籠の鳥

橘 薫

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馴れ合いは傲慢となる

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 一真くんがお玉を持ち、お碗に鍋の中身を取り分ける。
「熱いから気をつけてください」
「ありがとう」

 日常のことと「そのとき」は分けねばならない。アレは特別な非日常の時間なのだ。待たされ、焦らされ、望んでもすぐには与えられず、それでも諦めることなく欲し続ける貪欲さ。それがなければ成立しない、強欲でピュアな、快楽への希求。それがあってこその「ご褒美」なのだから。

「……ねぇ、ちょっと思い上がってない?」
「どういうことですか」
「わたしね、相手が誰でもいいわけじゃないのよ。あのクラブはお金を払うし、クラブ側がそれなりに配慮してくれるから使ってたけど」
「分かってます」
「じゃあ、どうして」

 どうして、あの男のようにできると思うのか。同じように縛り、焦らせばいいわけじゃない。あの男じゃないとダメなのだ。あの男の指、舌、吐息、声。そして、屹立する男らしいソレがオスの匂いを放つとき、わたしは恍惚として彼の前に平伏すのだ。

 言葉を続けられないまま、咀嚼音が耳に響くのが耐えられない。わたしはスマートホンを手元に引き寄せると音楽アプリを立ち上げ、適当なプレイリストを再生した。

「僕、知りたいんです。なんで美彩さんは普通の愛し方がダメになってしまったのか。ドミナントとサブミッシブの関係性って、そんなに魅力的なのか……僕は、ちゃんと知りたいんです」
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