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サバゲー大会の準備!
03
しおりを挟む珠希の首筋に顔をうずめた尋が、突然右手を前方に突き出されていた。手は握られている。あまりに突然で、そして早すぎて音羽には腕の動きは見えなかった。
――今、撃たれた――
確かにエアソフトの発射音が聞こえた。
「Oh my god. Daddyいなくてヨかったネー……」
顔を上げない尋が、誰にも聞こえないような声で呟いた。
「あ? 今当たんなかったか? もう一発いっとくか?」
「いや、それより直接いこうぜ」
10メートル先の交差点から、さきほどの騒がしい集団の三人が出てきた。
集団はそれぞれ今しがた買った、真新しいエアソフトを片手に持っていた。
それを見て、小学生の頃の嫌な記憶が蘇った。
「あー、もー、ホント嫌になるデスネー」
「しかたないわ。この国は根本的に教育方法が間違えているもの」
珠希を離して、尋はすっと前に出た。
「お、なんか出てきたぞ」
「ねー、君たち! さっきあの店いたでしょ? ちょっと試したい事あんだけどさー」
軽薄な顔で近付いて来る集団。さらに音羽の後ろからもひとり出てきて、ぞんざいに拳銃型のエアソフトを突き出している。
尋は握っていた手を開いた。BB弾がひとつぶアスファルトに落ちて跳ねる。
「フー、後ろよろしくネー。たまチャン、おとチャンよろしくお願いシマスネー」
言って、尋はすでに三人の前に居た。そして正面のひとりの顎を真下から押し上げ、その間に向かって右の人物の手首を蹴り上げる。
正面のひとりが、糸が切れたように膝をついて崩れた。手首を蹴り上げられた右側は、そのまま頭頂部に尋の踵が落ちてやはりひざを突いた。
尋が動いた瞬間、フーも動いていた。
くるりと振り向き、音羽に向いていたエアソフトのスライドを掴みながら、グリップを叩いた。マガジンが落ち、スライドが抜ける。分解と同時にもうひとりのスネを蹴り落とした。悲鳴と共に地面を転がる。
瞬く間もなく、四人が無力化された。
一瞬の間を置いて、無傷だったひとりが声を上げようとしたが、尋に顔面を鷲掴みにされた。
「お前らみたいなのイると、ウチら困るデスネ。分かりマスか?」
「あが、ががかぁあああッ!!」
音を立てて尋に握り絞められる顔に、男は悲鳴を上げる以外の抵抗が出来なかった。
「おもちゃじゃ人殺せないデスヨー? ウチらの名誉汚れるだけデース。ヤるならおもちゃじゃなくて、ホンモノもって来るデース。understand,OK?」
泡を吹き始めた最後のひとりを離して、尋はその前でしゃがんで顔を覗き込んだ。
「他人巻き込もうとか、思わないでくだサイネー。ウチ、怒ると、手加減できないデース。あなたの大切な、いっこだけの物とってしまうデスヨー。OK?」
怯えきった彼の胸を、とんと指先で叩いた。
「大切にするデスヨー。簡単に亡くしてしまうデスからネー?」
悲鳴を上げる。
「分かったら、とっとと失せるがいい。今回はこれで許してやる」
フーがエアソフトを分解されたひとりをとんと突き飛ばすと、無様に尻餅をついて転んだ。それを皮切りにして自分で動ける者は走って逃げ出した。
「ホント、困りマスヨー。ああいう人タチ、悪目立ちすぎるからネー」
肩をすくめる尋。足元で失神している最初の犠牲者を指先でつついた。反応はない。
「あー、また君か」
そこへ二人の警察官が駆けつけてきた。
「また?」
音羽の呟きに、フーが答える。
「同じような出来事が、この前もあった。あのふたりの警察官はその時も対応した人物だ」
後頭部をかきながら、ひとりの警察官が寝転がったままの男の横でしゃがみこんだ。
「まあ、今日も多勢に無勢だったんだろ?」
「Oh,yes! 怖かったヨー。殺される思ったネー。ナイフきけんネー」
「今のは聞かなかった事にするよ……」
「Thank you,Officer」
「次からは、自分たちを呼んで、逃げるなり隠れるなりしなさい」
「そうシマース。日本のポリスメンはゆーしゅーデスからネー」
警察官二人は転がっている男たちを起こして、無線でなにか呼びかけている。
「あとは良いから、早く帰りなさい」
「ありがとごじゃいマース。帰りマスヨー」
尋は警察官たちにキスを投げて、歩き出した。
呆然としていると、フーが指先で音羽の袖を摘まむ。
「いくぞアウト。面倒になる前に」
「は、はい!」
少し引かれるようにして歩き出して、学校に戻る。
学校に戻ると、グラウンドに数人のチームメイトがいた。
「Oh! みんな頑張ってマスネー! チューして上げないとデスネー!」
両手に荷物を持った尋が嬉しそうに走り出した。
「あ、あの、さっきの人たちって……」
前の二人に恐る恐る尋ねてみる。
「武器を持って、己の脆弱な意思に負けた愚か者だ。薬になっただろう」
どこか侮蔑の雰囲気を持ったフー。
「昔からああいうのは多いって聞くわ。それに今だって、何か凶悪事件が起きれば必ずエアソフトが趣味だったとか、不愉快な発言を聞くわ」
珠希の言葉にもやはり嫌悪が含まれていた。
「どの業界にも必ず光と影がある。その事は誰もが心に留めておく必要がある」
肩を落としたフーはそういうと、買ってきた備品のチェックを始めた。
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