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7章:ラプラスの悪魔はシュレーディンガーの猫の夢を見るか
第6話
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「あ、鳴海さんに桜さん」
「上小田井くんに呼続ちゃんか、合流できるとは思わなかったな」
「あ~、呼続ちゃん、綿あめに、キツネのお面? よかったね」
「う、うん。上小田井くんに、買ってもらっちゃった」
「うむ…綿あめをついばむ姿が、艶めかしいというか…」
「ちょっと、鳴海くん! 変な目で呼続ちゃんを見ちゃダメだからね」
「へ、変な目って…」
「えへ。呼続さんが今の体での生活に慣れるまでには、もう少しかかりそうですね。でも、それよりも崩壊フェイズの方が早いかもしれませんが…」
「上小田井くん、わたしは大丈夫だよ。わたしも…一度は、死んだ筈の身だから…。あ……」
「呼続さん、ごめんね、変なことを言っちゃって…。同人イベントでの事を、思い出しちゃだめだ…。ほら、これで涙を拭いて。ぼくが一緒にいるでしょ?」
「う、うん…。大丈夫…ありがとう」
「…上小田井くんの時間は、あと2時間くらいだよね?」
「ええ。なんとか、花火が終わるくらいまでは大丈夫だと思います」
「花火までは、まだ1時間くらいあるから、もう少し夜店を見てまわれるね」
「最後、お別れの時は、みなさんにご挨拶させてください」
「挨拶…って、そんな堅苦しくしなくても…」
「…ねえ、鳴海くん。上小田井くんとは、1年間のお別れになるんだよ?」
「それがどうし…あ…そうか。はは…そうだね」
「鳴海さん、ごめんなさい…」
「さようなら、なのは、むしろ僕たちの方なのか。ははは…。そうだね、最後、みんなでお別れしよう」
「ありがとうございます。あと、鳴海さん、もうひとつ、わがままを言ってもいいですか?」
「わがまま? もちろんいいよ」
「ぼくと、勝負をしてもらえませんか?」
「勝負…って、上小田井くんがめずらしい提案をするんだな。いいけど…何の勝負?」
「あれです」
「あれ…って、あのポスター?」
「はい。今、エントリー受付をしているみたいです」
「ええっと…。ん? eスポーツ大会だって? お祭りでやるの? そういう時代なのか…」
「勝負種目のゲームは、バディムスだそうです」
「落ちものパズルゲームか…」
「へ~、鳴海くん、面白そうだよ。頭を使うゲームでしょ? 上小田井くんと鳴海くん、どっちが賢いか、興味あるな~」
「いや、待て。さすがにちょっと自信がないぞ。そもそも落ちゲーはそんなに得意じゃない。マインスイーパー系ならまだしも…」
「どうしますか? やめておきますか? ぼくも、そこまで自信がある訳ではありませんよ」
「上小田井くんとぶつかる前に、予選で負ける可能性もあるしな…。いや…待てよ。挑戦する前に、順位を数値化して確認しておけば、負ける勝負をする必要は…」
「鳴海くん、それは卑怯だよ! 正々堂々と勝負しなきゃ」
「さ、桜にまた怒られた…」
「鳴海さん、どうしますか? やめておきます?」
「いや、いや、やるよ。そこまで上小田井くんに気を遣わせておいて、やめる訳にはいかないもんな」
「ホントですか? ありがとうございます」
「えへへ。上小田井くん、鳴海くんと勝負できるのがうれしいんだね。鳴海くん、わざと負けちゃだめだよ?」
「わかってるよ…。わざと負けられるほど器用じゃないし。ええと…大会のMCは高橋名人…か。どっかで聞いたことのある名前だな…」
「…誰だ? あの、『連鎖』の事を『連射』と言っているMCは」
「あ、豊橋さんに堀田さん」
「桜さんに、呼続ちゃん、2人きりなの? 鳴海くんと上小田井くんは?」
「みてくださいよ、ほら、あそこですよ」
「ほう。落ちものパズルゲームの大会に参加したのか。ステージの上にいるようだが、勝ち進んでいるのか」
「それが、今から決勝戦なんですよ」
「決勝戦だと? 鳴海と上小田井とでか…。ふむ。見ものではないか」
「あら、豊橋くんは、どっちを応援するの?」
「俺は誰も応援はしないタチだ」
「そう。じゃあ、どっちが勝つと思う?」
「バディムスはただの落ちものパズルではない。3次元で空間を捉える力が必要だ。頭の柔軟性では上小田井だろうが、ここは経験値が物を言う。ユークリッド幾何の問題を数多く解いてきた鳴海が有利だろう」
「なるほどね。なら、アタシは上小田井くんを応援しようかな」
「え~、堀田さん、一緒に鳴海くんを応援しましょうよ」
「だーめ。呼続ちゃんがかわいそうでしょ。ね?」
「わたしは、どっちも応援したいけれど…やっぱり上小田井くんに勝ってほしいかな」
「ふん。始まったみたいだぞ」
「鳴海くん頑張れ~!」
「面目躍如ってところではあったけれど…。これでよかったのかな?」
「鳴海くん、上小田井くん、2人ともお疲れ様。上小田井くん、残念だったわね」
「実は、それなりにやりこんでいるゲームだったので、自信があったんですけれど…えへ」
「ちょっと、鳴海くん! 上小田井くんは、まだ小学生なんだからね!?」
「さ、桜は誰の味方なんだよ…」
「鳴海さん、ありがとうございました。これで思い残しなく、量子コンピュータの稼働に専念できそうです」
「そう言ってもらえると…挑戦した甲斐があったというかなんというか…」
「できれば…1年後に、また勝負したかったです…。ぐすっ…ぐす…」
「お、おいおい…上小田井くん…」
「上小田井くん…かわいそうに…。やだ、アタシまでもらい泣きしちゃう…」
「ご…ごめんなさい…。ちょっと、色々と思い巡らしちゃって…。えへ…」
「…ねえねえ、呼続ちゃん。上小田井くんの事、抱きしめてあげて」
「え…? わたしが?」
「い、いいよ、呼続さん。は、恥ずかしいよ」
「…上小田井くん、抱きしめてあげるよ? ほら、こっちにきて…」
「う…うん…。ありがとう…」
「小学生の少年を抱きしめる、妙齢の女性…か。絵になるな」
「うむ。提灯明かりに浮かび上がる女と男。耽美的と言って良かろう」
「…下品な男たちは、ちょっと黙っていてくれるかしら…」
「上小田井くんに呼続ちゃんか、合流できるとは思わなかったな」
「あ~、呼続ちゃん、綿あめに、キツネのお面? よかったね」
「う、うん。上小田井くんに、買ってもらっちゃった」
「うむ…綿あめをついばむ姿が、艶めかしいというか…」
「ちょっと、鳴海くん! 変な目で呼続ちゃんを見ちゃダメだからね」
「へ、変な目って…」
「えへ。呼続さんが今の体での生活に慣れるまでには、もう少しかかりそうですね。でも、それよりも崩壊フェイズの方が早いかもしれませんが…」
「上小田井くん、わたしは大丈夫だよ。わたしも…一度は、死んだ筈の身だから…。あ……」
「呼続さん、ごめんね、変なことを言っちゃって…。同人イベントでの事を、思い出しちゃだめだ…。ほら、これで涙を拭いて。ぼくが一緒にいるでしょ?」
「う、うん…。大丈夫…ありがとう」
「…上小田井くんの時間は、あと2時間くらいだよね?」
「ええ。なんとか、花火が終わるくらいまでは大丈夫だと思います」
「花火までは、まだ1時間くらいあるから、もう少し夜店を見てまわれるね」
「最後、お別れの時は、みなさんにご挨拶させてください」
「挨拶…って、そんな堅苦しくしなくても…」
「…ねえ、鳴海くん。上小田井くんとは、1年間のお別れになるんだよ?」
「それがどうし…あ…そうか。はは…そうだね」
「鳴海さん、ごめんなさい…」
「さようなら、なのは、むしろ僕たちの方なのか。ははは…。そうだね、最後、みんなでお別れしよう」
「ありがとうございます。あと、鳴海さん、もうひとつ、わがままを言ってもいいですか?」
「わがまま? もちろんいいよ」
「ぼくと、勝負をしてもらえませんか?」
「勝負…って、上小田井くんがめずらしい提案をするんだな。いいけど…何の勝負?」
「あれです」
「あれ…って、あのポスター?」
「はい。今、エントリー受付をしているみたいです」
「ええっと…。ん? eスポーツ大会だって? お祭りでやるの? そういう時代なのか…」
「勝負種目のゲームは、バディムスだそうです」
「落ちものパズルゲームか…」
「へ~、鳴海くん、面白そうだよ。頭を使うゲームでしょ? 上小田井くんと鳴海くん、どっちが賢いか、興味あるな~」
「いや、待て。さすがにちょっと自信がないぞ。そもそも落ちゲーはそんなに得意じゃない。マインスイーパー系ならまだしも…」
「どうしますか? やめておきますか? ぼくも、そこまで自信がある訳ではありませんよ」
「上小田井くんとぶつかる前に、予選で負ける可能性もあるしな…。いや…待てよ。挑戦する前に、順位を数値化して確認しておけば、負ける勝負をする必要は…」
「鳴海くん、それは卑怯だよ! 正々堂々と勝負しなきゃ」
「さ、桜にまた怒られた…」
「鳴海さん、どうしますか? やめておきます?」
「いや、いや、やるよ。そこまで上小田井くんに気を遣わせておいて、やめる訳にはいかないもんな」
「ホントですか? ありがとうございます」
「えへへ。上小田井くん、鳴海くんと勝負できるのがうれしいんだね。鳴海くん、わざと負けちゃだめだよ?」
「わかってるよ…。わざと負けられるほど器用じゃないし。ええと…大会のMCは高橋名人…か。どっかで聞いたことのある名前だな…」
「…誰だ? あの、『連鎖』の事を『連射』と言っているMCは」
「あ、豊橋さんに堀田さん」
「桜さんに、呼続ちゃん、2人きりなの? 鳴海くんと上小田井くんは?」
「みてくださいよ、ほら、あそこですよ」
「ほう。落ちものパズルゲームの大会に参加したのか。ステージの上にいるようだが、勝ち進んでいるのか」
「それが、今から決勝戦なんですよ」
「決勝戦だと? 鳴海と上小田井とでか…。ふむ。見ものではないか」
「あら、豊橋くんは、どっちを応援するの?」
「俺は誰も応援はしないタチだ」
「そう。じゃあ、どっちが勝つと思う?」
「バディムスはただの落ちものパズルではない。3次元で空間を捉える力が必要だ。頭の柔軟性では上小田井だろうが、ここは経験値が物を言う。ユークリッド幾何の問題を数多く解いてきた鳴海が有利だろう」
「なるほどね。なら、アタシは上小田井くんを応援しようかな」
「え~、堀田さん、一緒に鳴海くんを応援しましょうよ」
「だーめ。呼続ちゃんがかわいそうでしょ。ね?」
「わたしは、どっちも応援したいけれど…やっぱり上小田井くんに勝ってほしいかな」
「ふん。始まったみたいだぞ」
「鳴海くん頑張れ~!」
「面目躍如ってところではあったけれど…。これでよかったのかな?」
「鳴海くん、上小田井くん、2人ともお疲れ様。上小田井くん、残念だったわね」
「実は、それなりにやりこんでいるゲームだったので、自信があったんですけれど…えへ」
「ちょっと、鳴海くん! 上小田井くんは、まだ小学生なんだからね!?」
「さ、桜は誰の味方なんだよ…」
「鳴海さん、ありがとうございました。これで思い残しなく、量子コンピュータの稼働に専念できそうです」
「そう言ってもらえると…挑戦した甲斐があったというかなんというか…」
「できれば…1年後に、また勝負したかったです…。ぐすっ…ぐす…」
「お、おいおい…上小田井くん…」
「上小田井くん…かわいそうに…。やだ、アタシまでもらい泣きしちゃう…」
「ご…ごめんなさい…。ちょっと、色々と思い巡らしちゃって…。えへ…」
「…ねえねえ、呼続ちゃん。上小田井くんの事、抱きしめてあげて」
「え…? わたしが?」
「い、いいよ、呼続さん。は、恥ずかしいよ」
「…上小田井くん、抱きしめてあげるよ? ほら、こっちにきて…」
「う…うん…。ありがとう…」
「小学生の少年を抱きしめる、妙齢の女性…か。絵になるな」
「うむ。提灯明かりに浮かび上がる女と男。耽美的と言って良かろう」
「…下品な男たちは、ちょっと黙っていてくれるかしら…」
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