籠の鳥

橘 薫

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ペット志願

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「一真くん、この後予定は?」
 そんなふうに聞いてしまったのは、彼の髪の美しさに油断してしまったからか。
「帰ります。今、先輩のところに間借りしてて、家賃の代わりに掃除したりなんだりしないといけなくて」
 そうか、と頷く。十二月の人恋しさが、わたしに彼を誘えというけれども、その声は無視することに決めた。

「僕、駅の反対側なんでここで。良かったらまたコーヒー飲みに来てください。当分あそこで働いてると思うんで」
 改札のところで彼はわたしを見送る。礼儀正しいその様子に、ビジネスとはいえども性癖を晒してしまった罪悪感でちくりと胸が痛む。知らない子なら大丈夫なのに、知ってしまうと苦しくなる。もうこの子には、関わらない方がいい。

「また気が向いたら行くね。じゃあ」
 手を振り、改札へと入る。一真くんはまだわたしを見ている。彼はわたしのなんなのだ。わたしは彼のなんなのだろうか。

 互いにつながらなかったはずの関係が、いっときの偶然で絡み合っただけ。今ならまだ解ける。絡んだままにしておくと、気がついたらがんじがらめになっているに違いない。そして解くことを諦めてしまうのだ。ならばまだ、今、この時。解せるときにほぐしておけばいいのだ、二度と絡まないように。
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