間隙のヒポクライシス

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4章:仮死451

第21話

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「種明かしだって…? そうだ…。肝心な事を忘れていた。僕らは、なぜ、自衛隊の襲撃を受けたのに、生き残る事ができたのかの理由を解明できていない…」
「そうだな。お前のスキルで確認した寿命によると、少なくとも自衛隊が突入する寸前までは、残り1分とか2分だった」
「そうなんだ。だから、もし僕らの未来を変えるような出来事が発生したとしたのなら、そのたったの1分とか2分の間の事象になるんだ。そんな短時間に、僕らの未来に対して、一体どんな干渉が…。ん? 豊橋…お前、もしかして…」
「気付いたか。その通りだ。その1分の間に干渉したのは俺だ。つまり、俺は、左京山に指示を出した」
「…そう。私は、豊橋にメッセージを送るように依頼された。でも、私も、どうしてそれで私達が助かったのかは、わからないわ」
「豊橋…。説明してくれ」
「説明…か。口で言うより、本人を呼ぶ方が早かろう」
「本人…だって?」
「おい、伊奈。そこにいるなら、教室に入ってこい」
「伊奈だと?」
「ご、ごめんなさいね。お取り込み中だったみたいですから、姿を現すタイミングを逸しましたの。み、みなさま…お久しぶりですわね」
「い、い、いな、伊奈さん…。ま、ま、まさか、ほん、ほ、本当に…。よ、よ、よかった…。ま、まだ、生きていたのね」
「ああ、本星崎サン。あなたこそ、無事でなによりですわ…」
「そうか…自衛隊が発砲できなくなったのは、伊奈のスキルのおかげだったのか…」
「ええ、発砲のエネルギーを、あたくしのスキルで、全て熱エネルギーに変換したんですの」
「ふむ。このあたりはゴブリンが詳しいだろうがな。自動小銃1発あたりのエネルギーが100ジュール程度だとしても、あれだけ連射すれば銃本体の温度が数百度まで上昇していても不思議ではあるまい。銃弾は発射されずに熱源になるのみだから、弾づまりを起こしたし、奴らの手袋が溶けて火傷を負う程に温度上昇した」
「理屈ではそうなのかもしれないけれど…考えれば考えるほど、恐ろしいスキルだな…」
「さて…種明かしは終わった。本星崎。俺たちには、お前を再び仲間として迎え入れる準備がある。同じ文藝部員という共通項もあるしな。だが、それにはお前にもう少しおしゃべりして貰わねばなるまい」
「…え、え、ええ…。わ、わか、わかってるわ…。な、な、なに、何から話せばいいかしら…」
「まずは、スキルについてだ。そもそも、スキルとはなんだ? なぜスキルが発現する。そして、なぜスキル発現者は防衛省に命を狙われる」
「ス、ス、スキル…ね…。しょ、しょ、正直に言うと…わ、わ、私にも、くわ、詳しいことはわからないの。で、で、でも、スキルについて、ぼ、ぼ、防衛省で、けん、けん、研究を続けていたことは、まち、ま、間違いないと思う…」
「スキルの…研究だって? 本星崎、それってつまり、スキルは人工的に発生させている、って意味なのかな?」
「た、た、たぶ、多分…。で、で、でも、何のためかは、わた、わた、私は知らない。ちゃ、ちゃ、ちゃんと、制御できてるようにも見えなかったし…」
「制御できない…か…。なるほどね…。考えうる仮説としては、任意の人員に任意のスキルを発現させて、超能力集団を作り、新たな軍事力として確保する…とかかな」
「オカルトだ。だが残念な事に、その可能性を俺たちは証明してしまっているというわけだ」
「鳴海くん、豊橋さん、それって、どういう事? もしかして、スキルを持った人たちを集めた軍隊を作ろうとしていた…とか?」
「正確には軍隊…ではないけどね。でも、その解釈で問題ないよ、桜」
「そっかあ…。まるで魔法使いの軍団だね」
「まさに魔法使いの軍団と称して誤りなかろう。スキルの多様性は最新鋭の軍事兵器よりも価値がある。近隣国家がスキルに対する対処法を持てなければ、これ以上の防衛力はあるまい。だが、解せん。俺たちは誰ひとりとして、スキル発現のきっかけになる経験を経ていない。なんらかの薬品を投与されるとか、脳の外科手術を受けるとかな」
「そ、そ、それ、それが、ふ、ふ、不思議なのよね…。た、たぶ、多分、あ、あ、あなたたちは、スキ、スキル発現の理由が不明だから、む、む、無条件に殺害対象になったんだと思う」
「ほう。本星崎よ。その言い方は、まるで、お前自身はスキル発現の理由が明確だが、俺たちはそうではない、と聞こえるではないか」
「豊橋クン、その通りですわ。本星崎サンとあたくしは、発現すべくしてスキルが発現していますの」
「…興味深い。続けろ」
「い、い、いな、伊奈さん…」
「本星崎サン、どのみちあなたも、防衛省側には戻れないですわ…。どちらにしろ長くは生きられないのであれば、こちらの方々と協力するのが得策だと思いますの…」
「…そ、そう、そうね…。ま、ま、任せるわ…」
「あたくしと本星崎サンは、もともと孤児でしたの。施設で育てられ、ある時、無条件に薬品を投与された…」
「薬品…か。それがスキル発現の条件だったというのか」
「信じがたいな…。物理の法則さえ捻じ曲げるようなスキルが、薬品をきっかけに発現するなんて」
「…その薬品がどういう来歴のものなのかは、当然、あたくしたちも知りません。ただ、スキル発現が確認された後は、色々と実験や調査に協力させられましたの。周りの子たちもみんなスキルを持っていたから、正直、その状況に疑問なんて感じていませんでしたわ…」
「なるほどね…。で、そこから、どういう経緯で君たちは現在に至っているんだ? 気を悪くしたらすまないけど、孤児がお嬢様学校に通っている、というのも、なんらかの理由があるんじゃないかと勘ぐってしまう」
「そうね…。そう思いますわよね。ええ。確かに、お嬢様学校に入れて貰いました。でも…高校に進学させて貰えたのは、本当に一握りのスキル者だけですの…」
「一握り…か。どういう人が、どういう基準で、その一握りに選ばれたんだ?」
「恐らく…ですけれど、彼らにとって価値のある、有用なスキルを発現した者を選定していたのだと思いますわ。リスクがあるのに、わざわざ高校へ通学させたのは、スキルのない普通の高校生たちの中に埋没できるか…つまり、スキルを抱えたまま、普通の生活ができるか、を調査したかったみたいですわ。お嬢様学校は、その観点では都合がよろしかったのでしょうね」
「埋没…。まさか、国民の中に、平常時から、有事に招集できるスキル者を紛れ込ませておく算段だったのか…?」
「鳴海よ。非現実的に思えるが、合理的だ。スキル者の統率さえとれていれば、徴兵制を敷くよりもよほど良い」
「い、い、いな、伊奈さんは、そ、その状況に疑問を感じて、に、に、にげ、逃げ出したの。ほ、ほ、本当は、わた、わ、私も一緒に逃げるつもりだったんだけれど…」
「本星崎サンは失敗して、彼らの監視が強化された…。折しも、あなたがたのような自然にスキルが発生するパターンが報告されましたから、本星崎サンはその対策に協力させられる事になった…というわけですの」
「で、で、でも…ほ、ほ、本当に、伊奈さんが無事でよかった…」
「左京山さんからの情報が、とても役にたちましたのよ…。左京山さんは…初めまして、でしたわね」
「…これでやっと、状況が飲み込めたわ。本星崎に言われて打ったメッセージ。ふふ…。私のスキルで人助けができたのなら、悪い気はしない」
「そうか…それで、国府の時にも、僕たちは助かる事ができたのか。誰に感謝を言っていいかわからないや。左京山さんかな。本星崎かな」
「鳴海くん…どっちにも言っておけば、いいと思うよ、あたし」
「ただ…。スキル発現者には、致命的な欠陥があったんですの…」
「ふん。なるほどな。それが、崩壊フェイズの存在か」
「ええ、その通りですわ。崩壊フェイズ…。スキル発現者は、なぜか、100日前後しか寿命がなくなってしまう。しかも、スキルを使うと、さらに寿命が削られていく…」
「それで、崩壊フェイズをパスする必要がある、という事だったのか…。国府の時にきいた、伊奈の言葉がここでようやくつながったよ」
「では、教えてもらおう。崩壊フェイズをパスするためには何をすればいい。少なくとも、お前たちは崩壊フェイズのパスを経験しているはずだ」
「…本星崎サン…」
「ほ、ほう、ほう、崩壊フェイズのパスの方法…」
「もったいぶる必要はあるまい。俺たちも、お前たちと同じリスクを背負っている。既に鳴海や左京山は、100日も寿命が残されていない。崩壊フェイズをパスする方法に関する情報を欲している」
「え、え、ええ…お、おは、お話ししなきゃね…。ぐすっ…。ぐすっ…。お、お話ししなきゃ…」
「本星崎…泣いているのか…? 崩壊フェイズのパスというのは、そんなにつらい事なのか…?」
「つらいもクソもなかろう。どのような方法であろうと、崩壊フェイズをパスできなければ死ぬだけなのだからな」
「豊橋…今、無理に聞き出す必要はないよ。もう色々と話してくれたんだ。時間をおいて、落ち着いてからでいい。本星崎も伊奈も、大切な仲間なんだから」
「大切な仲間…か。ふん。よかろう。そのかわり、鳴海よ。お前は全員の寿命に対して、責任をもて」
「あ、ああ…わかった。定期的に、ちゃんと確認をするよ」
「ぐすっ…ぐすっ…あ、あり、ありがとう…。お、お、落ち着いたら…ちゃ、ちゃんと、話すから…」
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