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異世界?なるほど、若い人たちに流行っていた物語だな?

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 予備の服なんてなかったからだ。
 汗もかいていないし、定期的に体も拭いていた。しかし、もしかしたら臭うだろうか。臭うだろうな。そうだろうとも。
 恐る恐るリリィを見る。
「もしかして、臭いですか? 自分」
「え、えっと、そんな事は……」
 視線を、そらされてしまった。
 何という事だ。
 あまりにショックで一瞬意識が飛びそうになったが、自分は意識を切り替えて必要な道具と、自分の新しい服を買う事にした。
 市を散策しつつ、蝋の量産に必要な物を買い集めた。
 まずは鍋。熱伝導のいい金属製の物が欲しい。これはすぐに買えた。やかんとほぼ同一のものだ。これで土鍋で煮立てなくてもすむ。それとストーブ。火鉢では効率が悪い。
 それからもっと大きな桶だ。それこそ人が胡坐を組んで入れそうなもの。
 それらを仕入れると、次は服だ。
 道具を取りそろえる馬車の隣で揃っていた。
 自分が近寄ると、人が離れていく。余程臭うのか……。
 そこで毛皮と布も混合で作られた服を見繕い、リリィに似合っているか確認した。
「とっても! 素敵ですよ!」
「それならよかった」
 購入するむねを伝えると、服屋の商人は本当に半額にしてくれた。
「そうだ。まだ余裕があります。貴女にも」
 目に入ったのは、青い染色が施された布と毛皮の服。ワンピースのようだが、足元はズボンになっている。動きやすそうだし、何より温かそうだ。
「商人さん。これはいくらですか?」
「銅貨50枚」
「高いですね。銅貨20枚」
「ぶっ殺すぞ? 40枚だ」
「田舎だからと言ってバカにするのはよくありませんね。それに貴方、もしかして村長から指輪買い取りましたか?」
 ここは服屋だ。服飾品も扱っている。
 自分の言葉に、その商人は一瞬反応した。
「いけませんね。村長さん、本当の事を知ったら、どうなりますかね?」
 にこりと笑みを浮かべて見ると、商人は顔を青くして小さく分かったから、静かにしてくれと言ってきた。
 カマをかけたら大成功だ。
 あの指輪は決して安くない。旅の商人がそうおいそれと買い取れる物じゃない。絶対に買い叩いているはずだ。それでも思っていたよりも高額だったから、村長は喜んで売り捨てたのだろうが、きっと相当な儲けができるはずだ。
 持っていけというので、自分はおまけに靴も指さした。
「こちらもよさそうな品ですね?」
「ああ、わかった。わかったから」
 そうしてリリィの服も手に入れられた。
「はい。リリィさん」
 自分が渡すと、彼女は大きな目を瞬かせた。
「え? なんです?」
「なんでって、貴女に似合いそうだったから、買いました。不要でしたか?」
 一瞬ぽかんとしていた彼女だったが、その次には今度は顔を真っ赤にさせていた。
「あ、ありがとう、ございます! た、大切にしますね!」
 買った服を大事そうに胸に抱くと、本当にうれしそうな笑みを浮かべていた。これで買い叩いたかいがあったというものだ。
 それから冬支度に必要な物をさらに買い足した。
 食料になる小麦粉のような物と、粟のようなもの。それとそれらを調理する鉄の小さな鍋。
 かなりの量になったが、バラグラムが手押し車を貸してくれたので、一度で運びきれた。どうやら彼には相当気に入られていたようだ。
 荷物を置いて、手押し車をバラグラムに返した。
 小屋に戻ると、どこか落ち着きのないリリィ。目の前に先ほど買った服が藁の上に広げられている。
「早速ですが着て見てください」
「ほ、本当に、いいんですか……?」
「当たり前じゃないですか」
 彼女が着る為買ったのだ。外で待ってまと言い残して、自分は外に出てストーブを確認した。
 薄い銅板でできただるまストーブだ。短い煙突がある。本当は建物の外に出した方が良いのだろうが、一酸化炭素中毒になる程の気密が取れた小屋ではない。天板は平になっていて、ふたを外すと直火が使えるという優れものだ。明らかに技術水準的に見合わないものだし、もしかしたら自分と同じ異世界人が持ち込んだ技術で作られているかもしれない。
 これでより温かくなるし、鍋も含めて調理の幅が広がった。快適な生活に一歩近づいた。
 よしよりと頷いていると、借り物の猫のような挙動不審なリリィの声が聞こえた。
「あ、あの、き、きがえ、ました……」
「中に入りますね」
 ドアを開けると、いつもと違う彼女がいた。
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