Love affair〜ラブ アフェア〜

橘 薫

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♠︎束の間の…♠︎弘田宇丈

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 30日まで仕事をし、31日は一日寝てた。
 夕方実家に電話したら、弟たちはとっくに実家に帰っていた。
「明日の早朝の便で帰るから」
「迎えに行かせようか?」
「うん、頼むわ」

 電話の向こうから、弟たちが誰がオレを迎えに行くかで争ってる声がする。
 そりゃそうだよな、車で迎えに来ることになるんだ。元旦から酒が飲めないなんてオレだったら勘弁だ。

 お袋との電話を切って、荷物をパッキングした。夕方まで寝ちまったけど…明日朝、早いからな…。ビールを飲みながら適当に音楽を掛けていたら、うとうとと眠ってしまった。

 翌朝、予定通りの時間に目が覚め、空港に向かう。
 チェックインし、どこかでコーヒーでも買おうか…と、きょろきょろしていたときに、見慣れた姿を見かけた。

 あれ…?心臓がどくん、と鳴った。
 や、まさか、な…。元旦にこんなとこにいるわけねぇよ…。

 距離を取りつつ、後を追いかける。
 一人でいるわけがない…絶対旦那さんがどこかにいるはずだ。
 もし見られたとしても気づかれないように…自然な距離感を保つ。

 彼女がトイレに入ろうとしたときに、声をかけた。
「みひろさん?」
 振り向いた彼女…やっぱり…。
「宇丈、さん…」

 瞬時に周りを見て人がいないことを確認した。
 女子トイレの個室に彼女を連れ込み、ドアに鍵を掛ける。これで安心して話せる…。

「どうして?」
「あ、オレ…実家に帰るんだ。みひろさんは?」
「主人の関係でこれから福岡なんです」
「そっか…はは、驚いた」
「私も…」

 オレを見あげるみひろさんは、頬が紅潮していてすごく嬉しそうだから、オレも嬉しくなって…頬が緩む。
 でも、旦那さんがいるんだよな?あんまり長い時間は一緒にいられないよな…。

「みひろさん、オレに少しだけ…時間くれる?」
「え?」
「五分…いや、一分でいい」
「…はい…」
 狭い個室の中で抱き合い、彼女の頬に触れる。
 髪に触れ、そっと…唇に指を触れさせた。みひろさんの目が、潤んでる…。

 唇を重ね、優しく柔らかく舌を入れると、みひろさんもそれに応えてくれる。
 甘い吐息と、吐息に混じって聞こえる声にならない、声…。愛しくて、このまま腕の中に閉じ込めてしまいたい…。

「一分、経ちました…」
 みひろさんが、そっと唇を離し、言った。
「みひろさん…」
 もっと、もっとキスしたい。触れていたい。離したくない。旦那さんのところに…戻したくない…。

「私、行かないと…」
「もう少し…」
「わがまま言わないで?」
 そういう彼女の顔は、いつもの外向きの…気丈な顔で。
 オレの頬にそっとキスすると、優しい声で言った。

「明けましておめでとうございます。今年も…よろしくお願いします」

「…今月、会える?」
「まだわからないので…手紙、出します」
「待ってるから」
「はい」
「…話したいこと、あるんだ」

 そうだ…決めた。
 やっぱり今度こそ、アオに言われたように、話し合いたい。
 これからの二人がどうなるかわからないから、会えるときに…できることをしないと。
「そろそろ出ようか」
「はい」

 誰もいないことを確認して外に出る。何食わぬ顔で、少し離れたところの席につき、サングラスで顔を隠してみひろさんが出てくるのを待つ。

 みひろさんが出て来た。オレのいるのとは反対の搭乗口に向かう。きっと…旦那さんが待ってるんだろうな…。

 北海道行きの便の搭乗案内が始まった。
 荷物を持って、搭乗口に向かう。新年早々、思いがけずみひろさんに会えた。
 今年は…きっと何か、大きな変化を起こせる…。そんな予感が、した。
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