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第7章:テンプレートに従うのがAVとラノベの鉄則だとして、それは俺の人生じゃない

第1話

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「さて、エモいパーティが編成されたところで、早速冒険に出かけよう」
 全員が揃い、各自装備品などの確認を終えたのち、酒場を出て、俺は全員に言った。
「出かけるのはいいけど、あてはあるの?」
 フロルがあどけない表情で訊いてきた。俺は腕を組んだ。
「ランボーはアーミーナイフの裏蓋の方位磁針で行先を決めた。ドラえもんは正解率75%の『尋ね人ステッキ』を使った。ロトの血を引く勇者たちは、村の人々から情報を集めた。そして俺たちは、ミクルの占いで行先を決める」
「おいおい、まてよ」ビンラディンが言った。「地図があるんじゃなかったの?」
「そうだよ。折角アトレーユ国王から授かりうけたんだよね」ナンジェーミンが言った。「活用しなきゃ」
「ミクルよ」俺はミクルに声をかけた。「お前の占いと、この小学生が書いたような地図の印と照らし合わせて、意見を聞きたい」
「まって下さいね」俺はミクルに地図を手渡した。ミクルは、目を細めてそれを眺めた。「…この地図だと、わたしたちの居場所がちょっと解りづらいかな…」
 そりゃそうだろう。縮尺がかなり小さい。 
「オレに任せて」ビンラディンがミクルの地図を覗いた。「こう見えて、交易商をしていた時代があるんだ。地図の読み方には慣れてるさ…」ビンラディンは顔を上げると、全員と視線を合わせながら「ごめん、やっぱり解らないや」と答えた。
「どいつもこいつも、地図が読めない男、地図が読めない女と来たものだ」俺が言った。「ここはひとつ、6世の言葉に従い、ミクルの占いをあてにしたい」
 俺は改めて、ミクルの方を向き直った。ミクルは少し考えるようにしてから、深く頷いた。
「簡易的な占いであれば直観力でなんとかなるんだけれど…」ミクルが言った。「きちんと行先を決めるなら、沐浴場でより正確な占いをしたほうがよさそうね」
「なんだって?」俺が言った。「占いに、簡易もクソもあるのか?」
「そりゃそうだよ」フロルが返してきた。「より確実な答えが欲しければ、きちんと準備しなくっちゃ」
「うれしいね」ナンジェーミンが言った。「ちゃんとやる占いなんて、なかなか見る機会なんてないからね。いい経験になるよ」
「ちょっと、何言ってるのさ」フロルがナンジェーミンに言った。「沐浴場でやるんだから、男人厳禁だからね」
 ナンジェーミンは残念そうな顔をした。コイツ、本当に興味だけで見たいと思っていやがったな。
 しかし、そうか。ミクルが占い師で女勇者である限り、男が入れない占いに付き合う必要のあるフロルは、やはり女として育てられる必要があった訳だ。
「ミクルの裸を俺たちが拝めないのは残念だが、その肝心な沐浴場はどこにある? 酒場にあるならルイーダに借りるだけだが」
「ある訳ないでしょ」フロルが言った。「公衆沐浴場に行けば、占い用の施設がある筈だよ。ちょっと、ルイーダさんに訊いてくるよ」
「あの女はルイーダってんじゃないぞ」
 俺が背中に声をかけると、フロルは振り向いて、べえ、と舌だけ出し、酒場に戻っていった。
 そうか。上下水道が発達している訳ではないから、一般家庭では無理って訳だ。とすると、川沿いか、温泉か、ってところか。もし温泉があるとしたら、この世界の地学は興味深い物になるだろうな。因みに、この世界でのトイレ事情については、いずれ機会があったら書く。

「で、こんな遠くまでやってこなければならなかったのか」
 俺たちは、町から川沿いに体感で10㎞程離れた沐浴場まで歩いてやってきた。
「仕方ないじゃないか」フロルが言った。「街中だと、外部からきた占い師に使わせてくれる場所がなかったんだから」
「女勇者の名が泣くな」俺が言った。「この調子だと、他の女勇者グループとも鉢合わせしそうだぜ」
「僕たちは何をすればいいかな」ナンジェーミンが、そわそわしながら言った。「手伝う事があれば力になりたいな。見た感じ、ここは無人みたいだし」
「川から水を汲んできて欲しいな」フロルが答えた。「それと、みんなはとにかく、外でこの辺りを確保しておいて。いつ魔物に襲われるか解らないからね。ボクは薪を拾ってくるよ」
 やれやれ。なんて面倒な占い師だ。これでは、しずかちゃんの為に風呂の準備をしているようなものだ。
 俺はビンラディンを引き連れ、川へ水を汲みに行くことにした。ナンジェーミンは沐浴場でミクルの護衛だ。
「これはチャンスだよ」ビンラディンが、革袋に水を入れながら言った。「だって、ミクルが沐浴するんだぜ? 例の、なんだっけ? カメラ? 回した方がいいんじゃないの?」
「そうだな…」俺は考える様に言った。「確かに、カメラの概念が理解できてなければ、何も警戒はされないだろうな。だが…同意なしでやるのは俺の流儀に反する。やるときは、きちんと契約書にサインをしてもらう」
「なら、やっぱりフロルちゃんの方がいいな。ミクルよりは簡単に引き受けてくれそうじゃない?」
「その辺りの首尾は俺に任せておけ。旅は長い。まずは口を閉じて、水を汲む事だ」

 かなりの回数を往復して、沐浴場の大理石をくり抜いた風呂桶が満杯になった。綺麗に掃除をされている所を見ると、この沐浴場、そこそこの頻度で使用されているようだ。あとは火をくべる感じか。寧ろ、俺たちも風呂に入りたいところだ。
 水汲みを終えて手ごろな石に腰かけた時、遠くから、かすかに叫び声が聞こえて来た。
「今、声が聞こえなかった?」ナンジェーミンが言った。「ほら」
「…フロルかしら」ミクルが心配そうに言った。「ひとりで薪拾いに行ったから」
 声が…聞こえてくる。確かに…フロルだ。
「まずいぞ、何か魔物にでも襲われたか?」
「単純に狂暴な動物の場合もあるよ」ビンラディンが言った。「早く行ってあげないと」
「ナンジェーミン、お前の力が世界の為に役立つ時が来た。攻撃魔法が必要だ。ついてこい」
 俺とナンジェーミンは、声のする森の方へ分け入っていった。フロルは結構奥深くまで薪を探しに行ったらしい。
 やがて、フロルの姿が視界に入ってきた。フロルは、数匹の魔物と対峙していたが、そのうちの一匹にすでに絡みつかれていた。
「なんだ、ただのスライムだね」ナンジェーミンが落ち着き払って言った。「大丈夫だよ、このくらい、フロルちゃんでも簡単に対処できるよ」
「そうか。それは耳よりな情報だが、明らかにフロルはもがいているぞ。それに、なんだあれは」スライムの体液がフロルの衣服に沁み込んでいくし、少しずつ穴が開き始めている。「こいつの体液は強い酸性なのか? 服が溶け始めているぞ」
 まずいな。このままだと、フロルが男である事がナンジェーミンにばれてしまう。変態どもだから、男だと解ったところで支障はないかもしれないが、AV撮影を旅の目的に置いちまってるから、下手にばれるのは悪手というものだ。それに、フロルのキレイで長い髪が、スライムの酸で坊主頭になられても興醒めだ。
 俺は急いでフロルに駆け寄り、スライムを足で掻きよけると、抱きかかえてやった。スライムのベトベトが俺の体にもまとわりつく。ナイロン素材を舐めるなよ。
 俺はぐったりしたフロルをナンジェーミンの許に連れて行った。
「ナンジェーミンよ、お前の攻撃魔法でこのスライムをなんとかしてくれ」
「ええ?」ナンジェーミンが言った。「それはまずいよ。だって、フロルちゃんも大怪我しちゃう。レベルが高すぎるからね」
「大怪我? なぜ?」
「僕の魔法で、スライムに例えば熱を吹き込んだとすると、フロルちゃんもその熱にやられちゃう。逆に、熱を奪って凍らせたとしても、フロルちゃんも凍ってしまうよ」
「なんてこった。この世界じゃ、スライムが最強のモンスターって訳だ」
 言っている傍から、フロルの衣服が溶けていく。
「このままじゃ裸になっちまう」
 俺はフロルを抱えたまま、沐浴場に走った。そして、驚く表情のミクルとビンラディンを尻目に、水を溜めた風呂桶にフロルを突っ込んでやった。それから、前回使った奴らが残していった薪の灰を手で掴むと、水の中に放り込んでやった。すると、スライムは水に溶けだして霧散した。へっ。結局、化学の勝利って訳だ。魔法でも何でもない。ただ、スライムは中和されて死んだ。
 幸いな事に、フロルには大した怪我はなかった。溶けた衣服から、細く白い太ももや、まな板の胸許が露わになったくらいだ。大事な所はちゃんと隠れてる。よかった。
 ミクルは、俺たちを外に追い出すと、沐浴の水でフロルを綺麗に洗い、ミクルの替えの服をあてがってやったらしい。ビンラディンが、また水を汲みに行くのは面倒だ、とぼやいた。お前はぼやいている暇あったら、回復魔法使ってやれよ。
 沐浴場から出て来たフロルは、少し大きいミクルのワンピース状の服を着て出て来た。地味な服だが、返って、より女っぽく見える。サイズの違いを気にしているのか、フロルは暫く、恥ずかしそうにしていた。
「路銀は大量にある」俺が言った。「お前の好きな服を、街で買ってやるさ」
 
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