から。あと気をつけるのは、センターにある、フォックストロット3。あの中央やぐらね。あれを取られたら面倒だけど、残念ながら、どう考えてもフォックストロット2からは結構スムーズに入れる」

 珠希の解説も聞きながら、足元をよく見た。土がむき出しで、木屑や土くれが落ちているサバイバルゲームのフィールドは、なかなか危険だ。尋たちはどうして足元を見ずに、あそこまでためらいなく走れるのか気になる。目が別のところにもついているのかもしれない。

「やっぱり視界狭いネー」

「それが醍醐味だろう?」

「おとチャンいてくれて助かるネー」

「アウトの耳なら、目がなくても攻められるからな」

「音羽ちゃんの耳って、そんなにすごいんですか?」

「すぐわかるさ」

「フー先輩が言うなら、間違いないんでしょうけど……」

「ウチがstrong頑張って勧誘したネー! ブラボーは我らのイージスsystemネー!」

 えへんと胸を張る尋。それでもどこか疑うような目のやまは、軽く音羽を見据えた。

 訓練で音羽は、まさに落第生然としていた。

 元々運動は得意じゃない。むしろ苦手で、運動会ではいつもびりだった。そんな音羽が、結構すごいスポーツマンでも根を上げる、タクティカルトレーニングをクリアできるはずはない。訓練中はずっとほかのメンバーやフーに助けられていた。

 その音羽がフル出場だ。訓練では実力を全く発揮できなかった分、当然疑われる。

「AII OK, No problemネー! 皆でガンバろーネー」

「おー」

「取るのは優勝だけ。あとは捨て置く! いいこと!?」

「イエー!」

『ゲーム開始三十秒前でーす。各陣営スタート位置へ!』

 拡声器で、全域へ向けられた声。あと三十秒で全国大会が始まる。

「standby ready」

 尋が呟き、オフェンスの三班が姿勢を低くした。

『10ー! 9ー! 8ー! 7ー!』

 カウントダウン。音羽も同じように姿勢を低くして、身構えた。

『3! 2! 1! スターーーーート!』

 ゲームスタートと同時に、尋たちオフェンスは建物の影に添うように走った。

 ――やっぱり前に出るんだ……――

 当然の事だが、改めて感心した。

 音羽からすると、前衛は怖い。

 いくら怪我をしないようにされているとはえ、エアソフトで撃たれれば痛い。それも彼女たちの交戦距離は近いので、余計に痛いだろう。

 それでも前に出るのは、音羽には真似できない。

 そう思いつつ、フーと建物の影に隠れながら、前へ進んでく。

 今回のフィールドには、乱雑に建物が並んでいる。正方形の壁だけの物や、二階建てになったものもある。森の中よりは開けているが、周囲の建物の中に敵が潜んでいる可能性がある。それに狙撃やトラップなど、考えると切りがなく、ひとりではとてもじゃないが怖くて一歩も動けない。

「アウト。状況をよく見れば、お前なら何も怖くないはずだ」

 フーが音羽にだけ聞こえるような、極小さい声でささやいた。
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