上 下
28 / 171
❤︎出会い❤︎真柴みひろ

4

しおりを挟む
 主人の書斎を掃除していたら、ゴミ箱の中に彼の名刺を見つけた。思わずゴミ箱から拾い上げた。

 あの、印象強い瞳を思い出して体の奥がずきん、とする。
 なんだろう、この感覚…。胸がきゅうっとなって、息が苦しくなって。体が…熱くなる。
 拾い上げた名刺は、しばらく考えて…主人に内緒で持つことにした。

 それから何日か、上の空で過ごした。弘田さんのことが、頭から離れなかった。
 彼の、あの瞳、唇。物静かで優しい声。落ち着いた佇まいにスーツの上からでもわかる、筋肉質の体…。

 体、と思った時に一気に恥ずかしくなった。
 私…彼の体を、見てみたい…どんな感じ?主人のとは違うのかしら?腕は?胸は?背中は?
 知りたい、と思った。でも…もう、会うことはない…。

 彼の名刺は財布に挟んでおいた。主人に見つかる可能性を考えたら、持ち歩く方が安全だった。

 お茶のお稽古の後、電車の中で彼の名刺を取り出して見ていたら…どうしてもどうしても、会いたくなった。衝動的に次の駅で降りて、宇丈さんに電話していた。

 その日のうちに、会う約束をした。でも彼は、私が主人に言われて、マーケティングの話を聞きにきたと思っているだろうから…。
 冷静に話をしよう。彼を、観察しよう。何が私を彼に引きつけるのか…知りたいから。

 待ち合わせ場所には5分早く着いた。化粧室の鏡で自分の姿を確認すると、没個性の塊のような気がして、情けなくなった。

 結婚してからずっと…目立たないように、主人を引き立てるように…それだけをすべての選択基準にしてきた。
 仕方がない、これが今の私だから。それに…弘田さんが私のことを、個人的に何か思うなんて考えられない。

 光沢のあるグレイのスーツで現れた彼は、スマートだった。
 適度な気遣いと、わかりやすい仕事の説明…相手の立場、理解度を思いやれる人、という印象だった。
 なのに私は、彼の指や、首筋、唇ばかり見てしまって…一生懸命説明してくれているのに、申し訳ない…。

 彼は聞き上手で、仕事の話をしつつ私や主人のこともさりげなく聞いてきた。
 話しすぎないよう気をつけながら、当たり障りのない範囲でプライベートについて話す。私と主人が、仲が良いことも暗に仄めかして。

 間が悪くなる前に話を切り上げた。
「本日の件、主人に話しておきますね」と、一応言ったけど…話すつもりは毛頭なかった。

 宇丈さんの何に心惹かれたのか、ハッキリとはわからなかった。彼と会うためには、口実を作らないと会えないことに少し落胆しつつ、その日は帰った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

ハイスペ男からの猛烈な求愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペ男からの猛烈な求愛

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

処理中です...