間隙のヒポクライシス

ぼを

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5章:ある少女に花束を

第33話

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「…鳴海よ。今度は何が起こった」
「こ…これは一体…。い、いなくなった…。モヒカンも、目隠しの女の子も、魔法使いの女の人も…」
「よかった…。本星崎さんも、鳴海さんも、豊橋さんも無事でしたね」
「か…上小田井くん、一体…」
「鳴海さん。とりあえず、ぼくのスキルで、目の前の全員を消しました…」
「全員…って…」
「モヒカンのおじさん…目隠しの女の子…魔法使いのお姉さん…それから…伊奈さんの遺体です」
「そ…そうか…。そういう事だったのか。とりあえず…ありがとう。上小田井くん」
「なるほど。上小田井よ。お前のスキルは、巨視的世界のオブジェクトを量子的ゆらぎの状態にできる、だったな。奴らは今、確率としてこの場に存在しているのか」
「ええ…。でも…蒸発させられてしまった呼続さんと…神宮前さんは…どうしようもありませんでした。呼続さん…。呼続さん…うぅ…うぇええぇ…」
「…上小田井よ。呼続に関しては、心配するな」
「……え? 豊橋さん、それはどういう…」
「神宮前…。また僕は…神宮前を…結局、僕の力では…誰も救えないのか…」
「…鳴海くん。これ…。神宮前さんがアナタを助けようと駆け出した時に頭からはずれたシスター服のベール…。あなたが持っていてあげたら…?」
「え…ええ…。ありがとうございます。…ああ…まだ、温もりがある…神宮前…」
「ふん。シスターが欠けてしまっては、神父のコスプレも興ざめではないか。神宮前の奴め…」
「堀田さん…。神宮前は、ベールが外れないように、何箇所か髪留めで固定していたんですね…。神宮前の頭髪が、髪留めに何本か残っていますよ…。頭髪が…。ん…? あれ?」
「鳴海よ。どうした。神宮前の頭髪が気になるのか」
「いや…でも、そんなバカな…。髪の毛にはDNA情報がほとんど残っていないはず…。毛根が残っていたとしても…。いや、そもそもDNAが契機になっているかも解らないのか…」
「鳴海よ。なにをブツブツ言っている。気になる事があれば、共有しろ」
「あ…ああ、ごめん。一瞬、神宮前の頭髪に対して、寿命表示ができた気がしたから…」
「寿命表示だと? ふむ…。ありえん話ではない。もう一度確認してみろ」
「頭髪を?」
「それ意外に何がある。やってみろ」
「う…うん。えっと…。髪留めに残った神宮前の頭髪から寿命表示を…」
「豊橋くん、それってもしかして、神宮前さんが、髪の毛から生き返る可能性があるってことなのかしら?」
「あるいはな。鳴海の鑑定を待て」
「は…はは…あはは…」
「どうした鳴海。笑っていては解らん。情報を共有しろ」
「あはははは…。しょ、正直、どう反応していいかわからないや…。これは…どう扱っていいかわからないよ」
「鳴海くん、どうだったの? 神宮前さんは、生き返るのかしら…?」
「ああ…。まず、神宮前だけれど、僕のスキルでの寿命表示が間違っていなければ、生きている。神宮前は、生きている」
「やはりそうか…」
「神宮前さんが生きてる…。そう…。よかった…よかったわね…」
「堀田よ。喜ぶのは、まだ早い。鳴海よ。お前が狼狽している理由を話せ」
「ああ。話すよ。全く、なんて言っていいのか…。確かに神宮前は生きている。でも…でもだよ? 神宮前の寿命は……23億年だ」
「なんですって!? 23億…年? 鳴海くん、見間違いじゃないのかしら?」
「見間違いじゃない。何度も確認したから…。23億年…。ははは…地球の年齢の半分という途方もない長さだ…。太陽の残りの寿命の半分という、途方もない長さだ…」
「鳴海よ。寿命についてはわかった。では問おう。神宮前が再生するまでにかかる時間は何年だ?」
「あはははは…。何年、って年できいてくるところが、本当に豊橋の察しのよさだよな…」
「そんな事はどちらでもよい。何年だ。神宮前が再生するまでに、何年かかる」
「…12万年だ…。はは…」
「…ふん。なるほどな…」
「…確かに、手放しで喜んでいいか解らないわね…。再生に12万年、そして寿命が23億年」
「堀田さん、喜びようなんて、ないんですよ。だって、僕たちはどうあがいても100年も生きられない。なのに、次に神宮前に会えるのは12万年後なんです。これじゃあ、神宮前は死んでるも同然じゃないですか」
「そ…そうなるのね…。確かに…そうね…」
「もう…僕たちは…僕は、神宮前に会えないのか…。一生…絶対に、会えないのか…。どうあがいても…。そんなの…いやだ…。そんなのいやだ…うぅ…」
「鳴海くん…気持ちはよくわかるわ…。アタシも…悲しいもの…」
「…鳴海さん、みなさん、ぼくも、こんな事になって、本当に悲しいです。伊奈さんも、呼続さんも、神宮前さんも……。でも、今は悲しんでいる時間はありません。すぐにここを離れましょう!」
「上小田井よ。どうした。何を慌てている…? ……そうか、他に防衛省側のスキル者がいる可能性があるという事か。あるいは、ザンギエフの消失をトリガーに、隠れていた自衛隊が一斉に攻撃をしかけてくる可能性もある。伊奈が死んだ今、俺たちにそれを防ぐ手段は…ないというわけだ」
「いえ、豊橋さん。ぼく、さっき聞こえたんです…。あのモヒカンのおじさんが、300秒後にヘリコプターを会場に落とすように指示しているのが…」
「なんだと…?」
「ぼくのスキルで確率論の世界に消した人たちは、ぼくがスキルで観測しないと出現できません。だから…もし、ぼくが巻き添えで死んでしまうと、ぼくが消した人たちは永遠に確率の世界から出てくることができないんです」
「…ふん。笑えん冗談だ。ならば、お前がヘリコプター自体を確率論の世界に送ればよかろう」
「それができればいいんですけれど…。今のところ、ぼくのスキルでは、目視できる範囲にない対象物は、消すことができません…」
「堀田さん、豊橋、とにかく早く脱出しよう! おい、本星崎! 左京山さん! 早く建物から外に出るんだ! 桜とゴブリンを見つけたら、すぐに逃げるように言ってくれ! その他の会場の人たちも、できるだけ早く外にでるんだ! 会場が爆発するぞ!」
「…豊橋くん…変な音が聞こえない…? これって…」
「…遅かったな。ヘリが自由落下している音だ」
「みんな伏せろぉおおおお!!!!」
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