間隙のヒポクライシス

ぼを

文字の大きさ
上 下
25 / 141
3章:幼年期で終り

第5話

しおりを挟む
「で、今度は俺たちは、遊園地に付き合わされた、という訳か」
「いいじゃない、豊橋くん。アタシたち、一緒に遊園地なんて来たことないでしょ? 桜ちゃんは?」
「あたしですか? あたしは、ここの遊園地は小学生の頃以来かな~」
「鳴海くんと、どこかの遊園地に遊びに行ったことがあるかをきいたんだけど」
「え!? あ、そ、それはないです」
「豊橋にいちゃん、ここはただの遊園地じゃにゃーでよ。動植物園も併設しとるでよ」
「トヨハシさん、トコちゃんの言う通りなんですよ。動植物園の方がメインなんですからね」
「でも、おれは遊園地の方がいいな。動物園は遠足で何回も行ってるしな」
「ぼくは、むしろ植物園に行ってみたいかな。いつも動物園をまわったら、植物園に行く前に時間切れで閉園になっちゃうから…」
「ふん。どちらでもよかろう。どのみち俺たちの役割は子守だ。それより鳴海よ、教えてもらおう。何故、遊園地を選んだ」
「理由はシンプルだよ。単純にとこちゃんたちを誘いやすかった、という事もあるし、もし、とこちゃんのスキルが本物だった場合、自衛隊に命を狙われる可能性があるだろ? であれば、年齢層に幅がある多くの人が集まる場所の方が都合がいい。人に紛れやすいし、逃げやすい。とこちゃんの『心の中を覗く』スキルを検証するにも最適だ。サンプルが多いからね」
「なるほど。存外に合理的な理由だった。お前らしいチョイスだと言うべきか」
「最も心配なのは、とこちゃんのスキル発現が事実だったとして、崩壊フェイズまでの時間がどのくらいあるか、って事だ…。国府が生きていれば…」
「ふむ…。それが不明な限り、無分別に常滑にスキルを使わせるのは悪手だろう」
「鳴海にいちゃんと豊橋にいちゃん…。なんだか難しい事を考えてらっせるがね…」
「しまった、とこちゃんには、僕たちが考えてる事が読めてしまうんだ」
「鳴海よ。常滑には隠し事は無駄だ。とりあえず、スキルを無駄に消費させる事だけは回避するよう、言いつけるべきだろう」
「スキルってなんのことかね?」
「えっと…。つまり、とこちゃんの『心の中を覗く』超能力の事だよ。しばらくは、僕たちがとこちゃんにお願いした時以外は、使わないで欲しいんだけど、できるかな?」
「にいちゃんたちがお願いした時だけかね。そりゃ、でら難しいがね。何の気なしに、そこら中の人の心の声が聞こえてまうでかんわ」
「そうなのか…。僕たちが思っている以上に、無意識に発動できてしまうスキルなのか…。ということは、1回あたりの寿命への影響リスクは小さいんだろうか…」
「まあいい常滑。それでも、可能な限り人の心の中を読むのはやめろ。深い闇を抱えた人間もいるしな。犯罪を犯そうとしている人間をもし見つけても、お前にはどうにもできん」
「そ、それはそうだわ。わかったでよ。できるだけ人の心を読むのは気をつけるわ…」
「よし! じゃあ、遊ぼうよ! とりあえずみんなでミラーハウスに行こうよ!」
「ミラーハウスだって? その絶妙なチョイスが、桜らしいな…」

「は、は、はい。す、すか、スカイタワーの、さい、最上階から、もく、も、目標を目視で、ほ、ほそ、捕捉しました。え、ええ。例の高校生たちと、しょ、小学生たちです。い、いえ。ええっと…。いえ、じ、じぜ、事前に左京山さんから、きょ、共有されていた情報よりも、い、いち、1名足りないようです。はい? そ、そうですね…。こ、この、この距離からだと、す、スキル者の人数と内容の特定までは…。え、ええ。こ、ここを拠点に、ゆ、誘導指示を出します。は、はい。りょ、了解です。はい。はい? か、かん、観覧車ですか? た、たし、確かに、かく、確実な方法ですが…。い、いえ。わ、わた、私の顔は、しら、知られていません。わ、わかりました。も、もし、かれ、彼らが観覧車に向かう場合は…。はい。はい。わた、私が、た、単独でですか? え、ええっと…そ、そうですね…。だ、だい、大丈夫だと思います。はい? え、ええ…そ、それ、それなら…。りょ、了解です」

「あ~痛かった!」
「痛かった、じゃないよ。あんな子供だましのミラーハウスで、何回頭をぶつけてるんだよ」
「むう…ばかにされた…」
「桜ねえちゃん、さすがのうちらも、あのくらい簡単だったでよ」
「桜さん、ださいっす」
「サクラおねえちゃん、だいじょうぶ? ふふふ」
「がーん…。有松くんと呼続ちゃんにまでからかわれた…」
「さて…鳴海よ。桜を含んだ子どもたちに遊ばせる為に遊園地に来たわけではあるまい。どうやって常滑のスキルの検証をするつもりか、教えてもらうとしよう」
「ああ、もちろんだよ。確認には、観覧車を使おうと思う」
「観覧車か…。どういう算段か聞かせてもらおう」
「検証したいのは、大きく3つだ。ひとつめは、とこちゃんの能力が『過去も含めた他人の記憶を読んでいる』のか『リアルタイムな頭の中を読んでいるのか』。仮説としては後者だけれど、前者だった場合、僕たちが想定している以上にとんでもないスキルが発現している事になる。ふたつめは、とこちゃんが読む情報は『画像や映像』なのか、『文字や音声』なのか。今までのサンプルからの仮説としては、両方だ。そしてみっつめは『スキルがおよぶ距離感は、どのくらいの範囲か』。この遊園地の観覧車の直径は50mくらいだろう。もし、50m離れて読めるのであれば、かなりの範囲に適用できる事になる。この3つがわかれば、とこちゃんのスキル発現がほぼ確定するし、崩壊フェイズに至らない為の対策もしやすくなると思う。これを最小のスキル発動回数で検証する」
「なるほど。だが鳴海よ。お前のことだ。目的はそれだけではなかろう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...