籠の鳥

橘 薫

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性癖

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 泣きそうに顔を歪めながら、声を必死で噛み殺すその様子。縛められた両手が自由になったら、わたしに襲いかかるかもしれない。男を甘く見ないことだ。どんな優男でも、わたしを力でねじ伏せることは容易い。

 腰のタオルをはだけさせると、羞恥からか頬が赤くなる。わたしは冷静に観察する。さっきよりも、角度がいい感じだ。

「欲しいならそう言って」
「あ、くっ……」
「あげないから」
「え……、えっ……?」
 焦る表情が可愛らしい。まだ若い彼。経験は少ない方なのだろう。とことん焦らして……泣かせたい。

 彼が涙を流して懇願するところを想像したら、体の中心にぞくりと快楽が走る。この、若い男がわたしの足元に跪き、涙でぐしゃぐしゃになった顔を真っ赤にさせながら、屈辱を飲み込んで頭を下げるのだ……ああ、彼の快楽を支配しているのはわたし。彼が気持ち良くなるかどうかは、すべてわたしの采配にかかっていて、彼はわたしに逆らえない。

 跨った腰をゆっくりと落とす。触れるか触れないかの位置まで落とすと、彼が本能的に突き上げようとする。それをギリギリでかわして腰を浮かす……それを、繰り返した。
「お、願い、します」
「何を」
「あっ……くっ、く」
 わたしはそっと彼の敏感な部分に触れる。今この瞬間、わたしは彼の体を愛してる。だから優しく触る。ハムスターを撫でるように、そっと、軽く指で触れる。

 彼が頭をのけぞらす。剥き出しになった無防備な喉元。浮き出た喉仏が、彼が唾を飲み込んだことで上下する。

「イキたい、です」
「どうぞ」
「美彩さんっ……!」
「我慢しないで。イキたいときにイってどうぞ」
 彼の瞳に落胆の色が現れる。わたしが「彼の望むこと」あるいは「彼の常識」が望むことをしないのだと、はっきりと知った顔だった。
「どうして……」
「言ったでしょ? 我慢させて、焦らすのが好きなの。欲しがらせてねだらせて、プライドも何もなく欲に忠実になる様が」
 好き、と耳元で吐息混じりに囁き、耳を甘噛みする。ねぇ……自分でコントロールできない欲って、どうしてこんなにも唆るのかしら。
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