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第9章:抜けるAVを数多く作ってきた俺が抜くハメになるとはな。エクスカリバーを。

第5話

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「スライムって何を食うんだ?」ビンラディンが言った。
「殆どが水分みたいだから、水分補給が大切なんだろうね」ナンジェーミンは言いながらスライムの表面を撫ぜた。「はは、ベトベトしてるけど、なんだか可愛いね。友達になれそうだよ」
 俺たちは、エクスカリバーの許へ案内してくれるというスライムを借りた。気性が荒いものだと思っていたが、想定していた以上に賢いらしい。
「炎で一瞬の裡に蒸発させた奴がよく言うぜ」俺が言った。「子供の頃から大切に育てた豚を食わせる教育映画があったが、あれを経験した子どもたちがその後どんな死生観を持って人生を送っているのか興味に堪えない」
「スライムは草食だ」大橋さんが言った。「定期的な水分補給と、あとは木でも草でもやっておけばいい」
「見た感じ、目や口や鼻は見当たらないが…」俺が言った。「どうやって食うんだ? 溶かして食うのか」
「その通りだ。体液で消化して吸収する」
 フロルの服が溶かされた事を思い出した。あれは攻撃をされた、というよりも、食われかけた、という事なのか。草食という事は、あのまま放置しておいても、リンネルの服は食われてもフロル自体が食われる事はなかったかもしれないな。尤も、消化液で火傷くらいはしただろうが。
「名前は何にしようか」フロルが言った。「カナヤマは考えるの得意でしょ?」
 俺は笑った。
「いつから俺がそういう役回りになったのかは知らんが、長い旅路を帰還したスライムだ。名前くらい、既にあるだろう」
 俺の言葉に、大橋さんはスライムを連れたゴブリンに名前を訪ねた。そのゴブリンは、かぶりを振った。
「どうやら、彼らの中ではずっと『スライム』としか呼んでいなかったらしい」
 なんて薄情な奴らだ。俺たちだって、犬に対してイヌなんて名前を付けたりはしないぞ。まあ、長男に一郎、次男に二郎、ってのは近い感覚かもしれんが…。
「ね? カナヤマ、お願い」
「俺に付けさせると後悔するぞ」俺は言いながら、スライムの表面を指先で数回つついた。「スライム、と言えば、大抵の輩が思い浮かぶ名前は『スラリン』だ。これは犬で言うところの『ポチ』に相当する」
「スラリン!」フロルが言った。「いいね、とっても可愛い名前!」
 俺は喜ぶフロルを制した。
「残念だが、却下だ。スラリンという名前のスライムはありふれ過ぎている。もしお前が旅の途中で同じく飼いならされているスライムと出会い、そいつの名前もスラリンだったら、きっとがっかりするだろう。俺はそんなお前を見たくはないんだ」
 フロルは、え~、と呟いた。
「じゃあ、なんて名前にするの?」
 俺は頷いた。
「肝心なのは『あ、その手があったか』と誰もが気づくスレスレのラインを狙って行くことだ。だから、敢えて言おう」俺は咳払いをした。「そいつの名前は『ゴメちゃん』だ」
「ゴメちゃん?」
 フロルは訊き返すと、腑に落ちない表情で、数回、ゴメちゃん、ゴメちゃん、と口に出して呟いた。
「それだ、その感覚だ」俺が言った。「爆発的に膾炙されるコンテンツは、常にその『なんか腑に落ちない』共通感覚から始まる。何度も口にしているうちに、いずれ、これしかなかった、と思えるようになるさ」
「ゴメちゃん、ねえ…」
 フロルはスライムの頭?と思われる部分を撫ぜながら、ゴメちゃん、と呼びかけた。
「さて、食料その他の支度ができ次第出立したいところではある。幸い俺のスマホの充電もまだ暫くは持ちそうだし、モバイルバッテリーもそこそこ充電が残っている。いざとなればiPadもあるから、方位磁針の役割は最後まで果たせそうだ。勿論、エモいコンテンツを披露する事だってな」
「それなんだが、まずは中央府に向かおうと思う」大橋さんが言った。「方角が同じだ。つまり、エクスカリバー探索の途中に立ち寄る事ができる。それに、例の箱の話も気になっている」
「そうか、それは解せんな」俺が言った。「なぜ、エクスカリバーがゴブリンの繁栄域に極端に寄っている? もともとエクスカリバーはゴブリンが作り出した物だったのか? だとしたら、人間側の伝説なんてあてにならない。あまりにも装飾されすぎているんじゃないか?」
 俺の言葉に、大橋さんはニヤリと笑った。
「さすがに私もそれは解らないが、ゴブリンの祖先が作り出したのか、それとも人とゴブリンが共生していた時代の産物なのか。まあ、行けば解るさ」
 
 昼過ぎには一通りの準備を終え、俺たちは出発することにした。出しなに、チームゴブリンのリーダーが大橋さんに何やら情報共有を行った。大橋さんに依ると、中央府あたりは既に魔物の出現頻度が高くなっているから気をつけよ、との事だった。ゴブリンも国を上げて防衛を始めているっていう訳だ。然し疑問なのが、結局「魔物」とは何なのか、という事だ。今までの情報を俺なりに整理すると、少なくとも人間から見た「魔物」とは、ゴブリンやスライムを始めとした「何か正体が良くわからないけれど言葉が通じずに獰猛で襲ってくる物の総称」でしかないように思われる。例えばライオンが目の前にいれば、これも魔物の定義の範疇になるだろう。そして、この考え方はゴブリンから見ても同じ様だ。だから、ライオンは人間にとってもゴブリンにとっても「魔物」に含まれるだろう。となると、6世が心配していた流通のストップだの言っていた要因は、現在共通の話題になっている「魔物」ではなく、「魔物」の発生により活動範囲を広げたゴブリンやスライムだったのではないのか。とすると、俺たちが目的としている「魔王」は、人間やゴブリンの流通や経済を混乱させてカタストロフを導こうなんて魂胆がある訳でもない可能性があるな。更に言えば、俺たちはまだ件の「魔物」と出会ってすらいないから、そもそも魔王なんて復活しておらず、単なるマスヒステリーという結論の可能性もある。まあ、それならそれで、俺の知ったこっちゃない訳だがな。

「魔物についての情報は何か聞いたか?」
 歩きながら、俺は大橋さんに訊いた。ビンラディン、ナンジェーミンと話をしていたフロルが俺たちが今から開始する話題に耳を傾けた様に見えるのは、哀しき性というヤツかもしれないな。
 大橋さんは首肯した。
「彼らも実際に何回か遭遇したらしい。だが、少し説明が難しいというか…彼らも、魔物の実体は掴めていない様子だった」
「へっ」俺が言った。「自分たちが何度も出会った物が、何か解らないなんてな」
「私も聞いていてよく解らなかった。共通しているのは、空間を切り裂いたかの様に突如出現するらしい、という事だ。だが、魔物の姿は一定ではないらしい。虫や獣を思わせる造形の物もあれば、人の形をした物もあるとか…」
「まさに魑魅魍魎って訳だ。姿形が一定しないのは確かに理解に苦しむ。チームゴブリンの連中はその魔物をどういう基準で倒すべき敵だと判断したのか。そして、実際に倒せたのか」
「そこまでは私も深堀りして訊いていない。ただ、全員無事に帰還した、という事は、なんとかなったのだろうな」
 真理だ。そして、種族の違いで互いを魔物と呼びあって殺しては路銀の足しを盗みあうよりは、合理的に敵、モンスターと判断しやすそうだ。
「ボク達のチームにはデイーヌさんもジャレトンさんも居るから心強いけど、ボクの剣がどこまで役に立つのかはちょっと不安だな」フロルが言った。「だって、ボク、レベル1だよ」
「フロルよ、レベルは関係ない」俺が言った。「国家資格はある観点からは就職に大変便利だが、ある観点からは主催者側の利権と存続の為に存在している。それよりも自分自身の経験を信じろ。因みに、俺は既にどっちがデイーヌでどっちがジャレトンかなんて覚えていないし、興味がない」
「もう!」フロルが頬をわざとらしく膨らませて言った。「教えてあげないからね」
 ああ、そうしてくれ。
「今後魔物との戦いの機会が増えてくるとなると、今のうちに戦闘体形についてある程度考えておいた方が良さそうだな。少なくとも、攻撃系の人員はナンジェーミンとフロルしか居ない。ビンラディンはマゾの回復屋だし、ミクルは女勇者だけど丸腰の占い師だ。俺はしゃべり意外役に立たないからな。現代社会からなんらかの兵器でも持参して来られれば戦国自衛隊みたいに痛快だったろうに、残念だ」
「私は格闘術を少々」
 大橋さんが言った。
「なるほど、確かに大橋さんの体格で格闘技をやっていれば相当な戦力だろう」俺が言った。「で、格闘技のレベルはいくつなんだ?」
「レベルは確か15くらいまで認定して貰ったと思うが、そもそも人間世界の基準とゴブリン世界の基準は違うから、比較は出来ない」
「そうか。それを言われると、途端にナンジェーミンとビンラディンのレベル99が怪しくなるから、それ以上は訊かない事にしておこう」
 魔物の正体が明らかにならなければ戦術を立てるのは難しいが、ナンジェーミンに遠隔全体攻撃をさせて、フロルと大橋さんで個別に叩いていくやり方意外に思い浮かばない。魔物の発見については、ゴメちゃんに期待するとしよう。
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