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サバゲー大会の準備!

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 珠希の首筋に顔をうずめた尋が、突然右手を前方に突き出されていた。手は握られている。あまりに突然で、そして早すぎて音羽には腕の動きは見えなかった。

 ――今、撃たれた――

 確かにエアソフトの発射音が聞こえた。

「Oh my god. Daddyいなくてヨかったネー……」

 顔を上げない尋が、誰にも聞こえないような声で呟いた。

「あ? 今当たんなかったか? もう一発いっとくか?」

「いや、それより直接いこうぜ」

 10メートル先の交差点から、さきほどの騒がしい集団の三人が出てきた。

 集団はそれぞれ今しがた買った、真新しいエアソフトを片手に持っていた。

 それを見て、小学生の頃の嫌な記憶が蘇った。

「あー、もー、ホント嫌になるデスネー」

「しかたないわ。この国は根本的に教育方法が間違えているもの」

 珠希を離して、尋はすっと前に出た。

「お、なんか出てきたぞ」

「ねー、君たち! さっきあの店いたでしょ? ちょっと試したい事あんだけどさー」

 軽薄な顔で近付いて来る集団。さらに音羽の後ろからもひとり出てきて、ぞんざいに拳銃型のエアソフトを突き出している。

 尋は握っていた手を開いた。BB弾がひとつぶアスファルトに落ちて跳ねる。

「フー、後ろよろしくネー。たまチャン、おとチャンよろしくお願いシマスネー」

 言って、尋はすでに三人の前に居た。そして正面のひとりの顎を真下から押し上げ、その間に向かって右の人物の手首を蹴り上げる。

 正面のひとりが、糸が切れたように膝をついて崩れた。手首を蹴り上げられた右側は、そのまま頭頂部に尋の踵が落ちてやはりひざを突いた。

 尋が動いた瞬間、フーも動いていた。

 くるりと振り向き、音羽に向いていたエアソフトのスライドを掴みながら、グリップを叩いた。マガジンが落ち、スライドが抜ける。分解と同時にもうひとりのスネを蹴り落とした。悲鳴と共に地面を転がる。

 瞬く間もなく、四人が無力化された。

 一瞬の間を置いて、無傷だったひとりが声を上げようとしたが、尋に顔面を鷲掴みにされた。

「お前らみたいなのイると、ウチら困るデスネ。分かりマスか?」

「あが、ががかぁあああッ!!」

 音を立てて尋に握り絞められる顔に、男は悲鳴を上げる以外の抵抗が出来なかった。

「おもちゃじゃ人殺せないデスヨー? ウチらの名誉汚れるだけデース。ヤるならおもちゃじゃなくて、ホンモノもって来るデース。understand,OK?」

 泡を吹き始めた最後のひとりを離して、尋はその前でしゃがんで顔を覗き込んだ。

「他人巻き込もうとか、思わないでくだサイネー。ウチ、怒ると、手加減できないデース。あなたの大切な、いっこだけの物とってしまうデスヨー。OK?」

 怯えきった彼の胸を、とんと指先で叩いた。

「大切にするデスヨー。簡単に亡くしてしまうデスからネー?」

 悲鳴を上げる。

「分かったら、とっとと失せるがいい。今回はこれで許してやる」

 フーがエアソフトを分解されたひとりをとんと突き飛ばすと、無様に尻餅をついて転んだ。それを皮切りにして自分で動ける者は走って逃げ出した。

「ホント、困りマスヨー。ああいう人タチ、悪目立ちすぎるからネー」

 肩をすくめる尋。足元で失神している最初の犠牲者を指先でつついた。反応はない。

「あー、また君か」

 そこへ二人の警察官が駆けつけてきた。

「また?」

 音羽の呟きに、フーが答える。

「同じような出来事が、この前もあった。あのふたりの警察官はその時も対応した人物だ」

 後頭部をかきながら、ひとりの警察官が寝転がったままの男の横でしゃがみこんだ。

「まあ、今日も多勢に無勢だったんだろ?」

「Oh,yes! 怖かったヨー。殺される思ったネー。ナイフきけんネー」

「今のは聞かなかった事にするよ……」

「Thank you,Officer」

「次からは、自分たちを呼んで、逃げるなり隠れるなりしなさい」

「そうシマース。日本のポリスメンはゆーしゅーデスからネー」

 警察官二人は転がっている男たちを起こして、無線でなにか呼びかけている。

「あとは良いから、早く帰りなさい」

「ありがとごじゃいマース。帰りマスヨー」

 尋は警察官たちにキスを投げて、歩き出した。

 呆然としていると、フーが指先で音羽の袖を摘まむ。

「いくぞアウト。面倒になる前に」

「は、はい!」

 少し引かれるようにして歩き出して、学校に戻る。

 学校に戻ると、グラウンドに数人のチームメイトがいた。

「Oh! みんな頑張ってマスネー! チューして上げないとデスネー!」

 両手に荷物を持った尋が嬉しそうに走り出した。

「あ、あの、さっきの人たちって……」

 前の二人に恐る恐る尋ねてみる。

「武器を持って、己の脆弱な意思に負けた愚か者だ。薬になっただろう」

 どこか侮蔑の雰囲気を持ったフー。

「昔からああいうのは多いって聞くわ。それに今だって、何か凶悪事件が起きれば必ずエアソフトが趣味だったとか、不愉快な発言を聞くわ」

 珠希の言葉にもやはり嫌悪が含まれていた。

「どの業界にも必ず光と影がある。その事は誰もが心に留めておく必要がある」

 肩を落としたフーはそういうと、買ってきた備品のチェックを始めた。
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