籠の鳥

橘 薫

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聖夜

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「すごく好きになった人。女の悦びを教えてくれた人。今でも……多分、好き。やり直したいとかは思わないけどね」
 一真くんは身じろぎひとつせずわたしの話を聞いている。その様子がわたしを饒舌にさせた。

「彼は支配者……ドミナントでわたしは隷属者でサブミッシブ。基本、すべて同意のもとに行われる、愛の行為なの。でも、なかなか理解されることじゃないから、彼の愛し方に病みつきになってしまうと、普通の愛され方じゃ満足できなくなるのよね。それに、彼に性欲のすべてを捧げたようなものだから、他の男の人にはなかなかそういう気持ちにならなくて」
「そうなんですか」
「一真くんは、ああいうのを経験したの、この前が初めてでしょ? わたしにはあれが日常だったけど。普通引くよね?」
「まぁ、最初は確かに、引きました……けど」

 一真くんの目が、おどおどとわたしを見る。何かを伝えたい、でも躊躇うかのように何度か口を開いては閉じる。舌先が唇をチロリと舐める、喉仏がごくり、と動く。

「その、僕、こんなこと言っても美彩さん、引かないですよね?」
「言わなきゃ引くかどうかは分からないけど。なに?」
「僕……その」

 潤んだ瞳。若い男の子の発する色気に、内心たじろぐ。まるで強い香りの百合の花を、突然鼻先に突きつけられたような気分だ。

「SMとか、よくわかりませんし、サブ、なんとかってのも分かんないですけど、けど、美彩さんに初めて、された……あのとき、すごく、その、気持ち良くて」
 マグカップを持つ手が震えている。言葉を切り、また……次の一言を発するまで、時間をかける。わたしは辛抱強く待った。

「僕、なんていうか、すごくアレが良くて、何度も思い出しちゃうんです。僕、おかしいですか? また美彩さんに、自由を奪われたい、快楽をコントロールして欲しい、って、そう思っちゃってるんです」

 頭の中でなにかが弾けた。そんなふうにわたしに告げて、何もされないとでも思ってるの?
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