間隙のヒポクライシス

ぼを

文字の大きさ
上 下
14 / 141
2章:時を賭ける少女

第4話

しおりを挟む
「国府チャン、ボクもオシッコ!」
「あ、神宮ちん。ありがとね、私のわがままに付き合ってもらっちゃって」
「ううん。ボクも楽しませてもらってるから大丈夫だよ。豊橋先輩はちょっとあれだけどね」
「うふふ。神宮ちんが豊橋せんぱいと言い合いしてるの、遠くから見ていて面白いよ」
「そ、そうなんだ…そう見えるのか…。ところでさ…国府チャン、鳴海先輩とのデート、楽しい?」
「うん! 私ね、今、すごく楽しい。こんな時間が終わらなければいいのに、いつまでも続けばいいのに、って思うんだ」
「そ、そっか…」
「でも、わかってるんだよね…。長くは続かないってこと…」
「それって、国府チャンの寿命の事…?」
「もちろん、そうだよ」
「…国府チャンは、鳴海先輩の事、どう思ってるの?」
「鳴海せんぱいの事? もちろん、好きだよ!」
「うっぷす…。そ、そうだよね」
「うふふ。神宮ちんが何を言いたいのか、わかってるよ。さっちんには、ちゃんと謝るつもりだし、今日のデートが終わったら、私、鳴海せんぱいを振るつもりだから」
「つ、付き合ってもいないのに、振られる鳴海先輩…かわいそう…」
「だから、もう少しだけ、夢を見させて欲しいんだ…私…」
「国府チャンの気持ち、なんだか解るな…ボク…。でも、鳴海先輩と豊橋先輩がきっと、国府チャンの事を助けてくれるよ。だからさ、死ぬことを前提に生きるのは、やめようよ…と気軽に言ってはいけない気はするけれど…」
「うふふ。ありがとう、神宮ちん。でもね…私、自分の超能力について、2つ気づいた事があるんだ」
「気づいた事…?」
「それがね、今、ここで鏡を見て、確証に変わったんだ…」
「それって…いい話? それとも、悪い話…?」
「う~んっとね。悪い話かな」
「そそ、そうなんだ…。あっ! 言いたくなかったら、言わなくていいよ。もし、ボクじゃなくって、鳴海先輩とかに相談したいんだったら…」
「うふ。気を遣ってくれてありがとうね。でも、神宮ちんに聞いてほしい。それから鳴海せんぱいに相談しよっかな…」
「わ…解った。うん…。じゃあ、教えてくれる? まず、ひとつめに気付いた事というのは?」
「ええっとねえ…ひとつめはね」
「うんうん」
「私…どうやらね…。数値化の超能力を使うのに、私の大切なものを使わなきゃいけないみたいなの…」
「大切なもの…って。カロリー、とかじゃないよな…」
「やだ、神宮ちんったら。うふふ! そうじゃないよ。えっとね…使わなければいけないもの、っていうのはね…私の、寿命」
「は?」
「だからね、私の、寿命なの」
「それって…つまり…。超能力を使う度に、国府チャンの寿命の数値が…減ってるってこと?」
「そうなの!」
「そうなの…じゃないよ。それって、大変な事じゃん! それで、2つめというのは…」
「ふたつめはねえ…。うん…。ええっとねえ…。ええっとぉ…。うぅ…ぐすっ…ぐすっ」
「ど、どうしたの…国府チャン…そんなに言いづらい事なの?」
「ふ…ふたつめはね…。わ、私…ほ…ほんとに…迂闊だった…」
「迂闊って…」
「わ…私の寿命ね…。85,521分って…」
「う、うん…」
「さ…逆さまだったの…」
「逆さま?」
「鏡に映った数字…逆さまだったの」
「逆さまだった…。あっ! 鏡だからか! そういう事なんだ…。そんな! じゃあつまり、85,521分じゃなくて、15,228分だったってこと?」
「うん…。でも今は、それから何回も超能力を使っちゃったから、もう10,000分を切っちゃってる…」
「こ…国府チャン…そんな…」
「う…うぅううぅぅぅううぅぅ…」
「と、とにかく皆のところに戻ろうよ」
「うわああぁぁあぁあああん! あああぁぁああああああん!」
「こ…国府チャン…。そうだよねえ…悲しいよねえぇぇ…。ボクも…悲しいよぉ…ぐすっ…ぐすっ。」
「おいっ! どうした? 大丈夫なのか!? 国府の泣き声が聞こえた気がするけれど」
「な、鳴海先輩…今、国府チャンを連れてトイレから出ますから!」

「なるほど…そういう事だったのか…」
「ふん。国府の数値化は、デジタルフォントでの表示だったという訳だ。興味深い」
「ね、ねえ鳴海先輩。10,000分って、何日くらいになるのかな…?」
「あまりはっきり言いたくないけれど…。約170時間。ほぼ1週間だ」
「おい、国府よ。お前が超能力を使うと、1回あたりでどのくらいの寿命が削られる事になる?」
「わ…わかんないです…。一応、私のできるかぎりで確認はしたんですけど…。バラバラなんです」
「バラバラだって? 使う度に同じ時間だけ減る訳じゃないのか…」
「法則は探せるだろうが、いくつかの精確な実験サンプルが必要だな。もし国府の寿命表示が正しいと仮定した場合、法則を確定する前に国府が死ぬ可能性がある」
「じゃ、じゃあ、国府チャンがいつ死ぬか解らないってことスか? それって、国府チャンを助ける時間が、もう残されていないって…そういうことスか…?」
「いや、それとこれとは話が別だ。まだ7日間近くあるなら、全然問題ない。僕と豊橋がいる限り、国府が死ぬ事は絶対にない。不確かな要素は、国府の超能力使用による寿命の減少幅だけなんだ。つまり、国府がこれから7日間、一切超能力を使わなければ、死のタイミングを正しく測定して対策ができる。むしろ、60日も思い悩んだり対策したりする必要がなくなった分、喜ぶべき状況だよ」
「鳴海よ。それは確かに合理的に思える。だとしたら、現段階の情報で考えうる国府の死因は何だ? 超能力を使うと寿命が縮む。あるいは、超能力を使わずとも、10,000分が経過すれば死ぬ。ここから導かれる死因が、俺の想定範囲を超えていると言わざるを得まい」
「寿命減少による死因なら、超能力の使い過ぎによる体力消耗とかだろうね。10,000分経過なら、それ以外の、事故とか事件が死因だろう。そして、この2つは相互に干渉し合う…。これが両立する条件とは…」
「ふん。人智を超えている。どちらにしろ、俺たちにできるのは、国府に今後一切の超能力を使わせない事と、できるだけ早いタイミングから国府の監視、監禁を開始する事だろう」
「そうか…そうだな…」
「オレ…なんて言っていいかわかんないよ…。コウちゃんは大切な調理部の後輩だしさ…」
「鳴海くん…国府ちゃんを死なせちゃ、いやだよ…?」
「とにかく、だ。今日、国府が死ぬ事はないよ。そしておそらく、この苦難を乗り切る前において、国府が高校生生活を楽しめる最後の1日のはずだ」
「さ…最後の1日…なんだ…私にとって…」
「はは。大丈夫だよ。だって、国府の寿命の数値化は、あてにならないだろ? どのみち、国府が本当に死に至る可能性は低いと思うよ」
「そ…そうですよ…ね…。鳴海せんぱい…」
「国府ちゃんは…どうしたいの? このまま、デートを続けられる?」 
「さっちん…。さっちんがよければ、私は…このまま、デートを続けたい…。だって、最後になるかもしれないんだもん」
「そっか…。そうだよね、国府チャン。うん、ボクも最後まで付き合うよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男子高校生の休み時間

こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

あしたのアシタ

ハルキ4×3
青春
都市部からかなり離れた小さな町“明日町”この町の私立高校では20年前に行方不明になった生徒の死体がどこかにあるという噂が流れた。

全体的にどうしようもない高校生日記

天平 楓
青春
ある年の春、高校生になった僕、金沢籘華(かなざわとうか)は念願の玉津高校に入学することができた。そこで出会ったのは中学時代からの友人北見奏輝と喜多方楓の二人。喜多方のどうしようもない性格に奔放されつつも、北見の秘められた性格、そして自身では気づくことのなかった能力に気づいていき…。  ブラックジョーク要素が含まれていますが、決して特定の民族並びに集団を侮蔑、攻撃、または礼賛する意図はありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜

green
青春
一ノ瀬財閥の令嬢、一ノ瀬綾乃は小学校一年生からサッカーを始め、プロサッカー選手になることを夢見ている。 しかし、父である浩平にその夢を反対される。 夢を諦めきれない綾乃は浩平に言う。 「その夢に挑戦するためのお時間をいただけないでしょうか?」 一人のお嬢様の挑戦が始まる。

処理中です...