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14章:「穴があったら入りたい」愚か者を俺は諭さなければならない。「穴はいれるものだ」と
第3話
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「なるほど、時間軸は違うと見えるな」俺は、スタジオに入るなり言った。「向こうの世界じゃ陽が落ちる時刻だったのに、こっちはまだ夕方前の明るさだ。もっとも、衛星の数が違うし時間の流れ方が同じとも限らんからなんとも言えないがな。おっと、土足厳禁だ。靴は脱いでもらおうか」
俺は躊躇なくテーブルの前まで歩を進めると、フロルに箱を置くように指示した。フロルは、部屋の状況に圧倒された様な表情を崩さないまま、箱を置いた。
「これが…聖域かあ」フロルが言った。「確かに、こんな空間は初めて見るよ」
「フロルよ、ここを聖域というのであれば、それは違うぞ」俺が言った。「ここは俺のAVスタジオであり、youtubeスタジオだ。メタファーとしてそれを聖域というのであれば、強ち間違いではないがな」
「確かに、人間やゴブリンの技術水準で作られた物とは思えない…」ミクルが言った。「調度品や指物ひとつとってもそうだし、この石板でできた本みたいな…こんな素材は、見たことがない…」
それはノートPCだ。
「好奇心は人類の文明を発展させる重要な要素だが、驚く様な事じゃない。俺は既に、スマホだってトランシーバーだって用いて来た。俺からすると、ナンジェーミンやビンラディンの魔法やミクルの占いの方が余程脅威に満ちている。そこはお互い様だろうな」俺はワイヤーで結ばれたノートPCを持ち上げると、ミクルに渡した。「さあ、これがエクスカリバーだ。そしてこの旅の集大成だ。これを抜けば、君の憐れで度し難い女勇者の肩書は、英雄としての栄光を手に入れる。多分」
ミクルは頷くと、神妙な面持ちでノートPCからUSBメモリを抜いた。緊張しているのだろう。手が震えているし、息が若干荒くなっている。USBメモリを抜くだけでここまで感情に起伏を及ぼす人間を俺は初めて見たぜ。
俺たちの後方でモーター音が鳴り、扉がロックされるのが解った。ミクルもフロルも、びくっとした。
「よし、いい調子だ」俺はミクルを落ち着かせる様に言った。「次は、そいつをこの箱に挿し込むんだ。言っておくが、それによって何が起こるのかは、俺にも解らない。幾つか仮説はあるが、最も有力な可能性としては『扉と穴の接続が切断され、向こうの世界では魔物が消えて平和が訪れる。だが、お前たち2人は違う。帰れなくなる可能性がある』。だから言っておく。これが最後のチャンスだ。特にフロルよ、お前がここに居なければならない合理的理由は、本来、ない」
俺の言葉に、ミクルとフロルは顔を見合わせた。そして、フロルは、強くかぶりを振った。コイツ、俺が言った意味が解っているのか?
「大丈夫だよ」フロルが言った。「ボクの事、ただの子供だと思っているかもしれないけれど、姉さんを護らなければならない使命はずっと理解してきたし」フロルは言葉を切ると、視線を逸らした。「ホントはね、ここまで一緒にこられるとは思っていなかったんだ。魔王が復活して、魔物が出るようになったって聞いた時から、姉さんを護って途中で死ぬ覚悟だったから。ずっと、そうだったから…」
「…なるほどな」俺は呟くようにフロルに言った。「恐怖に震えて眠れぬ夜も少なくはなかったに違いない」
俺は、ミクルと顔を見合わせた。ミクルは、勇ましく頷いた。そうか。救えぬ姉妹、もとい姉弟だ。
ミクルは、USBメモリを持ち直すと、『箱』のUSB端子に挿し込んだ。が、裏表が逆だ。裏返して挿し込み直した。違う、やっぱり元の方向が正しい。
箱に挿し込まれた瞬間、電子音が数回鳴り、アクリル越しにLEDが点灯するのが解った。箱に触れると、僅かに熱を持ち始めている。給電の仕組みは不明だがな。
次の瞬間、モーター音がして、扉のロックが外れた。つまり、USB側にも本体から給電がされている。
俺たちは身動きがとれず、互いに視線を送り合った。暫く、静寂がその場を支配した。
俺は、顎でフロルに指示をした。フロルは、頷くと扉の把手に手をかけ、ゆっくりと回すと、開けた。
そこには、あの『穴』の暗闇はなかった。だから、大橋さんもゴメちゃんもいなかった。あったのは、見慣れたシューズボックスと玄関の扉、それから…立ちすくむ、豊橋の三白眼だ。
俺は躊躇なくテーブルの前まで歩を進めると、フロルに箱を置くように指示した。フロルは、部屋の状況に圧倒された様な表情を崩さないまま、箱を置いた。
「これが…聖域かあ」フロルが言った。「確かに、こんな空間は初めて見るよ」
「フロルよ、ここを聖域というのであれば、それは違うぞ」俺が言った。「ここは俺のAVスタジオであり、youtubeスタジオだ。メタファーとしてそれを聖域というのであれば、強ち間違いではないがな」
「確かに、人間やゴブリンの技術水準で作られた物とは思えない…」ミクルが言った。「調度品や指物ひとつとってもそうだし、この石板でできた本みたいな…こんな素材は、見たことがない…」
それはノートPCだ。
「好奇心は人類の文明を発展させる重要な要素だが、驚く様な事じゃない。俺は既に、スマホだってトランシーバーだって用いて来た。俺からすると、ナンジェーミンやビンラディンの魔法やミクルの占いの方が余程脅威に満ちている。そこはお互い様だろうな」俺はワイヤーで結ばれたノートPCを持ち上げると、ミクルに渡した。「さあ、これがエクスカリバーだ。そしてこの旅の集大成だ。これを抜けば、君の憐れで度し難い女勇者の肩書は、英雄としての栄光を手に入れる。多分」
ミクルは頷くと、神妙な面持ちでノートPCからUSBメモリを抜いた。緊張しているのだろう。手が震えているし、息が若干荒くなっている。USBメモリを抜くだけでここまで感情に起伏を及ぼす人間を俺は初めて見たぜ。
俺たちの後方でモーター音が鳴り、扉がロックされるのが解った。ミクルもフロルも、びくっとした。
「よし、いい調子だ」俺はミクルを落ち着かせる様に言った。「次は、そいつをこの箱に挿し込むんだ。言っておくが、それによって何が起こるのかは、俺にも解らない。幾つか仮説はあるが、最も有力な可能性としては『扉と穴の接続が切断され、向こうの世界では魔物が消えて平和が訪れる。だが、お前たち2人は違う。帰れなくなる可能性がある』。だから言っておく。これが最後のチャンスだ。特にフロルよ、お前がここに居なければならない合理的理由は、本来、ない」
俺の言葉に、ミクルとフロルは顔を見合わせた。そして、フロルは、強くかぶりを振った。コイツ、俺が言った意味が解っているのか?
「大丈夫だよ」フロルが言った。「ボクの事、ただの子供だと思っているかもしれないけれど、姉さんを護らなければならない使命はずっと理解してきたし」フロルは言葉を切ると、視線を逸らした。「ホントはね、ここまで一緒にこられるとは思っていなかったんだ。魔王が復活して、魔物が出るようになったって聞いた時から、姉さんを護って途中で死ぬ覚悟だったから。ずっと、そうだったから…」
「…なるほどな」俺は呟くようにフロルに言った。「恐怖に震えて眠れぬ夜も少なくはなかったに違いない」
俺は、ミクルと顔を見合わせた。ミクルは、勇ましく頷いた。そうか。救えぬ姉妹、もとい姉弟だ。
ミクルは、USBメモリを持ち直すと、『箱』のUSB端子に挿し込んだ。が、裏表が逆だ。裏返して挿し込み直した。違う、やっぱり元の方向が正しい。
箱に挿し込まれた瞬間、電子音が数回鳴り、アクリル越しにLEDが点灯するのが解った。箱に触れると、僅かに熱を持ち始めている。給電の仕組みは不明だがな。
次の瞬間、モーター音がして、扉のロックが外れた。つまり、USB側にも本体から給電がされている。
俺たちは身動きがとれず、互いに視線を送り合った。暫く、静寂がその場を支配した。
俺は、顎でフロルに指示をした。フロルは、頷くと扉の把手に手をかけ、ゆっくりと回すと、開けた。
そこには、あの『穴』の暗闇はなかった。だから、大橋さんもゴメちゃんもいなかった。あったのは、見慣れたシューズボックスと玄関の扉、それから…立ちすくむ、豊橋の三白眼だ。
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