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ドミナント
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「中に入って」
一真くんは何も言わずに、するりとドアの隙間から入ってきた。スーツを着ていることに驚いた。
「スーツ、持ってたっけ」
「何着たらいいのかわからなくて、友達に借りました」
照れ臭そうに下を向く彼。ドミナントは堂々としていなければならない。例え失敗したとしても、手際が悪かったとしても、決して狼狽えたり焦ってはいけないのだ。
「よく似合ってるわよ」
「ありがとうございます」
口数の少ない彼の目が、困ったようにわたしの胸元を見ては目を逸らす。
「ドミナントの心得。決して焦らない、狼狽ない、ゆったりとエレガントに」
「はい」
「ドミナントはサブミッシブが安心して委ねられる環境を作り、快楽だけに集中できるようにしてあげるの。自分の快楽は二の次よ」
「はい、わかりました」
「ドミナントの快楽は、サブミッシブの快楽を支配することよ。そして」
付け加えようとして一瞬考えてしまった。なぜなら、今だに私も、そうだからだ。
「サブミッシブがドミナントのことを永遠に忘れないように……尊重して、焦らして、目に見えない所有の印を刻むの」
「所有の、印」
「比喩よ。別に見えないところにキスマークをつけろとか、そういうことではないわ」
「美彩さんは、所有の印をつけられたんですか」
ふっと微笑んだ。彼の無垢な無知が、愛らしくなってくる。所有の印をつけられたから、わたしはあの男以外と恋愛することを諦めたのに。
それは何度か説明したつもりだった。でも、人間は面白い。自分が思ってもいないようなことはきっと、頭に入ってこないのだろう……所詮、ヒトは己の物差しでしか他人の言うことを理解しないのだ。
「一真くんは、誰かに所有の印をつけたいの? だからドミナントが何をするのか知りたいの?」
「いえ……、僕にはそういう相手はいません。というか、誰かに対して愛情は持つことはありますが、性欲を持ったことがないんです」
「勃つのに?」
はい、と彼は頷いた。
「生理反応として勃起はしますし、射精は気持ちがいいです。けど、それが誰かと一つになりたいとか、性欲で、っていうのは……ないんだと思います」
一真くんは何も言わずに、するりとドアの隙間から入ってきた。スーツを着ていることに驚いた。
「スーツ、持ってたっけ」
「何着たらいいのかわからなくて、友達に借りました」
照れ臭そうに下を向く彼。ドミナントは堂々としていなければならない。例え失敗したとしても、手際が悪かったとしても、決して狼狽えたり焦ってはいけないのだ。
「よく似合ってるわよ」
「ありがとうございます」
口数の少ない彼の目が、困ったようにわたしの胸元を見ては目を逸らす。
「ドミナントの心得。決して焦らない、狼狽ない、ゆったりとエレガントに」
「はい」
「ドミナントはサブミッシブが安心して委ねられる環境を作り、快楽だけに集中できるようにしてあげるの。自分の快楽は二の次よ」
「はい、わかりました」
「ドミナントの快楽は、サブミッシブの快楽を支配することよ。そして」
付け加えようとして一瞬考えてしまった。なぜなら、今だに私も、そうだからだ。
「サブミッシブがドミナントのことを永遠に忘れないように……尊重して、焦らして、目に見えない所有の印を刻むの」
「所有の、印」
「比喩よ。別に見えないところにキスマークをつけろとか、そういうことではないわ」
「美彩さんは、所有の印をつけられたんですか」
ふっと微笑んだ。彼の無垢な無知が、愛らしくなってくる。所有の印をつけられたから、わたしはあの男以外と恋愛することを諦めたのに。
それは何度か説明したつもりだった。でも、人間は面白い。自分が思ってもいないようなことはきっと、頭に入ってこないのだろう……所詮、ヒトは己の物差しでしか他人の言うことを理解しないのだ。
「一真くんは、誰かに所有の印をつけたいの? だからドミナントが何をするのか知りたいの?」
「いえ……、僕にはそういう相手はいません。というか、誰かに対して愛情は持つことはありますが、性欲を持ったことがないんです」
「勃つのに?」
はい、と彼は頷いた。
「生理反応として勃起はしますし、射精は気持ちがいいです。けど、それが誰かと一つになりたいとか、性欲で、っていうのは……ないんだと思います」
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