籠の鳥

橘 薫

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語られる真実

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 どういうことなのか。なぜ一真くんが彼のことを知っているのか。
 一真くんはベッドヘッドに繋いだ手枷を外すと、わたしの手をゆっくりと下ろさせた。はだけた服を直され、髪をそっと、撫でられた。

「なん、で」
 喉に力が入らない。声帯、どこにいったんだろう。声を出すって、こんなに力がいるんだっけ、とぼんやりと考える。
「亡くなったって、なんで。どうしてあなたが知ってるの」
「心疾患だったらしいです。僕も、あまり詳しいことを聞いてないので」
「なんで……彼のこと、知ってるの」
 絞り出すような声で問いただした。あの男と一真くんが知り合いなのか。どうしてわたしとあの男が関係を持っていたと知っているのか。

「全部話します。けど……どうか、僕の話を遮らないでください、泣かないでください」
 そんなことを言われても、とっくに涙腺は決壊しかけている。アイマスクのおかげで涙は外に流れ出しはしないけれども。
「美彩さん……」
 声に苦悶が滲んだように聞こえるのはどうしてか。彼はわたしを憐んでいるのだろうか。

「あんな奴、忘れちゃえばいいんだ。忘れてさっさと幸せになっててくれれば、僕はあなたを憎めたのに」
 一真くんの手がアイマスクに触れた。ずらされた隙間から、彼を見上げる。目の縁に盛り上がった涙はなんとか表面張力を保っている。それを見たのだろうか。彼はすっとアイマスクを元に戻し、わたしはまた暗闇の中へと戻る。

「あなたが愛して、囚われて、未だに忘れられない神崎は、一人娘がいます。知ってましたか」
 こくり、と頷く。一度だけ、写真を見せてもらったことがある。ツインテールが愛らしくて、利発そうな瞳をしていた。鼻と、顎のラインが神崎にそっくりだった。見たことのない彼の妻をその写真から想像し、嫉妬した。

「前に、愛児園で知り合った僕の親友の話をしたと思います。ちひろ……神崎の、娘です」
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